徴用工判決も、韓国で日本の国民感情を逆なでする行為が相次ぐ理由

徴用工判決も、韓国で日本の国民感情を逆なでする行為が相次ぐ理由

 

韓国の最高裁で元徴用工4人に
計4000万円の支払い命じる判決
10月30日、第2次世界大戦中に強制労働をさせられたとして韓国人4人が新日鉄住金(旧新日本製鉄)を相手取り、損害賠償を求めた訴訟の差し戻し上告審で、韓国の最高裁に当たる大法院は、同社の上告を退ける判決を言い渡した。これにより、4人に合わせて4億ウォン(約4000万円)の支払いを命じたソウル高裁の判決が確定した。
日本政府は、元徴用工への請求権問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場で、同社も同様の主張をしたが、認められなかった形だ。
元徴用工やその遺族は、2005年に旧新日鉄を相手取りソウル中央地裁に提訴した。しかし当時の盧武鉉政権が、日韓請求権協定や関連の外交文書を検証した結果、個人が企業に賠償を求めるのは事実上困難との見解を表明。1、2審は原告が敗訴した。
しかし大法院は、韓国政府には賠償請求権はないものの「個人請求権は消滅していない」との判断を示し、審理をソウル高裁に差し戻した。これを受け同高裁は2013年、計4億ウォンの賠償を命じた。
だが、大法院は控訴審判決が出てから5年以上、判断を保留してきた。背景には、後述するが、韓国政府が日本政府同様、日韓請求権協定によって両国民の間の請求権は「完全かつ最終的に解決」したとの解釈を示してきたことがある。

ところが最近、大法院の担当次長が判決を遅らせたとして逮捕された。これは、文在寅政権として「早く判決を出すように」との意思表示であり、今回の判決も文政権の意向に沿ったものと見ることができる。
個人補償は韓国政府が拒んできた経緯
判決を受けて訴訟乱発の恐れ
そもそも65年の日韓国交正常化交渉の過程において、日本政府は個人補償も検討したが、当時の朴正熙政権が一括して韓国政府との間で解決するように求め、無償3億ドル、有償2億ドルで決着した経緯がある。
盧武鉉政権も2005年に、日本による無償3億ドル協力には「強制動員被害補償の問題解決という性格の資金が包括的に勘案されている」として、責任は韓国政府が持つべきだとの認識を示している。文大統領は、このときの高官だった。しかし、文大統領は昨年の光復節直後の記者会見で、「個人請求権は消滅しない」「司法判断を尊重する」と述べた。
韓国政府が、長年にわたり「個人の請求権は消滅した」との立場を取っていたのだから、外交交渉の経緯を最高裁に説明、説得するのが行政府の責任ではないか。文大統領が国内的に歴史の見直しに力を入れるとするのは構わないが、外交的には相手方の強い反発を理解すべきで、日本の反応を過小評価したとしか思えない。
今回の判決を受け、これから各地で訴訟が活発化することが予想される。既に70社を相手取り、15件の裁判が進行中であり、約1000人が原告となっている。そして、“訴訟予備軍”も20万人以上いるといわれる。この全員が日本企業に1000万円を求めたら、その総額は2兆円に上る。新日鉄住金が賠償を支払わない場合、原告の弁護士は差し押さえを求めることを検討中ともいわれ、そうなれば日韓経済関係には甚大な影響を与える。
しかし、より根本的な問題として、日韓政府間合意から50年以上経った今、政権が変わったからといって一方的に約束を反故にされては、安定した国家関係は望めない。韓国政府は裁判所の意向と言うのだろうが、これまでの韓国政府は合意内容を擁護してきたし、これは韓国政府の責任であると言ってきた。
日韓請求権協定で相互に争いがある場合には紛争解決の手続きが決められており、まず2国間協議、それで解決しない場合には第三国の委員を加えた仲裁委員会での話し合いを求めることができることになっている。韓国の裁判所もこうした手続きを尊重し、一方的に判断するのではなく、こうした国際的なルールに従って解決するよう勧告するのが妥当ではないか。

