千葉市    幕張メッセ163

千葉市          幕張メッセ

             千葉市美浜区中瀬2-1

サイボウズ青野社長「働き方改革は社員の生産性より幸福度」

 

働き方改革の先進企業として注目されるサイボウズ。そのプライベートショー「Cybozu Days」は、すでに福岡、松山での開催が終了し、11月7、8日には幕張メッセ(千葉市美浜区)でCybozu Days Tokyoが行われた。多彩なゲストスピーカーで大いに盛り上がった2日目の講演の模様を紹介する(関連記事「サイボウズ青野社長が語る 『多様化時代』の企業改革と人材活用」)。

●社員の生産性よりも幸福度を上げる

まずは基調講演。サイボウズの代表取締役社長の青野慶久氏が2人のゲストを招いて幸福について語り尽くした。

登壇した青野社長は、「あらゆる情報を共有して、チームワークあふれる社会にしたい」と自社の理念を宣言。加えて、チームワークを強くするには社員一人ひとりの多様性を認めることが大切とし、「公平は幸せではない」という持論を語った。

現在、たくさんの企業で働き方改革の「公平なルール」として、社員に早く帰宅することを求めている。だが、人によっては早く帰るよりも、午前中を休みにして夜ゆっくり仕事がしたい人もいるはず。そもそも社員の多様性を尊重すれば、午前中しか働けない人や在宅勤務の人とも一緒に働くことになる。

そうなると「一人で何でもかんでもやるのは無理で、チームを組んでみんなで働くしかない」と青野社長。ここで大事になるのが情報共有で、情報共有がチームワークを強くし、自分に合った働き方の実現をサポートする。「(自分に合った働き方ができれば)社員の幸福度が増す。生産性ではなく幸福度を増やすことが真の働き方改革ではないか」と来場者に呼びかけた。

これを受けて登壇したのが1人目のゲストである慶應義塾大学大学院教授の前野隆司氏。「幸福学」というユニークな領域の研究している。「幸福学とは何ですか? 教えてください」と青野社長が質問をぶつけた。

「幸福の研究はこれまでは哲学の領域でしたが、幸福学はアンケートなどを通じて幸せを点数化して、科学的に『幸福とは何か?』にアプローチするものです。点数にするのは難しいですが、それでも測ってみようということです。とはいえ、幸せの点数を統計的に処理すると、国民性などで違いが出て面白いですよ」と前野教授は話した。

続けて青野社長から「幸福な人とはどういう状態なのか?」という質問が飛んだ。大きくは「環境」「健康」「心」が良い状況にあることだとしたうえで、前野教授は「とりわけ心については4つの因子があり、『やってみよう因子』『ありがとう因子』『なんとかなる因子』『ありのままに因子』があります」と話した。

4つの因子のなかで日本のビジネスパーソンに特に足らないのが「ありのまま因子」。人の目を気にしてしまい、なかなか自分の個性を発揮できない人が多いという。前野教授は「気取らなくてもいいし、自分の働き方が他人と違うのは当たり前、と思っていい」と話す。

これに対して青野社長は「ありのままでいいは重要。ウソは本当にやめてほしい。ウソをつく人は自分がアホに見られたくなくてウソつく。ありのままのアホのほうがいい」と語った。「アホなことをしても許してもらったら周囲に感謝する『ありがとう因子』も大切」と前野教授も応じた。

ちなみに青野社長によれば経営者はアホに限るのだとか。「何もしていないように見える経営者がいい。管理しないと現場がやりがいを持ってくれる。賢い経営者が指示を出すと現場にやらされ感が出てしまう」と青野社長。これには前野教授も「私もアホで、『学生にやりたいことやっていいよ』と話したら、幸せの研究やわくわくの研究などが自発的に始まった」と同調した。

次のゲストは、松山でのCybozu Daysに続いての登場となった真鍋かをり氏。「幸福度は今が一番高い」と話し、現在の事務所との関係に満足な様子を見せた。特に子供の成長に合わせて、仕事の割合を話し合いながら決められるのがうれしいという。

真鍋氏は幸福度を増すには「夫婦で仕事と家事・育児のバランスを話し合うことも大切」と主張。「夫には仕事をガンガンやってほしいという人もいれば、家事・育児をちゃんと分担したいという人もいる。夫婦間の役割分担はそれぞれで、100の夫婦がいたら百通りあっていいと思う」と話した。

青野社長は「僕は妻から家事もちゃんとしなさいと言われています。やっぱり夫婦であっても意思表示しないと分からない。イクメンになってほしい人もいれば、そこまで入ってこないでよと思う人もいる。うまくお互いの理想を擦り合わせる必要がある」と自身の経験を交えて語った。

