千葉市
ZOZO「前澤社長」のプロ野球進出構想 問題は「超高級会員制クラブ」の住人
1年に35億円以上を使うとも発言
紗栄子(31)、剛力彩芽(25)、そしてプロ野球の球団――。衣料通販サイト「ZOZOTOWN」などを運営する「スタートトゥデイ」の前澤友作社長(42)の“欲しいほしい病”が話題を呼んでいる。今度はプロ野球の球団だ。
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7月17日、Twitterで「【大きな願望】プロ野球球団を持ちたいです」と発表。今に至るまで大きな反響を呼んでいる。
とにもかくにも、フォーブス誌によると2017年3月時点で、総資産は3330億円という。人の心はいざ知らず、理論的に買えないものはない。Wikipediaには、以下のような記述がある。
《ワイン好きであり自宅や倉庫に数千本のワインを保管している他、高級車のコレクターとしても有名で、エルメス仕様のブガッティ・ヴェイロン、特注仕様のパガーニ・ゾンダなどのスーパーカーを多数所有。
現代アートのコレクターとしても有名で(略)自宅やスタートトゥデイのオフィスにはいたるところに著名な作家の作品が飾られている。2016年5月に開催されたクリスティーズNYのオークションにて、ジャン=ミシェル・バスキアの作品「Untitled」(1982)を作家の過去最高落札額となる5700万ドル(約62.4億円)で落札し、大きな話題となった》
ネットメディア新R25が掲載したインタビュー記事「限界まで使え。“世界の前澤”が語る『お金を増やす方法』はシンプルだった」(5月16日)にも、以下のような発言が収録されている。
◇「欲しいものがありすぎて、次から次へと買っちゃうんです」
◇「(配当収入の年35億円が)すぐなくなります」
◇「最近は現代アート、骨董品、家具、あとは相変わらず車もいっぱい買ってます。将来住みたい場所に土地を買ったりもします」
◇「いままで貯金したことはないかもしれないです。高校生の頃もバイト代はレコードや楽器につぎ込んでいました」
◇「欲しいものがどんどん出てきます。よく「キリがない」といいますけど、自分の“キリ”がどこにあるのか見てみたいですね」
自民党と安倍政権も後押し!?
では前澤社長は「プロ野球の球団」を購入できるのか、まずは経済担当の記者に登場をお願いする。
「前澤社長は千葉県出身で、本社は千葉市、地元愛が強いことでも有名です。16年には千葉マリンスタジアムの施設命名権を取得して、『ZOZOマリンスタジアム』としました。そうした経緯もあり、当初はロッテが球団を身売りするとの憶測も飛びました。しかし千葉ロッテマリーンズは否定、スタートトゥデイ側も明確な説明は避けました」
これだけなら、すぐに沈静化していたかもしれない。だが、新しい登場人物が、さらに燃料を投下する。04年に大阪近鉄バファローズ買収に名乗りを上げた堀江貴文氏(45)だ。当該のツイートを引用させていただく。
《というわけでひっそりと動いている16球団化のキーマンを前澤さんに紹介しときましたよ。四国アイランドリーグベースに一球団、BCリーグベースに北信越に一球団、静岡に一球団、沖縄に台湾と米軍連携で一球団っていいと思う》
「堀江氏がTwitterで『プロ野球の16球団化』とリンクさせたのです。14年に自民党が経済効果などの観点から安倍首相(63)に16球団化を提言したことがあり、16球団化自体は、決して荒唐無稽なビジョンではありません。また一部の熱心なプロ野球ファンも歓迎しています。例えば、各4球団で、セ東西、パ東西の4リーグになれば、リーグの優勝チームでポストシーズンを戦うことができます。17年のセリーグ・クライマックスシリーズでは、14.5ゲーム差で優勝した広島が3位のDeNAに敗れるという大番狂わせが起きました。16チームなら、このような“珍事”は絶対に起きません」(同・経済記者)
以上のような経緯を踏まえ、プロ野球OBに見解を伺おう。この問題の取材なら、この人をおいて適任者はいない。東大野球部から千葉ロッテマリーンズに入団した小林至氏(50)だ。
