韓国大統領、実は中国で「驚くほどの冷遇」を受けていた
文在寅大統領の「破氷之旅」
韓国の文在寅大統領が、12月13日から16日まで訪中した。中国メディアは今回の文在統領の訪中を、「破氷之旅」(氷を破る旅)と報じた。
どこかで聞いたネーミングだと思ったら、靖国神社参拝を繰り返した小泉純一郎首相の後を受けて、2006年9月に政権を発足させた安倍晋三首相が、就任わずか13日目に訪中した際につけられたのが、「破氷之旅」だった。
当時は安倍首相の中国・韓国訪問中に北朝鮮が初めての核実験を強行し、別の氷が生まれてしまった。また安倍首相自身も、訪中した翌月には「自由と繁栄の弧」という中国包囲網的外交政策を発表し、中国が警戒感を抱いたため、再び日中関係に霜が降りてしまった。
つまり、中国メディアが「破氷之旅」などと名づけると、ロクなことにはならないのだ。今回、文在寅政権も、その苦みを噛み締めたに違いない。
今回の「破氷之旅」は、2016年2月、THAAD(終末高高度防衛ミサイル)の導入検討を、朴槿恵前政権が発表したことによるものだった。これは、韓国が中国に対して、国交正常化以降、初めて本格的に盾突いたものだった。
韓国が中国と国交正常化を果たしたのは、盧泰愚政権時代の1992年8月である。以後も、金泳三、金大中、廬武鉉、李明博と政権は変われど、軍事同盟国のアメリカを最重要視し、次に日本を重視するという姿勢は変わらなかった。廬武鉉政権時代の2005年春には、米中を同等に見る「バランサー論」(均衡者論)が提起されたが、米ブッシュ政権の怒りを買ってすぐに引っ込めた。
しかし、続く朴槿恵大統領は、2013年2月に就任した当初から、廬武鉉大統領時代に提起された「バランサー論」を実践した初の韓国大統領となった。就任演説では「米中との親善」を謳い、同年5月に訪米すると、翌6月に訪中した。ちなみに朴槿恵大統領は、1980年代以降の大統領で、訪日しないまま任期を終えた唯一の韓国大統領となった。
2015年9月、朴槿恵大統領が西側諸国の国家元首で唯一、習近平主席が主催した「抗日戦争勝利70周年軍事パレード」に参列した時、オバマ大統領の堪忍袋の緒が切れた。すぐにワシントンに朴大統領を呼びつけ、「韓国へのTHAAD配備の準備を進める」と告げたのだった。
完全に逆転した中韓関係
THAADは北朝鮮のミサイルを迎撃する最新ミサイルという建て前だが、高度なレーダーで中国人民解放軍の動向を監視するのが、もう一つの目的である。
それまで朴槿恵大統領は中国側に、「THAADの3つのノー」(アメリカからの要請なし、協議なし、決定なし)を公言し続けてきた。だが、2016年2月に、北朝鮮が長距離弾道ミサイルの発射実験を行ったことで、「THAAD配備の検討に入る」と宣言したのだ。
そこからの中韓関係は、雪崩を打ったように悪化の一途を辿っていった。興味のある方は、中国最大のコリアタウンがある山東省威海の惨状を、2016年8月にルポした現代ビジネスの拙稿をご覧いただきたい(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49756)。
だが、現地を取材して分かったのは、中韓関係の悪化は、単にTHAADだけが原因ではないということだった。
1992年に中韓が国交正常化した時、中韓のどちらが相手を必要としていたかと言えば、それは圧倒的に中国の方だった。その3年前の天安門事件で、鄧小平が始めた改革開放政策が灰塵と化してしまったため、中国は韓国経済の力を借りて、新たな経済発展の道を歩もうとした。
私は1995年から1996年にかけて北京大学に留学したが、当時の江沢民政権は、「韓国モデル」で中国経済を発展させようと必死になっていた。それで当時の黄炳泰駐中国韓国大使とは、よく会っていたものだ。
