千葉市 JFEスチール「製鉄所の役割知って」 川崎で見学会をルポ
灼熱(しゃくねつ)の鋼鉄を間近で-。大手鉄鋼メーカーのJFEスチールは川崎市臨海部の同社製鉄所(東日本製鉄所)で行っている工場見学会について、今冬から実施回数を増やす。生活圏の至近にありながら“遠い存在”という製鉄所の認知度を高め、地域貢献や事業の飛躍につなげたい考えだ。同製鉄所を訪ね、子供たちに人気の見学プログラムを追体験した。(横浜総局 外崎晃彦)
同製鉄所は京浜運河を挟んで両岸にあり、総敷地面積は約700万平方メートル。東京ドーム約150個分に相当する広さだ。施設の主要部は人工島の扇島にあり、一部は横浜市にまたがっている。
■まるでSF映画
扇島の大部分は同社の所有地。徒歩で移動するにはあまりに広く、見学中はバスでの移動が基本だ。見上げるほど高い工場、頭上にめぐらされた長大なパイプなど、島内には製鉄関連の設備が点在し、車窓からは原材料の石炭、石灰石、鉄鉱石が高々と積まれているのが見える。
島内はあらゆる構造物が赤茶色に彩られている。日常生活と一線を画すその世界は、まるでSF映画の舞台だ。幅数十メートルにも及ぶ道路には信号がほとんど見当たらず、貨物用の線路上を直径約5メートル、高さ約5・3メートルもある巨大な鉛色の鍋(溶銑(ようせん)鍋)を積んだ列車が、ゆっくりと通り過ぎていく。高炉で溶かした鉄を運んでいるのだという。
製造した鉄鋼製品は、国内の出荷先にはトラックや船で輸送する。海外には、敷地内から船に乗せて直接輸出することができる。護岸には製品をつり上げるための巨大なクレーンが何基も並んでいる。
■赤光を放つ鉄の塊
工場見学の最大の見どころは「製銑」と「圧延」の2つの工程だ。高炉では、鉄鉱石から「銑鉄」と呼ばれる鉄鋼の基礎になる物質を取り出す「製銑」の作業が行われている。銑鉄は、鉄が高温で溶けたどろどろの状態で、高炉の底部で激しく火花を散らしながら鍋に移しかえられる様子が施設内の窓越しに眺められる。
鉄を引き延ばして成形する「圧延」の工程も壮観だ。数百メートルも吹き抜けの構造になっている巨大な工場内を「スラブ」と呼ばれる、長辺3、4メートルのかまぼこ板状の鉄の塊が、コンベヤーでスルスルと移動していく。スラブはまだ高温で赤光を放っており、遠方の高所からでも、放射熱が顔に伝わってくる。
スラブはプレス機に吸い込まれると、長さが2倍にも4倍にも延ばされる。縦横にくるくると回転させて圧力をかける方向を変えながら、大量の水を吹き付けて冷やしていく。同社の担当者は「巨大で高温の鉄鋼が、いとも簡単に形を変えられていく様子に、子供たちからはいつも歓声があがる」と話している。
■バス送迎も計画
製鉄所はJR川崎駅周辺の市街地から車で約30分の場所にある。生活圏の至近にもかかわらず、関係者以外が立ち入ることは少なく、目と鼻の先に“異世界”が広がっていることを知らない住人も少なくない。
同社によると、見学会の参加者は年間約3万1千人(平成29年度)で、そのうち約1万8千人が小中学生。年に2回、春休みと夏休みに実施しており、今年12月からは冬休みにも実施するという。
これまでは多くが東京都内からの参加で、「逆に川崎市や横浜市などの近隣からは少ない」(同社担当者)。そのため今秋以降は、近隣小学校を対象にバス送迎による見学会も呼びかける方針だ。
同製鉄所の岩山真士副所長は「100年以上にわたって地域とともに歩んできた。見学会を通して、暮らしになくてはならない鉄がどう作られるのか、実際に目で見ることで、製鉄所を身近に感じてほしい」と話している。
用語【JFEスチール】
持ち株会社「JFEホールディングス」を頂点とするJFEグループの中核となる鉄鋼メーカー。平成15年に川崎製鉄と日本鋼管が統合して発足し、東京都千代田区に本社を置く。高炉を所有し、鉄鉱石などを原料に、最終製品の生産までを一貫して行う。国内の粗鋼生産量は年間約3千万トンで、新日鉄住金に次ぐ国内2位、世界8位(29年、世界鉄鋼協会調べ)。首都圏では京浜地区(川崎市)と千葉地区(千葉市)の2カ所に製鉄所がある。