千葉市    日本中で“2倍長い”「連節バス」

千葉市   日本中で“2倍長い”「連節バス」が増えている2つの「裏事情」

 

いま、日本各地で一風変わったバスの導入が進んでいる。

その名も「連節バス」。2台のバスを1つにしたかのような見た目のこのバス。ヨーロッパなど海外で見たことがあるという方もいるかもしれない。じつは西日本を中心に連節バスが増えており、全国11都市で導入されているのだ。

【写真】ご存知ですか? 連節バスの背後には「全長18m 追い越し注意!」と表示されています
じつは日本でも1985年から走っていた
長さは約18m、バスの後ろには「追い越し注意」という注意書きが書かれている。輸送できる人数も多く、一般的な約10mのバスが約70人程度を運ぶことができるのに対して、連節バスは倍近い約130人を運ぶことが可能だ。

この連節バス、日本で試作されたのは1950年代、本格的な運行が行われたのは1985年のつくば科学博のシャトルバスと、その歴史は意外にも古い。つくば科学博は筑波研究学園都市(茨城県つくば市)で行われた。今でこそ「つくばエクスプレス」で都心から簡単にアクセスできる場所だが、当時はまだ開通していなかった。そのため、近くを走るJR常磐線に臨時駅を設け、博覧会会場との間で大量の来場者を輸送する必要があった。そこで連節バスが「スーパーシャトル」の名で導入されたのだ。

日本の富士重工業製の車体と、スウェーデンのVOLVO製のエンジンと足回りを組み合わせたもので、100台もの連節バスが活躍した。

しかし、連節バスには法制上の問題があった。実は現行の道路法・道路運送車両法のいずれにも、車両の長さは12mまでと定められており、18mもある連節バスは「法令違反」となってしまうのだ。つくばの「スーパーシャトル」の場合は、指定された道路およびレーンを走るということで特例的に認可されての運行だった。

そのため、博覧会終了後、公道で使用できない連節バスは、約80台がオーストラリアに輸出、残りの約20台は成田空港内のランプバスとして利用されることとなった。
幕張で路線バスデビュー
その特例的な認可が普通の路線バスに適用されるようになるには、つくば科学博からさらに10年以上の月日が必要だった。

1998年になって、千葉市の幕張地区で、一般の路線バスとして連節バスが初めて導入された。当時、JR総武線の幕張本郷駅から幕張新都心への通勤客が非常に多く、幕張本郷駅のバス乗り場は人・バス共に満杯となり、増便も難しくなっていた。

そこで1台あたりの輸送力を増やすしかないという事情から、連節バスの導入が行われたのである。このとき運行を担当した京成バスが導入したのは10両。車両はつくば科学博と同じく富士重工業の車体とVOLVOのエンジンを組み合わせたものだった。現在も幕張本郷と海浜幕張を結ぶバス路線では連節バスを頻繁に見ることができる。

幕張の次は7年後。藤沢市で導入されたワケ
幕張地区のあと、連節バスが導入されたのは7年後。2005年、神奈川県藤沢市だ。慶應大学湘南藤沢キャンパス(SFC)への通学客をスムーズに運ぶためだった。

空白の時間があったのは、やはり法制度の壁が厚く、認可がなかなか得られなかったこと。さらにバス製造の海外メーカーも日本向けの車体のモデルがなく、連節バスそのものを用意することが困難だったためだ。つくばと幕張向けの車体を製造していた富士重工業がバスの車体製造を2000年に取りやめたことも大きかった。

そのため2005年に藤沢市で導入された連節バスは、車体も含め完全に海外製のバスが導入されることになる。神奈川中央交通の湘南台駅と慶應大学SFCを結ぶ路線で、ドイツ・ネオプラン社製の「セントロライナー」が運行を担った。

神奈川中央交通の関係者は当時を振り返り、「海外の車両規格と日本の車両規格は大きく異なり、(ネオプランの)車両導入まではかなり苦労があった」と語る。それでも円滑に地域輸送を行うという使命と地元行政の交通計画の後押しを受け、なんとか運行開始にこぎつけた。
西日本を中心に全国11都市に広がる
神奈川中央交通はこの後、神奈川県厚木市や東京都町田市で、駅から離れた大規模事業所・大学キャンパス・大規模団地を結ぶ路線に次々と連節バスを投入していく。

