船橋市   参院議員・山本太郎

船橋市

「永田町の非常識」山本太郎の5年 今も街頭で「私が総理になったら……」、問われる「一匹おおかみ」の先

 

「永田町の非常識」を連発しながら政権との対決姿勢を表現し、しばしば、行き過ぎて叱られる。俳優から政治家に転じて5年、参院議員・山本太郎は国会でいまも異質な存在であり続けている。数が物言う政治の世界で、「一匹おおかみ」的生き方は、何をもたらすのか。

駅前演説は「ゲリラライブ」
9月14日午後6時。埼玉県朝霞市の朝霞台駅は、帰宅客を中心にごった返していた。山本はロータリーに横付けしたトラックの荷台に立ち、スポットライトをあびてマイクを握った。Tシャツ、ジャケット、ジーパンにスニーカー姿。国会議員の街頭演説というより、若手シンガーのゲリラライブのようだ。

「ぜひみなさん、政治に対しての苦言、提言、質問、何でも結構です。山本に直接ぶつけてください」。街頭演説は、いきなり聴衆から質問を受け付ける形で始まる。

山本のそばに設営された2台のモニターには、主張を裏付けるデータやグラフ、訴えの理解を助けるイラストなどが映し出される。話題の流れを読みながら、その場で秘書が「5万枚はある」というスライドから1枚を選び出す。

山本自身、国会での派手な言動がクローズアップされがちなことは認識している。「ちょっとはまともだな」「この部分は山本の言う通りだな」と思ってもらうための仕掛けだ。
ヤジを無視せず
「バカ!」

演説も中盤にさしかかったころ、周囲にアルコール臭を漂わせた男性からヤジが飛んだ。聞けば、2015年、安全保障関連法案の採決で、山本が1人「牛歩戦術」をとったことが気にくわなかったのだという。山本は無視せず答えた。

「山本太郎っていうバカが、国会の中で牛歩をやった。あの目立ちたがりが、って話も聞きますけど、そんな目立ち方って、あんまり楽しくないですよ。悪目立ちって言うんです」

「じゃあ、あのバカがどうしてそんなバカをやっているのか。そういう行動になる原因ってなんだったんだろうなってことを、ちょっと興味持ってくれる人がいたらいいなと」

「あのバカが牛歩やったってことで、なんでそんな牛歩やらなきゃいけない状況なのかってことを、ちょっと調べてなるほどと、こんな大きく法律を変えようとしていたのかということにつながる人が、10人いたらOKですよ、私は」

「政治家を信じるな」
TPP、働き方、消費増税、憲法改正……。山本の話し口は、次第に熱っぽくなっていく。

「あまりにも、いまの政治はみなさんのために存在しているっていう状況にない。眼中にないんですよ、みなさんのこと。失礼な言い方だけど。それが悔しくて、悔しくて。あり得ないでしょ」

「政治家を信じるな。山本太郎も含めて。政党も信じるな。自分の目でしっかりと政治を監視してください」

みっちり2時間マイクを握り、最後は「とにかく政治に関心を」「一人ひとりの力で政治は変えられる」と訴えた。その後、希望者との2ショット撮影とスマートフォンでのライン交換に1時間。計3時間街頭に立ち続けた山本の背中は、ジャケットにまで汗がにじんでいた。
大政党に属さないタレント出身議員
「私が総理になったら……」

街頭でこうぶち上げる山本だが、主張がわずかでも現実味をもって受け止められる日はくるのだろうか。そうした姿が見えないのなら、結局はパフォーマンスに走る野党議員という一つの「型」に納まっているに過ぎない――。今のところ、そうした「評価」が国会では大勢だ。

高校1年でテレビデビュー。油べったりの体で踊る「メロリンQ」のパフォーマンスが話題となり、その後は俳優やタレントとして活躍した。2011年、東日本大震災による東京電力福島第一原発事故を機に「脱原発」を公然と主張。すると、芸能界で干された。12年末の衆院選で「新党 今はひとり」を立ち上げ、国政に初挑戦。13年7月の参院選で初当選した。

タレント出身の国会議員は数多いが、大政党に属さず政界進出した例に、漫才師から参院議員に転じたコロムビア・トップ(下村泰)がいる。庶民の代弁者として存在感を示し、2004年の通夜には元首相の橋本龍太郎も焼香に訪れた。「第二院クラブ」でコロムビアと活動をともにした青島幸男は、その後東京都知事にもなった。
問われる本気度
「ひとり」でスタートした山本は14年から、小沢一郎と手を組む。破天荒な山本と清濁併せのむ小沢という異色の組み合わせだが、小沢はいま、周囲に「(政治のいろはが)だんだんわかってきた。いい男だ」と言って一目置く。

10月9日夜、千葉県船橋市での街頭演説で、山本は小沢からかけられたという言葉を明かした。「どんなに嫌だと思っている人でも手を結ばないと、政権交代はいつまでもできない」

かつて、共産党をめぐって「わさび論」「辛子論」と呼ばれる論評があった。どこまでも正論を追い求めて妥協せず、国会での攻防が引き締まることから「スパイス」に例えられた。

スパイスのような存在感を示そうとするのか。それとも、小沢に学び、権力を握る主役に少しでも近づこうとするのか。そのことがいま、山本に突きつけられている。