ところがここ数年、中国で飛び交っているのは、「韓国不要論」である。自動車にせよ電化製品や携帯電話にせよ、「韓国レベル」の製品は、すでに中国企業が生産できるようになったため、韓国の価値が大きく下がってしまったのである。
反対に韓国は、輸出の4分の1と観光客の半数を中国に頼るようになり、韓国経済は完全に中国に依存するようになった。そんなわけで、いまや圧倒的に韓国の方が中国を必要としている。中国で韓国を必要としているのは、韓国に多く出稼ぎに行く吉林省の朝鮮族自治区くらいのものだ。
そのため、「THADD導入検討」を朴槿恵政権が発表した後の習近平政権の仕打ちは、情け容赦のないものだった。現代自動車もロッテデパートも、中国で壊滅的打撃を受けた。韓国へ旅行する中国人観光客も激減した。
THAADが韓国に配備された今年春、北京の知人に、「中国はどこまで嫌韓に本気なのか? と問い合わせたら、彼は大学生の息子が撮ったという10秒ほどの動画を送ってきた。そこには、息子が自室にあった韓流スターのDVDを100枚以上、叩き割るシーンが収められていた。
名物記者の高圧的なインタビュー
そんな中国が、韓国に「赦し」を与えたのは、10月の共産党大会を成功させた後だった。THAADを追加配備しない、アメリカのMD(ミサイル防衛)システムに加わらない、日米韓の3ヵ国軍事同盟的な動きは取らないという「3つのノー」を確約することで、何とか文在寅大統領の訪中の許可を与えたのだった。
もとより中国としても、韓国との関係改善を図る必要に迫られていた。米朝関係が緊迫してきたことで、「戦争を望まない」韓国を味方につけておくことが、好戦的なトランプ政権に対する牽制になるからである。
かくして、13日に文大統領は北京へと向かった。その前日、中国中央テレビは、名物記者の水均益による文大統領への独占インタビューを放映した。発言内容は、以下の通りだ。
水記者:「初の訪中を前に、何を期待していますか?
文大統領:「習近平主席とは3回目の会談となるが、中国国民にお目にかかるのは初めてだ。今回の訪中の最大の目的であり最重点項目は、韓中両国の信頼関係を回復させることだ。国交正常から25年、両国関係はあらゆる分野で高速の発展を遂げた。
だが最近、両国の信頼関係は大きく傷ついた。相互信頼は両国関係の発展にとって重要だ。もし私の今回の訪中で両国の信頼関係が回復し、両国の国民感情が改善されたなら、それは大変有意義なことだ」
水記者:「中国の指導者(習近平主席)に対して、どんな印象を持っているか語ってほしい」
文大統領:「習近平主席は、有言実行の誠実な人で、信頼がおける指導者だ。私は習主席と2度会ったが、二人の信頼感と友誼は深まったと思う。中国には、『一回目で(関係が)生じて、二回目で熟して、三回目で朋友になる』という言い回しがある。今回が3回目なので、習主席とぜひ朋友になりたい。
もう一つは、習主席が唱える『国を治め政を理する』という哲学は、私の考えと相通じるところが多い。習主席は、『党員幹部は永久に、人民の忠実な公僕であれ』と強調している。私の施政目標もまた、国民を主人とする大韓民国とし、国民が主人となる政府を作ることだ。
習近平主席は、小康社会(そこそこ豊かな社会)の建設を強調しているが、私も国民が中心となる経済、人ともって本(もと)となす経済を提唱している。習主席と私は、『国を治め政を理する』方面で、多くの共通事項があり、二人で両国関係を新たに発展させ、新たな提携時代を切り拓いていきたい」
水記者:「あなたの駐中国大使も言っていましたが、今回の訪中は、中韓関係の暗黒の狭く長いトンネルからの出発です。私は特に理解しておきたいのですが、われわれのTHAAD問題に関して、どうやって妥結し、解決していくべきなのでしょうか。双方はどうやって政治的信頼関係を、再び正常な軌道に乗せることができるのでしょうか?
