松戸市   地域の安全

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【女児殺害1年 地域の安全模索】外国人居住者どう守る 揺らぐ“神話”回復へ

「日本に来て13年になるが、まさかこんなことが起こるとは思っても見なかった」。松戸市の日本語学校「KEN日本語学院」職員でベトナム国籍のラィ・ズィ・ヒェウさん(31)は、1年前をそう振り返る。

多くの外国人にとって、日本は依然として「安全な国」というイメージが根強い。そうした中、松戸市のレェ・ティ・ニャット・リンさん=当時(9)=が通学路で連れ去られ遺体で見つかった事件は、被害者が同じ国籍の少女だったこともあって衝撃は大きかった。同市内に約2千人が住み、徐々に増えつつあった「ベトナム人コミュニティー」には、今も暗い影を落としている。

■女生徒から不安の声

同学院には、20代を中心に約190人のベトナム人の留学生らが日本語を学ぶ。リンさんの事件では、「特に女性の生徒の中から不安の声が多かった」とヒェウさんは明かす。

ベトナム人女性職員、トン・タイン・トゥイさん(30)は「夜帰宅するときは、なるべく人通りの多い道を通ったり、毎日道を変えたりするように、と生徒に伝えた」とも話す。

事件は現地のテレビ局やインターネットのニュースなどにも大きく取り上げられた。その一方で、“安全な国”ゆえの日本の習慣が事件につながったのではないかとの思いも消えない。

ヒェウさんは、10歳にも満たない幼い子供が1人で登校するという環境にもショックを受けている。「ベトナムではそんなことはできない。やっぱり日本でも危ないんだ、という意識が芽生えた」。知人の中には、仕事を早く切り上げて送迎するようになった家庭もあるという。

外国人が描く「安全な国」のイメージは、もはや幻想に過ぎないのか。外国籍の住民だけではない。2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて外国人の来県が増える中、彼らからの「ヘルプサイン」を速やかに受け止め、いかに安全・安心の“おもてなし”を提供するか、手探りの試みが始まっている。

空の玄関、成田空港があり、東京にも近い本県には近年外国人住民は増えている。県の調査によると、平成28年末時点で県内に住む外国人住民数は前年比8・7%増の13万710人。国・地域数は156カ国を数える。

■指さしシート設置

県警によると、県内のすべての交番に、わかりやすいイラストと英語や中国語など5カ国語でさまざまな状況が載った指さしシートを設置。110番についても通訳センターを通して、中国語やベトナム語、スペイン語など11カ国の言語で対応できる体制を整えた。

昨年1年間では2670件の外国語での通報があったという。県警は「さまざまなアプローチで、言葉の分からない人にも安心を届けられるように努力していく」と強調する。

揺らいだ“安全神話”の回復と多言語での安全・安心のおもてなしの提供-。リンさんの事件が残した爪痕と浮かび上がった課題の最適解はまだ見通せない。