焦点は12球団オーナーの「印象」
千葉ロッテOBというだけでなく、引退後はコロンビア大学でMBAを取得。05年には福岡ソフトバンクホークスに入社し、取締役として経営企画室長、編成・育成部長などを歴任した。現在は江戸川大学教授(スポーツ経営学)として教鞭を取る。
選手としての経歴だけでなく、「フロント」と呼ばれる球団経営の業務も熟知している。前澤社長のプランを検討してもらうには、まさに適任中の適任者だ。
「前澤社長の発言は、日本球界にとっては嬉しい話ですよ。一流の経営者が『日本プロ野球の価値は高い』と太鼓判を押してくれたわけですからね。さらに言えば、これまでのプロ野球で球団の譲渡は経営難を原因とするものが多く、世間も“身売り”なんていうネガティブな捉え方をしがちですが、今回は、どの球団にもそういう状況はない。わたしは、球界の活性化や新陳代謝を促すポジティブな意味でのオーナーシップの譲渡はあっていいと考えています」(小林氏)
ガッツは称賛に値する。地元愛の理念も素晴らしい。何よりプロ野球は興行だ。ファンに夢を与えなければ、存在意義を失う。そして、前澤社長の発言に夢があふれているのは事実だろう。
だが、その実現性を検討すれば「?」が浮かぶのも、また事実だという。プロ野球の関係者が匿名を条件に本音を明かす。
「前澤社長がTwitterで発表してしまったのは、本気度を伝える手段としては、あまりよくなかったような気がします。プロ野球は、TOBで買い付けができるような世界ではありません。仮に、譲渡を考えている球団があったとしても、歴史と伝統に彩られた“超高級会員制クラブ”の一員としてふさわしかどうか。そこをクリアしないと話は前に進みません。それぞれの球団オーナーは、プロ野球の興行面を支えてきただけでなく、スポーツ文化を振興し、国民的関心事を提供する“公共財”を維持・発展させてきたという自負があります。16球団でも話は変わりません。あと4球団を増やすかどうかは永田町や霞が関が決めるのではく、12球団がどう判断するかですから」
日本以外の球団がおススメ?
ロッテ買収でなく、新規に球団を作るというシナリオでも、難易度は変わらないというわけだ。小林氏も、「球界の内部で働いていた時と、今のように外部からプロ野球を見ている時では、16球団構想についてのイメージはちょっと変わります」と率直に言う。
「外部にいる今では、ファンの皆さんと同じように夢を感じます。一方、内部にいた時は、より現実的に見ていました。4球団増えたところで、果たしてパイは拡大するのかというと、疑問だと言わざるを得ませんからね。拙速な16球団化で経営難に陥る球団が出ると、“公共財”としてのプロ野球文化を毀損してしまいます。やはり、ファンの方にはもどかしく見えるかもしれませんが、巧遅というくらいのペースでちょうどいいのではないでしょうか」
前澤社長の“地元愛”とは離反するかもしれないが、12球団のオーナーだけでなく、プロ野球のファン全員が賛成するかもしれない参入案がある。それはアジアにおけるプロ野球の発展に寄与するというアプローチだ。
「サッカーはW杯だけでなく、世界一のクラブを決めるFIFAクラブワールドカップも開催しており、ファンの“夢”を叶えるシステムが充実しています。同じように、野球ファンなら誰でも、大リーグのワールドシリーズを制したチームと、プロ野球日本一のチームによる試合を見たいでしょう。さらに、世界中のプロ野球チームが参加して世界一を決めるシリーズの実現も、野球ファンの夢に違いありません。前澤社長が台湾や韓国のプロ野球チームを買収し、強化策に成功、日本プロ野球とアジアナンバーワンを争うような状況が実現すれば、野球が世界的に普及することにつながります。そんなプランに前澤社長が乗り出せば、誰もが諸手を挙げて賛成するのではないでしょうか」(小林氏)
日韓ロッテグループは連結売上高が6兆円を超え、千葉ロッテマリーンズはそのうちの100億円程度を占めるに過ぎない。経営の観点から球団を手放す可能性は極めて低い。前澤社長の挑戦に、追い風は今のところ吹いていないというのが偽らざる現実のようだ。