千葉市 “嘘の勤務先”売ります 「アリバイ屋」

千葉市   【特集】“嘘の勤務先”売ります 「アリバイ屋」の実態とは

 

依頼に応じて嘘の証明書などを作って架空の会社勤務を装う手助けをする「アリバイ屋」。一体、誰がどのような目的でこの業者を利用しているのでしょうか。

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勤務先を偽装できる“アリバイ屋”
「住居を構えたいのですが、現在は定職がありません。LINEのところで申し込みをして、ここから始まりました」(Aさん)

建設現場などを渡り歩き、日雇いの仕事を生業としているAさん(58)。2年以上もの間、決まった住居を構えずに暮らしている。

「出張に行けば宿付きで仕事があったんで、仕事がないときにネットカフェとかそういうところで生活していたので。日雇いみたいな形で収入を得てますので、部屋を借りたいと思ったときに固定収入がないということで部屋が借りられない」(Aさん)

そんな中、ある業者の存在に目が止まったという。

「スマホでいろいろ検索してたら“アリバイ屋”というものがヒットした」(Aさん)

Aさんが見つけたのは「アリバイ会社」を名乗るK社のホームページ。「社会的地位を提供するサービス」「完全成功報酬」などという言葉が記されている。依頼に応じて架空の勤め先などの書類を作っているようだ。

やりとりはすべてLINE。K社とのやり取りはこんな文言から始まった。

「弊社は賃貸専門のアリバイ会社です。在籍会社のご用意から確認の電話対応、各種書類の作成まで承っております。源泉徴収票、給与明細の発行は可能です」(K社)

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アリバイ作りの構図はこうだ。アリバイ会社はまず嘘の給与明細などを作るため、「在籍会社」を用意。Aさんがこの会社に勤めているように装って給与明細などを発行する。そして、Aさんがこの会社に勤務していると書類に記載し、住宅の賃貸契約を申し込む。管理会社や保証会社から在籍確認の電話があった場合も、「うちの従業員です」と返答することでAさんの勤務先を偽装できるというわけだ。

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実際にAさんの手元に届いた会社概要と偽造された源泉徴収票。大阪市中央区に本社を置く従業員7人のIT企業で、業務内容はコンピュータの開発などと書かれている。偽装された源泉徴収票の年収欄には712万円と記されていた。

「簡単にLINEだけで全部できてしまって、源泉徴収まで送ってこられたので、ちょっとこれはまずいんかなと思って。成功報酬は10万4000円ですと。断り方をいま考えてるところです」(Aさん)

怖くなったAさんは結局、書類を使うことはないとアリバイ会社に伝えたという。

「ニセモノだということは指摘しにくい」
そもそも、偽造された源泉徴収票やアリバイのために用意された会社情報で本当にマンションなどの賃貸契約を結ぶことができるのか?別の不動産会社に書類を見てもらうと…。

「ニセモノだということは指摘しにくいです。管理の立場で言うと絶対やめてほしい。滞納して回収できなくなって夜逃げした、ここでやっと実損が出る。会社が実在しなくても、電話口に出た方が『今、外出してます』『在籍しております』と言われれば、嘘だなということにはならない」(エイトコーポレーション 赤井聡社長)

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在籍会社社長を直撃
では、Aさんに嘘の源泉徴収票を出した在籍会社は存在するのだろうか?真相取材班は会社の所在地とされている大阪市内の住所へと向かった。

「このビルですね。603号室。あっ書いてますね。株式会社O社と書いています。会社はここにあるということです」(記者)

なんと、問題の会社は実在しているようだ。真相を尋ねるべく、社長が出てくるのを待つ。そして、5時間後―。

Q.すいません。社長でいらっしゃいますか?
「はい」(在籍会社社長)
Q.雇用していない人の源泉徴収票を出されていますよね?
「税理士に聞かなわからへん」
Q.心当たりありますよね?
「ちょっとやめてや、なんやねん。囲まれて追及されても困るやん」
Q.K社というアリバイ会社とはどういう契約なんですか?
「いや、うちは契約してません。K社という会社とはしてません。もうぶっちゃけた話、してもええんか。あんまり悪く言うなよ。会社の名前だけ貸すんや。飲み屋の女の子に部屋を貸すことを嫌がるんや、家主が。そういうのがあるんで、うちの名前だけ貸すわけや。契約金の2割は僕に入ってくる」
Q.虚偽の書類を提出して…
「書類は出してないってうちは。東京からこの人間の在籍確認がくるから答えなさいよっていうのがくる。それ以上のことはしてない」

在籍確認の問い合わせに対し「会社で働いている」と嘘の電話対応をしていることは認めたものの、書類の偽造については関与を否定した。

アリバイ屋と呼ばれるサイトは複数あるが、こうした行為は犯罪に当たらないのか?

「明らかに嘘もしくは文書の偽造があって契約が結ばれるわけですから、そういう契約自体が不公正だし、架空の文書を使って何らかの財産上の利益を得ることは詐欺罪になります」

アリバイ会社「詐欺」では?
犯罪の温床ともなりかねないアリバイ屋の存在。取材班はホームページに記載されてい東京渋谷区にあるK社の住所へ行ってみた。すると…

Q.K社の部屋に行きたいんですが…
「いない。誰か住んでいて会社がある場合は代表が誰って言うのはわかるから。ただここにはいません」(管理人)

日を改め、電話で話を聞いてみると…

Q.アリバイ会社のK社でよろしいですか?
「そうです」
Q.これは詐欺ではないか?
「一応その会社様と契約の方をして名前を使わせていただいているので、詐欺というのには当たらない」(アリバイ会社 K社)
Q.身分を偽った上でマンションを借りるのでは?
「不動産会社の方からすれば、規約違反には当たるのかなと思います」

不正なことをしているという自覚はあるものの、違法行為という認識はないようだ。

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利用者には切実な事情が
依頼に応じて嘘の勤め先などの書類をつくるアリバイ屋。一体どのような人たちが利用しているのだろうか。夜の街で話を聞くと真相の一端が見えてきた。

Q.アリバイ会社って知ってます?
「あー。なんか聞いたことある。身分変えて部屋を借りてるぐらいは聞いたことあります」(女性)

Q.実際にアリバイ会社を使ったことある?
「ある。家を借りるとき給与明細だってとか作ってくれたりする」

アリバイ屋は、水商売などの職業に就いている人たちが普通の会社で働いているように見せかける手助けもしているようだ。

しかし一方で、アリバイ屋に助けられたという女性もいる。千葉市に住むBさん(31)は、当時、2歳だった息子を保育園に入れるためにこのサービスを頼ったという。

「うちは(夫からの)DVでした。金銭的DVみたいな感じで、1日1000円かな。ごはん食べられないですよね。1日1000円しかもらえないんですよ。どうにかして働かなきゃいけないけど、子どもを預けられないしどうしようっていう」(Bさん)

十分な生活費を渡そうとしない夫。Bさんは職探しのため、急いで息子を保育園に入れなければならない状況に追い込まれたが、専業主婦だったため子どもを認可保育園に入れることはできなかった。

「行政に頼ったりもすごくしたけど、全然別に何も。話だけしか聞いてくれない。DVをどう回避しますかみたいな講座があって、ある人に知り合って書いてあげるよ紙、みたいな。就労証明書」(Bさん)

Bさんは「夫婦共働き」という偽りの証明書で保育園の入園許可を受けた。その後離婚したが、社会に嘘をついたという罪悪感が今も拭えないという。

ネット上で「アリバイ」までもが売買される世の中。違法性が指摘される一方で、利用者たちが必要としている限り、この手の商売は消えないのかもしれない。