文大統領:「THAAD問題に関して、韓国と中国はそれぞれの立場がある。仮にそれぞれが相手の立場に立てば、ある程度、相手の立場を理解できるのではないか。思考を換える必要がある。もし一度で解決できない問題なら、さらに多くの時間と労力をかけて、問題解決の智恵を見出していこうではないか。
韓国と中国は10月31日、両国関係について話し合い、共通認識に至った。それだけでなく、ベトナムのダナンで習近平主席と2度目に会談した時も、両国首脳は再度、10月31日に発表した共通認識を確認した。そして両国の提携の新時代を開こうという共通認識に達した。
当時、習主席は両国関係の新たな起点、新たな開始を提起し、私は完全に同意した。韓国と中国がTHAAD問題がもたらした痛みを克服して、手を携えて発展の新時代へと邁進することを期待したい」
水記者:「あなたは傷口が治癒し、同時に思考を換えて顧みるべきだと言います。しかし中国側は、THAADが中国の戦略的安全の国益を損害したのであり、いまはただ一時的な解決のコンセンサスを得たにすぎないと考えています。中国の戦略的安全の脅威を取り除くため、韓国は今後、どのような政策を取るつもりなのですか?
文大統領:「まず、韓国がTHAADの配備を決めたのは、北朝鮮が核実験やミサイル実験を切れ目なく行う状況下で、北朝鮮の挑戦に対応するため、仕方なく行ったものだ。周知のように、北朝鮮のミサイル技術が短期間で進歩する中、韓国は迎撃ミサイルに、特に高高度の迎撃ミサイルに頼らざるを得ない。それで韓国はTHAADを導入するしか道がなかったのだ。
しかも韓国は、THAADを純粋に防御の目的だけに使うのであって、中国の安全の国益を損なう意図などかけらもない。中国がTHAADのレーダーを心配し、中国の安全の国益を損害するというなら、韓国も思考を換える必要がある。
今後、韓国は、特別注意し、THAADを北朝鮮のミサイルを防御する目的以外に使わないようにする。そして中国の安全の国益を損なわず、アメリカが何度も答えているような承諾を行うよう注意する」
このインタビュー番組を見ていて、中国の高圧的な姿勢が、ひしひしと伝わってきた。
韓国の期待過剰と、中国の無関心
2014年7月、朴槿恵大統領が、中国中央テレビのインタビューに答えたが、その時は終始笑顔で、自著の中国語版にサインしたり、熱心に学習中だという少し怪しげな中国語を披露したりしていたものだ。中国人記者も、「アジアを魅了する韓流を作る秘訣を教えてほしい」とか言って、しきりに持ち上げていた。
ところが今回のインタビューを見ていると、互いに硬い表情で、両国のぎこちない緊張関係を感じる。さらに、中国側が関心を持っているのは、中国国内で偶像崇拝化運動が始まった習近平主席のことを誉めてもらうことと、THAAD問題で韓国を責め立てることだけなのである。
本来なら、国賓として訪中したなら、習近平国家主席が迎えるはずなのだが、この日、習主席は、南京大虐殺80周年記念式典に参加するため、南京を訪問していた。その式典が終わった後も、江蘇省を視察していて、翌14日の午後、ようやく北京に戻ったのである。
そして文在寅大統領との首脳会談を、同日夕刻に行ったが、テレビ映像を見て私が驚いたのは、江蘇省から戻った習主席が、散髪を済ませてから文大統領との首脳会談に臨んだことだった。わずかな時間でも、首脳会談や国賓晩餐会の「予習」にあてて然るべきなのに、何と散髪していたのだ。まるで力が抜けているのである。
ちなみに、今回の文大統領の訪中に随行した韓国財界の面々は、サムスン電子の尹富根副会長、SKグループの崔泰源会長、韓華グループの金昇淵会長など、260社余りの企業代表。朴槿恵大統領が2015年に訪中した時の128社を大きく上回り、史上最大規模となった。まさに、韓国側の期待過剰と、中国側の無関心が好対照だったのだ。
文在寅大統領の訪中スケジュールは、以下の通りだった。
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13日:午前にソウル出発
午後、在中国韓国人との懇談会
韓中ビジネス・フォーラムで演説
14日:韓中経済貿易パートナーシップ開幕式
中国国賓訪問歓迎式典