帝京大学ラグビー部では雑務は上級生が担当
続いての注目の講演は、帝京大学ラグビー部の岩出雅之監督が「常勝集団のプリンシプル~組織づくりとリーダーシップ~」と題して語った組織論。現在、同校ラグビー部は、全国大学ラグビーフットボール選手権大会を9連覇中で、その常勝チームをつくった名将の言葉には、企業の組織づくりにも役立つ「哲学」があふれていた。

岩出監督が目指すのは「伴走・応援型の組織」。上級生が下級生に積極的に接し、育てる組織のことだ。

この組織づくりのために最初に実行したことが、上級生になるに従って掃除などの雑務の負荷が増える仕組みの実践。通常の体育会系組織では、4年生は神さまで、下級生は先輩のために働くことが求められていた。だが、この状態では下級生が自分の練習をしっかりできない。「雑務を上級生が担当することで、下級生に自分のことだけに集中する時間と体力の余裕を与えることが重要」と話す。

上級生は雑務を担当するだけでなく、「レベルに合った課題を下級生に与え、『わかる・やる・できる』のサイクルを実感させるように常に工夫している」。また、課題は難しすぎず、簡単すぎず、下級生が全力を出せば達成できるレベルに設定することが大切という。

下級生が練習でスキルを磨く一方で、上級生は下級生を動かすリーダーシップが求められる。「人を動かすには相手をよく見ること、関心を持って接すること大切」と岩出監督。しかも、さまざまなスキルレベルや性格の下級生がいるので、「それぞれの人に当てはまるやり方を見つける対応力も必要になる」。こうして上級生は好感度や信頼度といった人間としての資質が磨かれることになる。

先輩が後輩をサポート(伴走)し、後輩が先輩をリスペクト(応援)する――この好循環が組織の文化として根付き、それが成果につながっていった。これが毎年選手が入れ替わっても勝ち続ける帝京大学ラグビー部の強さの秘密だったのだ。

山里流ポジティブシンキングとは
Cybozu Days Tokyoのトリを飾ったのがお笑い芸人・山里亮太氏と青野社長の特別講演。「ためになることは言いません」と話す山里氏だったが、嫌いな人との向き合い方や自分の役割の見つけ方など、随所にビジネスパーソンにも役立つメンタリティーを披露した。

例えば嫌いな人との向き合い方では、「徹底的に嫌な人のことを思い出して、妄想でビンタをしたりして成仏させます」と山里氏。「まさに復讐というガソリン」と青野社長が突っ込むと、会場から笑いが起こった。

ただ、ここから山里流のポジティブシンキングが始まる。山里氏は「嫌な人に怒っていると、(怒りに)自分の時間が奪われてしまうんです。これはもっと嫌だと思うようになる」と話し、続けて「(さらに怒っていると)嫌な人がいたから現在の自分があり、この怒りがあるから今の仕事をやっているんだな」と前向きな気持ちになると独自の理論を展開した。

また「怒るだけでは成果を生まない」と山里氏。南海キャンディーズの前にコンビを組んでいた相方を一時期ずっと怒っていたことがあったという。その相方は「死神のように細くなって、芸人を辞めてしまった」。当時、山里氏は人を動かすためには怒ることが必要だと感じていたようで、「怒らないとさぼる人が出てくるのでは?」と青野社長に質問した。

これに対して青野社長は、「僕は理想で動かします。怒ることでお尻をたたくのは古い考え方。社員のやる気を引き出すにはしっかりとした理想やビジョンが必要で、『あなたの才能を理想やビジョンのために発揮してほしい』と話します」と語った。

山里氏はかつて、相方のしずちゃんのやる気を引き出すには、自分ががんばっている姿を見せればいいと思い、ピンの仕事を必死にやっていた時期があったという。だがその結果、しずちゃんに「やまちゃん。ヒマやなぁ~」と言われ、肩を落としたことがあったのだとか。

そのしずちゃんとの出会いが、自分の役割を分からせてくれたというエピソードも披露された。実はコンビを組んだ当初は「突っ込みのいない『両ボケ』スタイルだったんですけど、これがまったくダメだった」と山里氏は振り返る。

そのとき山里氏は「しずちゃんが面白いから組んだんだから、そのしずちゃんをもっと面白くするにはどうすればいいのかを考えた。しずちゃんがぼそーっとゆっくりボケた後に、もっと面白くするための補足説明をすればいいとひらめいた」と話す。このひらめきがきっかけで南海キャンディーズのユニークなスタイルが確立された。「ゆっくりボケで笑いを取り、補足でさらに笑いを取る。テンポは遅いのに笑いの数は意外と多い」と山里氏は自身のスタイルを解説した。

最近は「しずちゃんと2人で漫才をするのが楽しくて仕方がない。これは僕の夢だった。楽しいことが仕事って楽しい」と山里氏。「一度楽しくなると、そこから強くなれる。努力を努力と感じない。そして成功体験が増える」とも。そしてまるで予定調和のように「今僕は『楽しいは正義』モードに入った」とCybozu Daysのテーマに引っ掛けて講演を締めくくった。