“欠陥”は韓国駆逐艦か、韓国海軍組織か。海自哨戒機にレーダー照射

日本海のEEZ=排他的経済水域内で、海上自衛隊のP-1哨戒機が12月20日、韓国海軍の「クァンゲト・デワン」級駆逐艦から、火器管制レーダーの照射を受けたという。

「クァンゲト・デワン」級駆逐艦は、別名「KDX-1」と言い、全部で3隻建造され、1998年から2000年にかけて就役した。防衛省が発表した当該艦の画像を見ると、艦番号が「971」なので、「クァンゲト・デワン」級1番艦の「クァンゲト・デワン」ということになる。
韓国は「クァンゲト・デワン」と海洋警察庁の警備救難艦「サンボンギョン」の2隻で遭難信号を出し、漂流中だった北朝鮮の漁船を捜索していたということだ。

IHSジェーン軍艦年鑑2018-19によれば「クァンゲト・デワン」級駆逐艦は、空中の飛翔体を360度捜索するSPS-49v5対空捜索レーダー、水上及び低空を捜索するMW08レーダー、いうなれば、空中の標的に狙いを定める火器管制レーダー、STIR180レーダー、航海用のSPS-55Mレーダー、それに、敵味方識別装置UPX-27が搭載されている。
もちろん、これらのレーダーや電波装置は、使用する周波数帯がそれぞれ、異なっている。

海面の漁船を捜索していたのなら「クァンゲト・デワン」は、海面及び低空捜索・射撃指揮用のMW08レーダーを働かせていたのかもしれない。このレーダーのアンテナは、海面を遠くまで見渡せるように、マストの高い位置にある。

軍艦である「クァンゲト・デワン」は様々な武器を積んでいるが、対航空機用には、RIM-7Pシースパロー艦対空ミサイルを前艦橋の前の垂直発射装置に16発装填できる。このミサイルは、標的となる敵の航空機に軍艦の火器管制レーダーから電波をあてて、その反射した電波をシースパロー・ミサイルの先端にあるアンテナが受信して、標的に向かって飛んでいくという仕組みだ。
つまり、標的を破壊するまで「クァンゲト・デワン」は、火器管制レーダーの電波をあてていなくてはならない。それが火器管制レーダーのSTIR180だ。防衛省が発表した画像を見ると、前後の艦橋にそれぞれ1基ずつある、STIR180レーダーの後ろのアンテナが、こちらに向いている。つまり、撮影したP-1哨戒機のほうを向いていたのかもしれない。また、STIR180火器管制レーダーの電波は複数回、数分にわたって、P-1哨戒機に向かって出されていたとのこと。

これが正しければ「クァンゲト・デワン」は、シースパロー艦対空ミサイルを発射する直前で「発射後の誘導のために、STIR180火器管制レーダーが電波を出している状況」だと、P-1の乗員が判断して、対空ミサイル除けの空中機動をすると共に、ミサイル除けのチャフやフレアを撒くなどの回避行動をとったとしても不思議ではないだろう。

さらに、P-1哨戒機から「クァンゲト・デワン」に無線で呼びかけたにも関わらず「回答がなかった」ということなので、P-1の乗員にすれば、異常事態そのものだったのではないか。
また「クァンゲト・デワン」は、海自P-1哨戒機の呼びかけに答えられないような通信、または、データリンクのトラブルでも抱えていたのだろうか。

火器管制レーダーで、水上捜索?

12月22日付の韓国・聯合ニュースによると、「韓国軍の消息筋は、『出動した駆逐艦は遭難した北の船舶を迅速に見つけるため、火器管制レーダーを含むすべてのレーダーを稼働し、この際、近くの上空を飛行していた日本の海上哨戒機に照射された』と説明した」という。

日本の防衛省は22日、「火器管制レーダーは広範囲の捜索に適するものではなく、遭難船舶を捜索するためには、水上捜索レーダーを使用することが適当です」とコメントしている。聯合ニュースの記事が正しいとすると、漁船のような海上の目標を探すのに、STIR180対空火器管制レーダーも働かせる必要があったのかどうか。

それとも、この「クァンゲト・デワン」には、一度にすべてのレーダーを稼働させる仕組みが組み込まれていて、人為的ミスでそれを稼働させたのか。または、すべてのレーダーを稼働させてしまったのは、システムというより“欠陥”であって、それがこの「クァンゲト・デワン」級にあったのかどうか。

または、そんなシステムや“欠陥”はなかったが、指揮系統の人為的ミスで、すべてのレーダーを稼働させたのか。それとも、何らかの事態の場合には、すべてのレーダーを稼働させるという決まりでも、韓国海軍にあるのだろうか。

洋上での不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES)

ただ、「そんな決まりや規則が韓国海軍でありうるのか」、という点では疑問が残る。というのは、韓国は「洋上での不慮の遭遇をした場合の行動基準(CUES)」という国際取決めの参加国だからだ。