千葉市   木更津にバブル到来? 

千葉市   木更津にバブル到来? 移住者流入で人口増、坪単価は2倍に

 

アクアラインを渡る子育て世代が増えている。高速バスが都内のオフィスへの通勤手段として定着したからだ。満員電車に別れを告げるだけではなく、都内では考えられない夢のマイホームも。

都内で働くファイナンシャルプランナーの鈴木由紀子さん(51)は、会食などで時間が遅くなると、相手から気遣われることが多い。鈴木さんが住む千葉県市原市は、東京から見ると千葉市のまだ先で遠いからだ。

「終電はまだあるの?」と心配されるが、鈴木さんは待っていましたとばかりに言い放つ。

「新宿駅西口を23時30分に出発する『終バス』で、乗り換えなく座って帰れますから」

高速バスで通勤していること、深夜までバスが走っていることに、相手は二重の驚きを見せる。

「朝の通勤時間帯は、東京の電車並みの間隔で高速バスが走っています。バスは必ず座れるので、電車を使う人がすっかり少なくなりました」

鈴木さんが利用するのは、神奈川県川崎市と千葉県木更津市を結ぶ東京湾アクアラインを走る高速バスだ。1997年の開通時は4路線56便だったが、2015年には23路線476便に。千葉県側の木更津市や周辺の袖ケ浦市、市原市に住む人の都心への足になっている。

朝の通勤ラッシュ時に木更津市内最大のバスターミナル「チバスタアクア金田」に行ってみた。ターミナル周辺には空き地が目立つが、隣接して高速バス利用者のための駐車場があった。料金は月決めで3千円程度と安い。バスターミナルまでは車で通勤し、高速バスに乗り継ぐ。駐車場からは次々とスーツ姿の働く男女が現れ、高速バス乗り場に列を作っては、すぐさまバスに吸い込まれていった。

例えば、最も本数の多い7時台の時刻表を見ると、東京駅行きのバスは1時間になんと18本。木更津駅から東京駅まで電車なら約1時間20分かかるが、高速バスなら約40分。料金は電車1320円、高速バス1350円とほぼ変わらず、割安な回数券や高速バス定期券もある。

隣の袖ケ浦市にも大きなバスターミナルがあり、千葉県側から東京、新宿、品川などの都内主要ターミナル駅に加え、横浜や羽田空港行きのバスもある。

千葉県議の高橋浩さん(56)は「高速バスの利便性が増すと同時に移住者が増えた」と話す。

「人口減少で木更津市は低迷していましたが、09年に東京湾アクアラインの通行料金が800円に値下がりし、12年には三井アウトレットパークもできた。その分、バスの路線や本数が増加して高速バスの存在が知られるようになり、移住を検討する人たちも増えてきたのです」

航空会社に勤務する田端さん一家は昨年11月、東京都大田区から木更津市内に移住した。

妻の彩花さん(30)は話す。

「のびのび子育てができる環境を探していました。木更津市は3歳の娘が好きなマザー牧場(千葉県富津市)に行く時の通り道で、都内のセカセカした感じがなく、気になっていました。調べるうちに高速バスがたくさん走っていることも知り、通勤にも問題ないと感じました」

夫の真也さん(31)は不動産購入に否定的だったが「今後も人口が増えていくエリアで、将来的には賃貸物件として貸し出せるかもしれない」と、自宅の購入を決意した。木更津市内の分譲地に土地57坪、建坪30坪、2階建て3LDKの一軒家を2850万円で購入した。

「大田区の自宅近所で探していた時は最低でも4千万円はかかると思っていましたが、総タイルの注文住宅でこの価格は大満足です」(真也さん)

以前は大田区内の1LDK、家賃12万円の賃貸マンションに住んでいたが、現在は月々7万円のローン返済と負担も軽くなった。最寄りのバスターミナルから勤務先の羽田空港までは片道1030円かかるが、

「バスターミナルまで使用する原付きバイクの駐車料金6千円(年間)も含め、全額会社が負担してくれています。羽田空港までは20分程度で、うたた寝する時間もありません」(同)

彩花さんも月に数回は高速バスを利用する。

「気軽にイベントに行ったり友人に会いに行ったり、都内の片隅に住んでいるようです。一方、東京のママ友からは、朝6時から幼稚園の入園説明会に並んだなんて話を聞きますが、こちらではそんなことはありません」

高速バス通勤を想定し、木更津市周辺に移住する人は30代の子育て世代が中心だ。住宅メーカー「新昭和リビンズ」金田店の渡久地(とぐち)輝政店長はこう話す。

「移住者が増えるにつれ、大型ショッピングモールの建設などが進み、街自体も発展しています。高速バスも新たに渋谷線が開通するなど、今後も都内からの移住者は増えるでしょう」

東京湾アクアラインの開通、高速バスの増加により、木更津市や隣の袖ケ浦市では都心からの人口流入で人口が増加。木更津市では14年に小学校が33年ぶりに新たに開校した。

「アクアラインが通行止めになる天災なら、京葉線も止まり、木更津は陸の孤島になる。夫婦が都内で共働きだと、子どものもとには帰れない」(地域住人)といったリスクはあるが、渡久地さんによれば、新たな分譲地でも坪単価は直近3、4年で2倍近くになるなどバブル状態だ。

大学が都心に集中し、地元に大学がないことが地方移住のネックとなるが、木更津市の担当者は「高速バスを使えば早稲田も通えます」と胸を張る。(編集部・澤田晃宏)