千葉市  「夏インターンシップは参加必須」の違和感

千葉市    「夏インターンシップは参加必須」の違和感

6月中旬、千葉市にある大規模コンベンション施設「幕張メッセ」には1万人を超える大学生が集まり、賑わいを見せていた。リクルートキャリアが主催する2020年卒の学生に向けたインターンシップのイベントで、今年最初の都心開催。私服の学生が多く、スーツの学生は2割くらいだろうか。友人同士での来場も多い。

「え? ! その黒染め自分でやったの?」「そう、かなりきれいじゃない?」「あ、やべ。来週までのゼミの課題……」「とりあえず今はその話をするのはやめて」――。JR海浜幕張駅から会場へ向かう歩道では、まだ就職活動に染まっていない初々しい会話が、あちこちから聞こえてきた。
インターンシップは就業体験の場と位置付けられているが、学生の考えは異なっている。明治大学の女子学生は「今日が私にとっての就活スタート。金融に興味があるが、食品など幅広く業界を見てみたい」と意気込む。また帝京大学の男子学生は「先輩から就活は初動が大事と聞いた。今日は住宅など9社からインターンシップの説明を聞き、2、3社に応募しようと思っている」と話してくれた。

■中途半端なインターンシップ活動で失敗
このように夏のインターンシップへの参加は、当たり前のような風潮にある。しかし、「なぜ参加するのか」という目的があいまいな学生は少なくない。何のメリットがあり、どうすれば実りある時間を過ごせるのか。今回、4月に入社した先輩や専門家の意見をもとに、「インターンシップが重要な理由」を明らかにしていきたい。

「正直に言って、私の就活は失敗でした」。絞り出した言葉に苦渋の色がうかがえる。石元洋介さん(仮名)は、この4月に中央大学を卒業し、あるインフラ企業に入社した。
入社後3カ月といえば、新卒社員の多くはすでに配属が決まり、さあここからと意気込む時期だ。しかし石元さんは早くも転職を意識している。この「ミスマッチ」はなぜ生じてしまったのか。石元さんは「就活でインターンシップをもっと有効活用すべきでした」と唇を噛む。

石元さんは大学3年生の9月下旬に、運送会社のインターンシップに1度だけ参加した。内容は終日のワークショップで、「これでは就業体験にならない。時間のムダだ」と意義を見出せなかった。

それ以降、石元さんはインターンシップへの参加を敬遠した。「当時は熱心にインターンシップへ足を運ぶ友人を鼻で笑ってもいました」。そうこうしているうちに、企業が広報活動を開始する翌年3月を迎え、就活が本格化。石元さんは7社の選考を受け、5月に第2志望だった現在勤める企業に内定して、就活を終えた。

インターンシップに参加せずとも、第2志望の企業に入社できたのだから、一見、就活は成功したように見える。ところが石元さんは、入社後すぐに悲惨な現実に直面した。「社風や職場環境がまったく合わないのです」。
入社前、この状況は、想定できなかったのか。石元さんは「選考で企業がアピールする謳い文句と、現実には大きなギャップがあった」と指摘する。石元さんの場合、「ITを駆使した業務効率化が業界内でも進んでいる」という人事の説明に心惹かれて入社を決めたが、現実はまったく違った。

「ITのシステムは導入しているものの、使いこなせる人がいない。職場の平均年齢は高く、旧態依然としている。そのため上司の指導も理不尽に感じることばかり」(石元さん)という。
■企業の謳い文句と現実との大きなギャップ

石元さんは「インターンシップの場を活用して、もっと社員に会っておけばよかった」と後悔を口にする。「私の場合は、幅広く業界や企業を検討することもなく、本選考を迎えてしまった。選考が2次面接、3次面接と進んでいくと、嬉しくもなり、どのような社員が働いているのか確かめる発想もなかった」という。

この反省から、これから就活を迎える後輩には、こうアドバイスを送る。「業界を絞らずにインターンシップに応募してみてほしいです。落ちてもまったく問題はない。向き不向きは、実際に入社してみないと分からない部分もありますが、まずは行動することです」。さらにこうも続ける。「と、言われても、私が学生だったらそんな話に耳を傾けないでしょうけれどね。痛い目に遭わないと気づけないのが難しいですね(笑)」。

石元さんのように入社後に後悔しないために、インターンシップをうまく活用したいものだ。そこで学生からインターンシップに関する疑問や悩みを募集し、その解決方法について、就活の専門家であるリクルートキャリア就職みらい研究所の増本全主任研究員に聞いた。

最初に出てきたのは「“夏のインターンシップへの参加は必須”とする機運に、私は違和感を覚えます」という意外な言葉だった。

理由は、留学や部活動など、学生だからこそできる経験をなおざりにすべきではないからだ。「人生において貴重な経験であると同時に、自分を磨く機会でもある。就活でも『学生時代に力を入れたこと』は面接で問われる」と語る。
しかし同様に、インターンシップで定職に就く前に社会を覗けるのも、学生の特権だと指摘する。「そのうえで、『就活に有利になるから』でなく『自分に合ったキャリアをじっくりと調べるため』に、インターンシップは効果的だと思います」(増本主任研究員)という。

