習志野市
焼失2年、待望の復元 佐倉・並木町の「御神酒所」 町民が資金集めに奔走 【地方発ワイド】
千葉県佐倉市の秋祭りで毎年引き回されていたが、2016年10月に火災で焼失した同市並木町の踊り屋台「御神酒所(おみきしょ)」が復元された。地域のシンボルを失った悲しみの中、町民たちが団結して資金集めに奔走し、再建にこぎ着けた。お披露目の記念式典で、町民たちは「皆さまからいただいた御神酒所を後世に残していく」と固く誓った。
「えっさ、えっさ、えっさっさ!」。9月30日、佐倉の中心街に御神酒所を引き回す町民たちの威勢良い掛け声が響いた。2年ぶりによみがえった光景だった。
御神酒所が火災に遭ったのは16年10月17日早朝。各町の山車や御神酒所とともに前日までの秋祭りで引き回された後、町内の保管場所に置かれていたが、出火しているのを近くに住む男性が発見。約25分後に鎮火されたが、載せていた太鼓一式やちょうちんも含めてほぼ全焼してしまった。不審火の可能性もあるという。
1933(昭和8)年に制作されて以降、80年以上にわたって地域で受け継がれてきた。焼失現場では、ぼうぜんと立ち尽くす人や泣き崩れる人もいた。
火災に遭い、土台を残してほぼ全焼した御神酒所=2016年10月17日、佐倉市
◆善意1524万円
突然の不幸に見舞われ、ショックを受けた町民たち。どうするべきか途方に暮れたが、周辺町民ら多くの人の励ましを受けて、再建を目指すと決意。町内に「復元委員会」を立ち上げて募金活動に乗り出した。
「初めての経験で何からやっていいのか分からない状態だった」
委員会の募金活動代表を務めた山下雅弘さん(39)は当時を振り返る。手探り状態で市内外のイベントに出向き、寄付をお願いした。すると、励ましの言葉を掛けてくれる人、泣きながら応援してくれる人…さまざまな温情に触れた。
募金箱による支援も大きかった。町民たちが設置をお願いして回り、市内外の50店以上の店舗が協力。焼失後間もなく、自主的に店頭に置いてくれたコンビニ店もあったという。
近隣の佐倉中学校は、生徒が校内で募金活動をしてくれた。
最終的に1524万円が集まり、市の補助金と合わせて復元にこぎ着けた。「大勢の方々に励まされて、ここまでやってこれた。お祭りを通じてお礼できれば」と山下さんは感謝する。
◆“思い”を集めて修繕
復元された御神酒所は、残った土台部分はそのまま生かしたが、屋根や柱、床、車輪などほとんどが新しくなった。
修繕を担当した織戸社寺工務所(習志野市)の織戸晃一代表は「最初見たときは驚くべき姿で、これを復元するのは…と身構える部分もあった」と回顧する。図面もなく、写真や映像、町民の記憶などを基に設計図を作成。「皆さんの思いを一つ一つ集めてきた。作り上げたのは地元の人たちの思いだった」と話す。
彫刻の「鬼板」と「懸魚(げぎょ)」は、日本遺産指定で著名な富山県の井波彫刻協同組合に依頼し、立派な仕上がりとなった。
記念式典でお披露目された御神酒所を前に、旧佐倉藩鎮守の麻賀多神社の宮本勇人宮司による神事が執り行われた後、町民が乗り込んで佐倉囃子を披露。あいさつした同町祭礼委員長の片岡英典さん(45)は「皆さんからいただいたこの御神酒所を町民、そして同志の皆とともに後世に残していきたい」と感謝した。
御神酒所は10月12~14日に行われる佐倉の秋祭りで引き回される。惨事を乗り越えて絆がより強固になった町民たちは、晴れ舞台での町のシンボル復活を心待ちにしている。