疑え「仮想通貨はもうかる」

疑え「仮想通貨はもうかる」

インターネット上の電子データを独自のお金とする「仮想通貨」。手数料の安さもあり、送金や決済の新たな手段として利用が広がる一方、投資目的での購入を巡るトラブルが相次いでいる。国民生活センターが集計した2016年度の仮想通貨に関する相談は計634件で、14年度の3倍以上に急増した。「必ずもうかる」という甘い誘いには注意が必要だ。
●投資トラブル急増
「A社の仮想通貨を購入すれば、半年で価格が3倍になる」。東京都内の30代男性は昨年夏ごろ、友人の知人からこう持ちかけられた。「購入後、一定期間内に売却すれば販売元が買い上げるから(危険はない)」と勧誘され、心が動いた。説明された通り、ネット上の手続きをとり、代金200万円を銀行口座に振り込んだ。
しかし、言われた通り売却しようとしても、できなかった。「買い取る」と聞いていた販売元は対応を拒否。多数の売り注文に対して買い注文がなく、売れない状態が続いているという。
国民生活センターによると、ここ数年、全国の消費生活センターに、こうした相談が急増。1件あたりの平均支払額は約250万円に上る。各年代から被害が出ている。70代が23・6%と最も多いが、現役世代も注意が必要だ。
●決済での利用拡大
仮想通貨とはどのようなものか。インターネット上で送金や決済に利用される電子データで、世界中の交換業者を通じて円やドルなどと交換できる。一般の通貨は国家を後ろ盾にした中央銀行が発行するが、仮想通貨は発行主体がない。銀行のシステムを介さないため、国をまたぐ取引が短時間にでき、手数料もほとんどかからない。お金の未来を変える可能性もあり、投資家の注目も集まっている。
世界には数百種類もの仮想通貨が存在するとされる。取引量が圧倒的に多いのが「ビットコイン」。14年に交換業者の一つ「マウント・ゴックス」(東京)が経営破綻し、日本でも認知度が高まった。
一方で、取引の匿名性が高く、マネーロンダリング(資金洗浄)に悪用される懸念もある。そのため、利用者保護やマネーロンダリング防止を目的に改正資金決済法が4月から施行された。交換業者を登録制にして金融庁の監督下に置き、ルール整備や安心感の確保につなげていく。
「法改正で仮想通貨への信頼度が増し、決済手段としての利用はさらに拡大する」と話すのは、仮想通貨を巡る法律問題を扱う「みずほ中央法律事務所」(東京)の三平聡史弁護士。家電量販大手ビックカメラの一部店舗では4月から、ビットコインによる支払いができるようになった。訪日外国人客の増加が背景にあり、ビジネスで導入を検討する小売業者からの法律相談が増えているという。
●金商法の対象外
だが、ブームになっているから、投資対象にふさわしいとは限らない。「需要が高まるから、必然的に価値も高まる」と勧誘され、つい信じてしまう人もいるようだ。三平弁護士は「仮想通貨の価格は世界情勢に大きく影響され、株や不動産に比べて変動が激しい。一般の人が投資目的で購入するにはリスクが大きい」と話す。さらにA社のような悪質な商法もでており、「必ずもうかると断言するのは詐欺行為。将来的な値上がりを強調する業者も、まず信用できない」と忠告する。
また、株式などの金融商品は、投資者保護を図るため、金融商品取引法で販売業者に投資リスクの説明を義務づけている。しかし、仮想通貨は対象外だ。三平弁護士は「いま最もだましやすい手段」とも指摘する。
契約トラブルや詐欺被害に遭わないためにはどうしたらいいか。金融庁は、改正資金決済法による登録業者かどうかを確認し、仮想通貨の特性やリスクが理解できなければ契約をやめるよう呼びかけている。