中国にらみ質量とも拡大=新大綱、官邸主導-専守防衛、崩れる恐れ

政府は新しい防衛計画の大綱(防衛大綱)と中期防衛力整備計画(中期防、2019~23年度)に、自衛隊初となる事実上の航空母艦の導入を明記し、最新鋭の米ステルス戦闘機F35を大幅に増やす方針を盛り込んだ。太平洋進出を加速する中国を意識したものだが、憲法9条に基づき堅持してきた安全保障政策の基本姿勢「専守防衛」が崩れる恐れもある。

 ◇封じ込め狙う
 「優先順位をしっかり決め、資源を集中的に配分して速いスピードで防衛力をつくる。従来の延長線上ではない大綱になった」。岩屋毅防衛相は18日の記者会見で新大綱の意義を強調した。

 おおむね10年が改定のめどとなっている大綱を、政府が5年で改定したのは、太平洋進出への野心を隠さない中国への対応を急いだためだ。

 昨年12月、中国の戦闘機が対馬海峡を東シナ海から日本海に向けて初めて通過。今年1月には、中国の潜水艦が沖縄県・尖閣諸島の接続水域を初めて潜ったまま航行し、日本政府は危機感を強めた。空母についても中国は既に1隻を就役させ、来年新たに1隻が就役する見通しとなっている。

 海上自衛隊「いずも」型護衛艦を改修して「空母」の機能を付与し、短距離離陸・垂直着陸が可能な最新鋭機を調達する方針を決めた背景には、中国のこうした動きをけん制し、封じ込めようとの狙いがある。

 ◇「政権は力ずく」
 新大綱・中期防づくりは、首相官邸近くに事務局が置かれ、安倍政権の外交・安保政策の企画・立案を担う国家安全保障局が主導した。関係者によると「空母」導入も、防衛省制服組は他の装備や人員への影響を警戒して慎重だったが、官邸側が押し切った。「海自や空自から具体的なニーズや要請があって、こういう考え方ができたわけではない」。岩屋氏も会見で官邸主導を事実上認めた。

 自民、公明両党による協議も、政府方針を追認する場となった。

 「平和の党」を掲げる公明党は、来年の統一地方選や参院選をにらみ、「空母化」などで安倍政権のブレーキ役として存在感を示そうとした。しかし、政府が憲法上認められないとしてきた「攻撃型空母」ではないことの明文化を引き出すのが精いっぱいだった。

 立憲民主党の福山哲郎幹事長は、いずも型護衛艦の改修について「著しく専守防衛を逸脱する可能性がある。安倍政権は力ずくで憲法解釈や安保政策をなし崩しにしてきた」と批判した。

 ◇経費に歯止め
 陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」や大量のF35の調達は、対日貿易赤字解消策として防衛装備品の追加購入を迫る米トランプ政権に応える意味もある。F35は安く見積もっても1機100億円程度。新大綱・中期防に沿って政府はF35を計105機買い付けることも決めたが、総額で1兆円を超える計算になる。

 財政状況が厳しい中、拡大する防衛費に歯止めをかけるため、新中期防は調達の合理化などにより、計画ベースで過去最高の27兆4700億円の予算総額を2兆円規模で節減するよう求めた。装備品などの契約額についても初めて上限(17兆1700億円程度)を設定した。

 ただ、前中期防での節減実績は約7710億円。2兆円節減のめどは立っておらず、岩屋氏は会見で「大変高い厳しい目標だが、全力を尽くしたい」と意気込みを述べるにとどめた。