夏季休暇は物理的に使える時間が長く、長期インターンシップを実施する会社も多い。一方、秋や冬の時期のインターンシップは、講義や後期試験とも重なり、慌ただしい時間を過ごすことになる。腰を据えて将来のキャリアをじっくり考えるには夏はいい時期だといえるだろう。
■職選びには、家選び以上の情報収集を

寄せられた質問を見ると「そもそもやりたいことが見つかっておらず、どの業界のインターンに参加すればいいかわからない」という学生が少なくない。

「やりたいことは『知っていること』の中からしか生まれません。まずは情報を集めましょう」と増本主任研究員はアドバイスする。知らなかったことを知ることで、やりたいことが見えてくるというのだ。

「例えば家を購入するとします。そうなれば、パンフレットを取り寄せたり、実際に見に行ったり、納得のいくまで調べるでしょう。住環境や交通アクセス、間取り、価格……人それぞれこだわるポイントも違うはずです。では職の選択はどうでしょう。人生への影響度の高い重要な意思決定であり、多種多様でもあります。だからこそ、自分の判断基準を明確にするために、とことん情報を集めるべきなのです」

質問として多いのが、長期と1日開催のような短期とでは、どちらのインターンシップに行くのがいいのか悩むケースだ。しかし、増本主任研究員はどちらかを選ぶのではなく、長期と短期の「両取り」を勧める。

「それぞれ役割が異なり、長期インターンシップが『深さ』を、短期のインターンシップが『広さ』を担保する設計だからです。長期だと、会社での主要実務を経験でき、場合によっては、社員と営業先などに同行できることもあります。学生にとってもスキルアップでき、適性を見極めるいい機会となる。一方、1日程度のインターンシップは、短時間で会社を理解できるため、同業種の競合数社を比べる際に適しています」。
もう1つ、悩みとして多いのが、「インターンシップ選考落ち」のリスクだ。インターンシップの選考に落ちれば、「採用基準に達してないから」と判断し、本選考でも採用されることはないと考える人が多い。しかし、増本主任研究員は、それは杞憂だと言い切る。

「インターンシップは本選考よりも合格枠が少ない場合もあります。枠が限られていながら、ネットで気軽に、かつ大量にエントリーできるため、倍率は跳ね上がります。誤解を恐れずに言えば、落ちて当たり前なのです。インターンシップに参加する目的は、選考レースの勝ち負けではないはずです。なぜあえて、倍率の高いインターンシップにだけ挑んで、結果に一喜一憂するのでしょう。選考のないインターンシップでも、経験は積めます」
実は企業側も悩んでいる。インターンシップの選考で不合格になった学生が、本選考を受けてくれないことに対し、頭を痛める声が出ているという。「インターンシップ参加者だけで採用枠を埋める企業はほとんどありません」(増本主任研究員)。

こうしたインターンシップの重要性を理解したうえで、では、効率的に活用するために、現場では何をすればよいのか。

■社風、評価、働き方・・・何を判断基準にするか

「複数の中から、行きたい会社や業界を選ぶうえで、自分が大事にしたい基準を持っておくことは大切です。『社員の会話から見える社風』『評価の方法』『働き方』など何でもいいのです。後から見返して比較するために、共通でチェックする項目を作り、できれば点数化するといいでしょう」と増本主任研究員。そして、気をつけることとして、「目的を持つこと」の重要性を説く。

「インターンシップの中にも、合う、合わないがあるため、過度に期待せずに参加してみるのがいいと思っています。ただ、学生の参加が一般化したことで、企業は目的もなく何となく来た学生は、すぐに見極められます。企業も、時間と労力をかけて実施しているため、遊びではありません。場合によっては、インターンシップでの態度で、評価を下げることもありえます。学生もインターンシップの場を有効に活用するため、目的をもって臨んでください」(増本主任研究員)。
売り手市場の加速が予想される2020年卒の就活。企業はいち早く学生に接触できる場として、ますますインターンシップを重宝するだろう。同時にそのあり方が学生を惑わせているのも現実だ。

東洋大学に通う男子学生が「インターンシップ経由で内定を取った先輩が何人もいる。採用につながっていると考えるようにする」と話す一方で、立教大学の女子学生は「まずは業界を知りたい。インターンシップの時点で企業が合否を出すのはフライングに見える」と吐露する。
社会を知る手段はインターンシップだけではないし、実施の意図も企業によってまちまちだ。しかし、難しく考えず、企業が進んで場を提供するチャンスを活かしてみるのもいいだろう。今この時期に何を知りたいのか。目的次第で就活の意義は生まれるはずだ。