さらに京成バスと神奈川中央交通は各地へ試験運行のために車両貸し出しを積極的に行い、連節バスの普及活動に務めた。その過程で三菱ふそうが窓口となり、同じダイムラーグループのドイツ・メルセデスベンツ製の連節バス「シターロG」を日本向けに特注するという販売ルートもできた。

こうして「1台でも大きな輸送力を持つ」連節バスを導入する都市は着実に増えていく。冒頭でも紹介した通り、現在は西日本を中心に全国に広がりつつあり、岐阜市、新潟市、福岡市など11都市で路線バスとして運行されている。
連節バスが増える「裏事情」とは
近年導入が進んだのは普及活動や販売ルートができたことのほか、2つの大きな理由がある。

1つは、新しい公共交通輸送システムのPRにおいて連節バスが広告塔になるためである。2015年に導入された新潟市が代表的だ。新潟市はこの年、バス路線網を大幅に改編した。郊外から中心部に向かう複数路線が重複していた箇所を整理。基幹となる路線に乗客を集中させることで効率的な輸送を行う計画を立てた。その基幹路線に、輸送力があり、見た目も目立つ連節バスが導入されたのだ。連節バスは新潟市の新しいバスの輸送体系における象徴として活躍する。

もう1つの理由は運転士の不足だ。バス業界も人手不足は深刻で、日本中のバス会社が運転士の確保に悩まされている。最近、バスの後ろを見ると「運転士募集」の広告がずっと貼ってあるのを見かけるという人も多いのではないだろうか。

特に駅から離れた場所に大学や大規模事業所があるところでは、朝のわずか1時間程度のピーク時に大量のバス、そして運転士が必要となる。そこに輸送力のある連節バスを導入して、少しでも必要な運転士・バスの数を減らすことで、他の路線に運行本数をしっかり配分できるように工夫しているのだ。こうした話は事情が事情ゆえに、あまり表だっては言われない。しかし連節バスは、運転士不足に悩む全国のバス会社が是非導入したい「ソリューション」であろう。

望まれる“国産”の連節バス
さて「連節バスが全国で増えてきている」と書いてきたが、じつは導入はゆるやかにしか進んでいない。なぜだろうか。法制度の壁については各地の行政・警察も特例を認めるようになってきているため、以前よりはハードルは下がった。

依然として高いのは「価格の壁」だ。例えば、藤沢市の例では車両費だけでも約5600万円。通常の路線バスの約2000万円に比べて、倍以上の費用がかかる。輸送力の増加以上にイニシャルコストがかかってしまうのだ。メリットは大きくても全国各地へなかなか広がらない大きな理由である。

現在は、ドイツやオーストラリアやスウェーデンといった海外で車体や台車・エンジンが製造されたものしか走っていない。欧米の都市で先に普及が進んでいるため、欧米のメーカーは開発のノウハウと生産の実績を積んでいる。しかし、大きな車体のバスを輸入するためには輸送費がかさむ。さらにバス自体も日本の道路事情や法制度に合わせた特別仕様にしているため、コストがどうしてもかかってしまう。導入には国や各自治体の補助金のメニューを組み合わせて購入資金を捻出している現状もある。

そうであれば、国内での製造に期待がかかるところだが、これも芳しくない。2017年には、いすゞと日野が共同で連節バスを開発し、2019年には市場投入を行うと発表した。開発車両の目撃例があるものの、具体的な動きはまだ発表されていない。
「東京オリンピック」という大きな需要
連節バス市場自体はこれから「東京オリンピック」という大きな需要が期待される。

先日移転した築地市場の横を通る環状2号線に連節バスを走らせる計画があるのだ。この計画には幕張で実績を積んだ京成バスも関わり、東京オリンピックの際には臨海部の会場近くでも連節バスが何台も走り始める予定だ。

さらに先日、北九州市と横浜市でも相次いで連節バスの導入が発表された。北九州では市内でも本数・乗客数が多い路線に、横浜では観光エリアを走る路線に導入されることになっている。これを機に導入コストが下がることも期待されるが、前述の通り海外製ではなかなか難しいと思われる。海外製ではアフターサポートにも不安な面がある。

ぜひ「ものづくり大国」と言われてきた日本製の連節バスが各地を走る光景を期待したいが、さて、今後どうなるであろうか。