文大統領は昨年、大統領就任後の光復節(終戦記念日)演説で、「過去の歴史が未来志向的な発展の足を引っ張るのは好ましくない」と述べていたが、この発言は何だったのかと疑いたくなる。
今の韓国政府内には、日韓関係について造詣の深い人はほとんどいない。李洛淵(イ・ナギョン)国務総理は東亜日報の東京支局長を務めており、韓日議員連盟の野党側の責任者をしていた人物。だが、そもそも外交にはあまり縁のない職責であり、彼をサポートする人間が政府内にいないとなれば影響力はないと考えていい。韓国外交部において日本通は常に要職にいたが、今は日本擁護をすると排斥される恐れがあり、勇気を持って発言できる人はいない。こうしたことも影響したのではないだろうか。
文政権になってから相次ぐ
日本の国民感情を逆なでする行為
文政権は、日本の国民感情を逆なでするような行為を繰り返してきた。
例えば、慰安婦問題に関する日韓合意に基づいて設立された慰安婦財団の解体の示唆を始め、日本の海上自衛隊による旭日旗掲揚の自粛要請、そして国会教育委員会の超党派議員による竹島上陸などである。
そうした流れの中、今回の判決が出たことにより、歴代政権下で日本に対して取り上げてきた歴史問題をほぼ網羅することになった。しかも、文大統領の訪日も先延ばしにされており、日本との関係を重視しているようには見えない。
このうち、まずは慰安婦財団の解体示唆について見ていこう。
文大統領は、常に元慰安婦に寄り添ってきた。ただ、文大統領が言っている「当事者の意思が反映されておらず、真の解決にならない」という理屈には納得がいかない。アジア女性基金が運用されていた際、韓国内で批判があったのは、元慰安婦に支給される見舞金が、日本政府からの直接の資金ではなく国民募金によるもので、これでは日本政府の責任を認めたことにならないという点だった。
しかし、今回の財団への拠出は、全て日本政府の財政から支出されたものだ。しかも、「被害者の名誉・尊厳回復への努力、自発的な真の謝罪を要求する」という点に関しては、アジア女性基金の際にすでに反省と謝罪を記した総理の書簡を添付している。

文大統領の主張が妥当性を欠くのは、朴槿恵政権当時の財団理事長が全ての元慰安婦の下を訪れて説得に努めた結果、7割の元慰安婦が納得していたということだ。要するに、反対しているのは文大統領に近い慰安婦財団に属する元慰安婦などであり、この人々は自分たちの主張が120%満足されなければ納得しないことである。
もっと言えば、日本と対立していることに“存在意義”を感じている人々だ。文大統領は、こうした元慰安婦団体と手を組んでいるのだ。仮にそういう人々が反対しても、大多数の元慰安婦が納得していれば、この日韓合意は十分正当性があるものといえるにもかかわらずだ。
慰安婦財団の解体は、日韓の政府合意の根幹をなすもの。韓国政府は、公式合意があったことは否定できず再交渉は求めないとしているが、日本政府として当然のことながら、再交渉する気など毛頭ないだろう。

慰安婦合意を事実上反故にするこの措置は、徴用工の扱いと同じで政府間の合意を一方的に放棄するに等しい。
海上自衛隊による
旭日旗掲揚の自粛要請
続いて、韓国済州島で行われた国際観艦式に、日本の海上自衛隊の艦船が参加するに当たり、旭日旗掲揚の自粛を求められた問題。海軍の艦船が海軍旗を掲揚して航行するのは国際慣例になっているにもかかわらずだ。
旭日旗については、1998年と2008年の観艦式の際には掲揚して参加している。それ以降、旭日旗に対する韓国の国内世論が敏感になっている点はあろうが、韓国政府としては国際慣例に則るものであることを指摘し、国内世論を静めるのが筋だろう。ちなみに韓国も李舜臣将軍が使った亀甲の旗を掲げたようだ。李舜臣は豊臣秀吉の水軍を破った英雄であり、韓国の誇り。こうした韓国の行動は、日本に対する当てつけだといえる。
日本だけに国際慣例は適用されないのか。旭日旗は、日本の法律で掲揚が義務づけられているものだ。これを拒否されると、北朝鮮の核問題でより日米韓の協力を深めなければならないときに、日本は韓国との安保協力がやりにくくなる。韓国の海軍は日本との防衛協力に前向きだが、韓国の大統領府が足を引っ張っている形だ。