習近平主席と拡大及び少人数首脳会談
国賓晩餐会
韓中国交正常化25周年記念「文化交流の夜」
15日:北京大学で講演
張徳江全国人民代表大会常務委員長と面談
李克強総理と面談
その後、重慶へ
16日:大韓民国臨時政府庁舎訪問
韓中第三国共同進出産業力フォーラム
陳敏爾重慶市党委書記と午餐
現代自動車第5工場訪問
重慶から帰国
韓国内でも批判の雨あられ
さて、訪中の結果はどうだったか? 韓国の主要紙には、ものすごい酷評が載ったのだった。
まずは、12月16日付『東亜日報』の「8回の食事で中国とは2回だけ……訪中を急ぐあまり膨らんだ冷遇論」と題した記事から要約してみる。
〈 習近平主席が2期目になって国賓として訪中したモルジブのヤミン大統領(12月6日~9日)、パナマのパレルラ大統領(11月16日~22日)に較べて、文在寅大統領への国賓待遇は、微妙に異なっていた。
李克強首相は、訪問3日目の15日になってようやく出て来たが、14日の午餐会をドタキャンした。さらに13日午後の鐘山商務部長(経済相)との接見もキャンセル。結局、すでに共産党常務委員を引退した張高麗副首相に代行された。
韓国側が希望した共産党序列4位の汪洋副首相にも会えなかった。ちなみに今月3日から7日に訪中したカナダのトルドー首相は、公式訪問なのに、トップ二人はもちろん、汪洋副首相にも会っている。
文大統領は結局、習主席と李首相以外のトップ7の誰とも会えず仕舞いだったのだ。国交正常化25周年や、関係改善を求める経済界の要求に応えようと、訪中を急ぎすぎたことで冷遇されたという声も出ている。
また文大統領は、訪中しても随行の韓国企業人とばかり食事していた。8回の食事の中で、中国側と会食したのは、14日の習主席主催の国賓晩餐会と、16日の重慶での陳敏爾書記との午餐の2回だけだった。しかも習主席との晩餐会の写真と映像は、翌15日の夕刻になってようやく公開される始末だ。トランプ大統領の時は生放送だったのにだ。
しかし青瓦台(韓国大統領府)関係者は、「習主席との首脳会談が予定より1時間も長くなったのは初めてであり、それだけ文大統領重視の表れだ」と評価している 〉
続いて、同日付の『朝鮮日報』社説で、タイトルは「あまりに異常な文大統領の訪中、一体これは何だ」。
〈 文大統領の中国国賓訪問では、納得しがたいことがいくつも起こった。中国の警備員による韓国記者への集団暴行、王毅外相の欠礼、国賓晩餐会の内容非公開、文大統領の「独り飯」など、理解不能のことが、一つや二つではなかった。
それでも、文大統領の支持者たちは、暴行を受けて骨まで折った韓国の記者たちに向かって、「いいことやった」「中国はやるべきことをやったのだ」「もっとたくさん死ねばよかったのに」などという書き込みをネット上にアップしている。廬武鉉政権で青瓦台公報首席を務めた趙キスク氏は、フェイスブックで、「暴力を使わざるを得なかった警備員の正当防衛ではないか」と書き込み、後に謝罪した。
文大統領の訪中が、この事件で傷つくところだったのに、いくらそうだからといって、同じ国の人間に吐く言葉だろうか。だから中国共産党の宣伝機関は、「韓国のネットでは、規則を守らない記者が悪いとなっている」と報道したのだ。記者たちが規則を破ったのではない。文大統領の支持者たちと中国が一方的に、暴行を受けて倒れた韓国の記者たちをもう一度、踏みつけたのだ。青瓦台はメディアに対して、「暴力の事態が首脳会談に影響を与えないようにしてほしい」と頼んだ。
文大統領が、13日の夕食と14日朝食、昼食と、3回連続で中国側と会食しないというのも、初めてのことだ。公開されたスケジュールによれば、文大統領の3泊4日の訪問期間、10回中、中国側と食事したのは、国賓晩餐会と16日の重慶市書記との午餐の2回きりだった。中国の序列2位の李克強総理は13日、北京にいたにもかかわらず、文大統領と会わなかった。文大統領は15日の午餐を提案したが拒否され、午後に面談した。
こんなことで、何が国賓訪問なのか。こんなことがあっていいのかと、納得がいかない。2013年、朴槿恵前大統領が訪中した時は、2日間にわたって習近平主席と2回、李克強首相とも1回、会食したものだ。
