習志野市   地下10mで“完全自動化”も 「植物工場」

習志野市    地下10mで“完全自動化”も 「植物工場」最前線

 

毎年のように異常気象に見舞われ、農作物に大きな被害が出ている。後継者問題ものしかかり、かつてない危機に瀕している日本の農業。存亡のカギを握る植物工場の最前線をルポする。

「昔は農家の方も若く、異常気象で被害にあっても『なにくそ!』とすぐにまた生産に向かったものです。でも高齢化した今は、気象災害を機に農業自体をやめる人も出てきています」

千葉大学大学院園芸学研究科の丸尾達教授はそう嘆きつつ、植物工場こそがこの問題を解決すると力説する。

「人工的な環境ですから気象に影響を受けません。都市近郊に工場を造って安定した収入を保証すれば、若者が働きだすことでしょう。消費地に近いので、輸送費を減らせるというメリットもあります」

日本では1980年頃から植物工場の研究が始まった。2000年代前半には多くの事業者が乗り出したが、撤退するケースも多かった。

「儲かるかどうかわからないため小規模な工場で始めたので、事業性が高くなかったからです。最近はLEDを使うことで電力消費量を抑えられるうえ、立体的に作物を並べられるようになり、生産性が飛躍的にアップ。工場のための専用品種開発も行われています。日本の技術は、欧米や中国より10年進んでいるんです。これを生かす形で今、研究開発に投資をすれば、農業環境が一気に変わる可能性があります」

■毎日レタス2万株を生産 規模の大きさで価格を下げる
808FACTORY(静岡県焼津市)

立体的に並べられた発泡スチロール製のパネル。それぞれにレタスが12株植えられている。朝9時、青い作業着、マスクと帽子、手袋に身を包んだ従業員が、最下段手前のパネルのものから根元を切り始める。これこそが植物工場での収穫。レタスの生育には通常3カ月以上かかるが、大気中の数倍の二酸化炭素とLEDにより光合成を促す工場内では、わずか35日ほどで生育する。常に同じ条件で育てられているため大きさはほぼ一定なうえ虫もつかないので、選別も楽。収穫され別室に運ばれると、あっというまに梱包して出荷される。その数、1日2万株! 収穫した量と同じだけのパネルが苗室から新たに運ばれて、最上段にセットされる。翌朝9時に同じ作業が始まるのだ。

■まさに近未来! 地下10mにある「完全自動化」無人工場
幕張ファーム ベチカ :(千葉県習志野市)

習志野市の地下には使われない共同溝がある。幕張新都心のインフラ整備用に建造されたが、バブル崩壊で無用の長物となったものだ。そこに無人の植物工場が造られた。この工場では、野菜はセルと呼ばれる240×100×33.6~42.6cmの閉ざされたスペースで栽培される。二酸化炭素濃度などの管理はセル単位で行われるため、工場全体を空調する必要はない。栽培トレイはコンベヤー等によって横移動と縦移動が可能なので、地下で成長した野菜は自動で地上に運び出される。電気代と人件費を最小限に抑えるシステムなのだ。運営する伊東電機は、省エネと自動化を徹底したこのシステムのノウハウを他の事業者に販売もしている。