千葉市 インフルエンザの流行「今季は早い」

千葉市    インフルエンザの流行「今季は早い」説は本当か

今季は「例年よりもインフルエンザの流行が早い」と言われ、そのような報道もある。実際、9月以降、学級閉鎖する自治体も出てきている。そこで、近年の状況と背景などを調べてみた。

 

● 今季は本当に 「流行が早い」のか

「今シーズンはインフルエンザの流行が早い」

そんな情報が飛び交ったのは9月上旬のことだった。

2018年9月1日に大分県でシーズン初のインフルエンザによる学年閉鎖が発生。以降、学年閉鎖・学級閉鎖があった自治体は、大阪市(9月3日)、茨城県、栃木県(9月4日)、横浜市(9月5日)、愛知県(9月7日)、山形県、東京都、岐阜県、和歌山県、愛媛県(9月10日)…と一気に全国に広がっている。

この状況を受け、「例年よりも1~2ヵ月流行の始まりが早い。予防に努めてください」と注意を促す報道が散見されたが「え、そうだっけ。いつもこんなもんじゃないの」と感じた方も少なくなかったのではないだろうか。

筆者もその一人。念のため、厚生労働省の報道発表資料で、2011年までさかのぼってみた。

2017年には9月4日に沖縄県で学年閉鎖・学級閉鎖が発生したのを皮切りに、9月5日に鳥取県と大阪市、9月6日に東京都へ。流行は一気に拡大していた。

2016年の流行は9月8日、茨城県、東京都、千葉市から始まっていた。

2015年は、8月31日に長野県からスタートし、9月4日に愛媛県、9月7日に北海道と神奈川県へと広がっていた。
2014年は、9月8日に北海道と島根県、9月9日に千葉県、東京都、大阪府から。

2013年は、静岡県で9月13日に1校の学年閉鎖が発生したが、その後は、10月8日に和歌山県と沖縄県で発生するまで間が空く。

2012年は、9月3日に沖縄県で発生し、9月4日が鹿児島県と福岡県、9月5日に東京都というように、北上している。

2011年は9月1日に北海道で発生して以降、9月27日に山口県、9月29日に京都府で、全国に感染が広がるまでに1ヵ月近くたっていた

つまり、少なくとも2014年から5年間は、今年同様、インフルエンザの流行は9月初旬にはスタートしていたことになる。

もはや9月初旬にインフルエンザが流行し始めるのは「普通」。「例年より早い」とは言えない状況になっている。では一体、日本で何が起きているのだろう。

● 気候が逆の南半球から 持ちこまれる可能性

近年起きていることを考える上でまず着目したいのは、早々に学年閉鎖・学級閉鎖が発生している地域の顔ぶれだ。東京、大阪、京都、千葉、北海道、沖縄など、外国からの観光客が多い地域が並んでいることに気がつく。

新潟大学大学院の齋藤玲子教授は、ラジオNIKKEIの「感染症TODAY」(2018年8月29日放送)で以下のように述べている。

「日本では、インフルエンザは11月~3月にかけての寒い時期にはやるのが普通だが、オーストラリアやニュージーランドといった南半球では7月~8月が真冬となり、流行のピークを迎える。

一方、熱帯・亜熱帯地域に属する東南アジアの流行シーズンは「雨期」。ベトナム、タイ、カンボジア、ミャンマーでは5月~11月ころが雨期にあたり、7月~9月に流行のピークを迎える。

また、赤道直下のシンガポール、マレーシアでは、一年中インフルエンザが散発的に見られ、大きなピークはない」

今年の春先には、沖縄を訪れた外国人観光客が感染源となって、麻疹が流行してニュースになった。

同様に、海外の流行地域からの渡航客が、日本にインフルエンザウイルスを持ちこんでいる可能性は十分あり得る。

加えて、7月8月、学校は夏休み。その間に、海外に旅行してインフルエンザに感染し、9月に発症する、ということも想像に難くない。

● 9月のインフルエンザは 接触感染かもしれない

さて、日本人の常識では、冬にインフルエンザが流行するのには、気温と湿度の低さが関係していることになっている。

インフルエンザウイルスは、湿度20%前後・温度20度前後のときが最も空気中に長時間生息できる。さらに乾燥が進むと、くしゃみ等によってまき散らされたウイルスの水分が蒸発して空中に浮遊しやすくなり、人が吸い込みやすくなって飛沫感染が広まる、と考えられている。

逆に、高温多湿の条件下では、ウイルスは浮遊しにくく、飛沫感染は起こりにくい。

それなのに、なぜ、高温多湿の熱帯亜熱帯地域で、インフルエンザが流行するのか。

「熱帯亜熱帯でのインフルエンザ感染は、患者さんの鼻水や唾液が、健康な人の手について、それを目や鼻にすりこんでしまう、接触感染によって起こるのではないかと考えられている。

熱帯亜熱帯でも、雨が降るとやや肌寒く感じ、人が室内に集まるため、接触感染も起きやすくなるのではないか」(齋藤教授)
9月の日本も、熱帯・亜熱帯と同じく、高温多湿。しかも台風や秋雨前線の影響でたっぷりと雨も降る。

じっとり暑い、夏休み明けの教室で、冬とは異なる、接触感染によってインフルエンザウイルスの感染は広がっているのかもしれない。

● ピークが年2回 訪れる時代が来る

齋藤教授の話には、さらに興味深いことがあった。亜熱帯で、日本と同じように四季がある、ベトナム北部ハノイを調査した報告だ。

「1月~3月の冬と、6月~8月の雨期との2回、インフルエンザが流行していた」というのだ。

一般的に、日本におけるインフルエンザの流行は、秋から冬にかけてだが、沖縄県では、冬と比べて半分ぐらいではあるものの、夏にも流行する。

沖縄の、とある病院の医師によると、冬と夏では、流行の「質」にも違いがあるらしい。

1つは、冬の流行の中心が子どもたちであるのに対して、夏の流行は中高年が中心。もう1つは、冬の流行対策としてはワクチンの接種があるのだが、夏には目立った対策が行われないため、結果的に免疫を持たないまま感染した高齢者が重症化してしまう傾向が大きい、というのである。

2020年東京オリンピックに向けて、日本のグローバル化はますます進む。地球温暖化の進行で、亜熱帯化もどんどん北上していくなか、ベトナムのハノイや沖縄のように、インフルエンザのピークが年2回訪れる時代が、遠からず訪れるような気がする。

昨年はワクチンの安定供給に失敗し混乱が起きたが、今後はさらに、「2ピークス時代」を見越した予防対策が重要になってくるのではないだろうか。