王毅外相が、文大統領に挨拶した際、腕を後ろに回した行為も、考えられない無礼な行動だ。韓国の外交長官が習近平主席に対して、まるで友人に対するように気安く同じことをするなど、絶対にありえないことだ。それなのに青瓦台は、「親近的だと受け取ってほしい」と言ったのだ。
14日に国賓の晩餐会があった時も、青瓦台は状況を説明する資料や写真1枚さえ配布せず、その後、問題視されてから、一日経って一部の写真を公開したというのも、おかしな話だ。青瓦台は、「(国賓晩餐会では)両首脳とも何の発言もないから」と言って、取材記者を晩餐会の会場に入れなかった。そのためわが国の国民は、国賓としての晩餐がどのように進行したのか知る由もないのだ 〉
最後は、12月16日付『文化日報』社説を訳出する。タイトルは「対北朝鮮圧力が抜け落ちた韓中首脳の4大合意、最悪の外交で失敗だった」。
〈 文在寅大統領と習近平主席が14日、首脳会談で合意したという「4大原則」(朝鮮半島での戦争を容認しない、朝鮮半島の非核化、対話と交渉による平和的な問題解決、南北間の関係改善)は、文大統領の訪中の目的を全面的に色あせたものにする問題の多いものだ。10月31日に韓中が行った「3不合意」に続く最悪の外交失策と記録されることになるだろう。中国の主張を復唱したにすぎないからだ。韓国の立場は、実質的に反映されていない。
中国は、1990年代の北朝鮮核危機の後、「朝鮮半島問題3大原則」として、朝鮮半島での戦争を容認しない、朝鮮半島の非核化、対話を通した解決を、一貫して掲げてきた。そこに、南北関係改善を追加しただけのことで、これは中国がいつも主張し続けてきたことだ。実際、中国側の発表では、4大原則はすべて習近平主席の発言として紹介されていた。
何よりも深刻な問題は、北朝鮮に対する圧力がまったく入っていないことだ。北朝鮮の郭とミサイルの完成が迫っている現在、金正恩政権が揺らぐほどの最大限の制裁と圧力を加えねばならない。そうした原則で、国際社会が共感し、アフリカ諸国さえ積極的に同調しているのだ。
文大統領は習主席に、北朝鮮の核兵器が大韓民国を第一目標としていることを明確に告げ、あらゆる手段を尽くして阻止する決議を出さねばならなかった。習主席に対して、北朝鮮への原油供給の中断を要請し、韓国もTHAADを含むさらに強力な防衛システムを構築するほかはないと、説明しなければならなかった。そうしたことが抜け落ちた4大合意は、虚無感を通り越して、否定的な評価を付けるばかりだ。
まず、金正恩に、「安心しろ」とメッセージを送ったようなものだ。アメリカでは、3ヵ月時限説とともに、軍事オプションに傾く最後の段階という見方まで出ているというのに、韓国と中国が協調して、アメリカの実力行使を阻止しようと宣言したに等しいからだ。
二つ目は、北朝鮮が核兵器完成を宣言した状況でも、「朝鮮半島の非核化」に合意したことは、韓国に早晩必要な「核自衛権」を自ら放棄した行為だ。戦術核の再搬入と、自前の核開発の必要性が、アメリカでも議論されている。三つ目は、アメリカとの立場の違いによって、アメリカとの同盟の亀裂が、さらに深くなる可能性がある。
THAADの問題については、習主席が文大統領に、「訓戒」を行った。中国側の発表によれば、習主席は「THAAD問題を韓国が適切に処理することを望む」として、「方向を正確に掴むように」という表現まで使った。少なくとも、韓国政府が言う「THAAD封印」(中国の黙認)は、事実ではないということが判明したのだ。
また文大統領は、3食連続で韓国側の随行者と食事をした。そんな様子から、文大統領がなぜ中国へ行ったのか理解できないという声が上がるのも不思議ではない 〉
まさに3紙とも激烈に、文大統領を批判しているのである。
来年2月9日に、平昌オリンピックの開幕を控えた文大統領としては、何より習主席の開幕式への参加を確定させたかったはずだが、それも定かではない。
だが日本は、韓国を嗤うことはできない。いまの韓国の姿が、5年後の日本の姿にならないという保証はないのだ。
いずれにしても、暗雲垂れ込める2018年の東アジアを予感させるような文在寅大統領の訪中だったと言える。
2018年は、今年にも増して「大国の暴走」が顕著になってきます。どうぞご高覧ください!