松戸市   【100回目の夏 白球を追って】

松戸市

<千葉>4校連合1勝へ全力 距離、時間…壁乗り越え 関宿・清水・流山・船橋豊富 【100回目の夏 白球を追って】

臨時部員を募れば単独での出場も可能だったが、あえて苦楽を共にしてきた他校との夏を選んだ。きょう11日開幕の第100回全国高校野球選手権記念西千葉大会に、清水(野田市)、流山(流山市)、船橋豊富(船橋市)との連合チームで出場する関宿(野田市)。「本当に野球が好きな仲間と勝利をつかむ」。4種類のユニホームに身を包んだ15人が、悲願の1勝を懸けた戦いに挑む。

「そんな甘い動きじゃセーフになっちまうぞ!」

決して活況とは言えない放課後のグラウンドで、泥まみれになった8人の野球部員が必死にノックのボールへ食らいついていた。

千葉県最北端の街・関宿。田園風景が広がるのどかな地域に位置する関宿高は、全校生徒約260人の小規模校だ。経済的な理由でアルバイトにいそしむ生徒が多く、部活動の加入率は50%以下。

部員は3年生4人、2年生1人、1年生3人。慢性的な部員不足に悩まされ、公式戦は連合での出場が通例となっている。主力として活躍する田中直樹主将(3年)は「ここ数年、公式戦での勝利から遠ざかっている。とにかく1勝することが目標」と強調する。

「助っ人を頼んで単独出場する道もあった」と明かすのは、就任3年目の清水琢矢監督(27)。だが、清水、流山、県立松戸(松戸市)と共に出場した春季大会後のミーティングで、選手たちは迷わず連合で戦うことを選択した。「高校野球の世界では、学校も保護者も自治体も、単独出場にこだわる。でもあの子たちが重視したのは野球と真剣に向き合うこと。『学校が違っても、野球が好きで、野球部として頑張っているヤツと一緒に夏を過ごしたい』という気持ちが何より強かった」(清水監督)

一方、千葉県内最多の公立4校が手を携える連合チームには、障壁も多かった。3市にまたがる各校の距離は最長で約40キロ。学校行事や授業時間はバラバラで、ただ1人の野球部員として活動する船橋豊富の1年生・武藤陸選手は午前4時に起床して練習に向かうことも。疲弊しきっていた時期もあったという。

これまで幾度となく連合を組んだ流山、清水の3年生とはチームメートとしての意識が芽生えていたが、田中主将は「他校と組むことに不慣れな新入部員は、打ち解けるまでに時間がかかっていた」と打ち明ける。野球の話で盛り上がったり、冗談を言い合ったりしながら、和やかな雰囲気づくりを徹底した。

それでも「やっぱり、強豪校のようにはいかない」(清水監督)。グラウンドには夜間照明がなく、冬期の練習時間は短い。予算も限られているため、メンバーの多くは年末年始のアルバイトで稼いだ給料を遠征費やグローブ、スパイクなどの購入費に充てるという。

部員の家庭事情もさまざまだ。関宿の尾形一輝(2年)・拓海(1年)兄弟は、3年前に母親をガンで亡くした。以降、毎日交代で小2の妹を迎えに行き、洗濯や食事作りをこなしている。拓海選手は「練習に参加できないことも多いが、大好きな野球を諦めたくなかった」と胸の内を語る。兄の一輝選手は秋以降、唯一の2年生としてチームを引っ張ることになるが、「家でも部活でも、お兄ちゃんを支える。兄弟で戦う夏の大会を、お母さんに見せたい」とほほ笑む。

練習後にメンバー同士で行うストレッチは、冗談を言い合うなど和気あいあい=野田市の千葉県立関宿高校
初戦は15日。対戦相手は県立柏(柏市)-市立船橋(船橋市)の勝者。強敵だ。田中主将は「どんな相手でも対等に戦う。『弱小』『どうせ勝てない』と言われるけれど、僕らにもプライドはある」と笑うが、「連合でもやれる、勝てるということを証明するために3年間やってきた」と意気込む。学校、学年、地域の垣根を乗り越えて迎える節目の夏。運命の一戦は、もう目の前だ。