そして、韓国国会教育委員会の竹島上陸訪問。韓国では、日韓に歴史問題が持ち上がると、必ずといっていいほど竹島を訪問する政治家などが現れる。慰安婦問題で窮地に陥っていた李明博元大統領が竹島に上陸したのがそのいい例だ。
今回も、一連の問題が持ち上がったタイミングで、国会教育委員会の超党派議員団が竹島に上陸している。ポイントは教育委員会の議員だったという点で、韓国の若者に竹島に関する教育をより徹底しようという意図が垣間見えるのがより深刻だ。
韓国は、日本と交渉する際、世論を刺激して世論を味方につけて交渉するが、今回も同じ構図といえる。竹島問題は、これまでもたびたび日韓関係悪化のきっかけを作ってきたが、こうした傾向は今後も続くだろう。
「日韓パートナーシップ宣言」20周年は
日韓の困難な時代の始まりか
今年は、日韓の友好促進と協力拡大をうたった小渕恵三・金大中両首脳による「日韓パートナーシップ宣言」の20周年。これを機に、改めて日韓関係の促進ムードを盛り上げようというタイミングだった。
この宣言の趣旨は、日本が文書で謝罪と反省を述べる代わりに、韓国政府はこれ以上、歴史問題を提起しないようにしようというもの。韓国政府としても勇気のいる決断だったが、宣言できたのは、日本が戦後、多大な努力を重ねて民主国家になったことを韓国側が認めたということが前提にある。
日本人にとって、日本が民主国家であるというのは当たり前のこと。だが、韓国人はそう捉えていない。日本には、折に触れ軍国主義の亡霊が現れるかのように言われているからだ。そうした誤解を晴らし、当たり前の事実を素直に受け入れることが日韓関係ではいかに重要かが分かる。

韓国の国益を考えれば、日本との関係を強化することが望ましいはずだ。文大統領が「過去の問題が未来志向的な日韓関係の足を引っ張るのは望ましくない」と述べたのは、まさに的を射た発言だ。また、日本にとっても韓国との関係は国際政治上も、安全保障上も、切っても切れない関係だ。さらに、経済や文化の面においても関係の強化に多くのメリットがある。
日韓両国は今一度、小渕・金大中の日韓パートナーシップ宣言の精神に立ち返るべきではないだろうか。そのためにも韓国には、安定した日韓関係の構築に何が必要なのかいま一度考えてもらいたい。
民間レベルでは順調に発展
戦後の日本の協力に関する教育必要
日韓関係は、民間レベルでは順調に発展している。昨年、韓国から日本を訪問した人は700万人を超え、1位の中国に迫る勢いだ。日本から韓国への訪問客も、ピョンチャンオリンピック以降回復の兆しを見せている。また韓国では、日本の小説は常にランキング上位に登場しているし、日本食もブームだ。こうしたことにより、日本を知る韓国人は増加しており、日本の本当の姿を伝える環境は整っている。
しかし韓国には、あえて歴史問題や政治関係を取り上げ批判する人が一部にいる。しかも、そうした人々の声は大きい。それに反対すれば親日と批判されるた、声を潜める傾向にある。したがって、反日が主流かのような印象を与えてしまう。
そうした声を抑え、正しく日本の姿を伝えるには、韓国政府、特に文大統領のリーダーシップが不可欠である。文政権にこうした能力が欠けていることが、日韓関係に暗い影を落とす結果になっているのだ。
日本は、戦後の韓国の復興のため誠意をもって協力してきた。だが、韓国ではそうした事実はほとんど語られていない。むしろ意識的に隠ぺいされてきた。筆者は韓国に感謝してほしいから言うのではない。戦後の日本の協力を理解すれば、韓国は日本と関係について直視できるようになると思うから言っているのだ。韓国の人々は、戦後の日本の協力の歴史について、もっと学んでほしいと思う。