「単月で集客ディズニー超え」USJ

「単月で集客ディズニー超え」USJ“V字回復”の理由
2017年3月23日

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ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の人気をV字回復させた、運営会社ユー・エス・ジェイの元チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)の森岡毅氏(44)。巨額投資でハリー・ポッターなどの強力なコンテンツをそろえる一方で、資金がない中でも目新しい企画を実現し成功させてきた。インタビュー2回目は、USJのV字回復、快進撃の理由を聞いた。【田中学】
マーケッター・森岡毅さんインタビュー(2)
--ご専門のマーケティングで正しい戦略を作り、実行できたことがV字回復を果たせた理由ですね。
◆森岡さん そうですね。2014年に450億円を投じてオープンしたハリー・ポッターの施設が話題になりました。ですが、それまでも設備投資資金がない中で、お金がないなりの工夫を重ねました。

重要視していたのは消費者視点です。そのためにも、USJのブランディングを低迷時の「映画だけのテーマパーク」から「世界最高のエンターテインメントが集まるセレクトショップ」に変えて、客層のターゲットも映画好きの人からファミリー層などに広げました。集客のためにつくべき焦点を三つほどに絞ったのです。
そうして作られたものの一つが、当時好感度の高かった人気タレントで、11年にUSJ10周年大使を務めてくださったベッキーさんのテレビCMです。ベッキーさんを大きなシャボン玉の中に入れて、「わあー、シャボン玉の中から世界はこう見えるんだ」と見せた。これでも集客が伸びました。10周年の「ハッピー・サプライズ!」のコンセプトに合わせて、USJには驚きがあることをターゲットの客層に伝える内容でした。
こうしたCMができたのも、ベッキーさんとの交渉をまとめてくれた人、シャボン玉の演出を実現してくれた人がいたからです。人間が入れるほどのシャボン玉を作るには相当な技術が必要なのです。私がやっていたのは、「ここで戦えば勝てる」「ここでこういうふうに戦おう」ということを示すこと。それを実現するために奔走してくれた人が周りにたくさんいて、とても感謝しています。

2カ月で準備した「ハロウィーン・ホラー・ナイト」
──10周年の11年9~10月に開催されたハロウィーン・イベントも資金がない中で集客を伸ばしたと聞いています。

ハロウィーンのアトラクション「チャッキーのホラー・ファクトリー」=2014年9月11日、加古信志撮影
◆「ハロウィーン・ホラー・ナイト」ですね。パフォーマー数百人がゾンビにふんして夜のパーク内に解き放たれたのです。ゲストは突然出くわすゾンビに大絶叫で、ストレスも発散できていたと思います。これは、日本女性が他国に比べてストレスをためやすい環境に置かれているのに、安心してストレスを発散できる手段に恵まれていないという事情を発見して企画しました。狙い通りで、40万人の追加集客を果たしました。
ただ、この企画が決まったのはイベント開催2カ月前の6月末。「ゾンビをやるパフォーマーを集められれば企画はできるのだから、やろう」と強引に進めました。すばらしかったのは、実際にイベントを実行するエンターテイメント部です。数百体のゾンビの中に1体でもヘンテコなのがいたら、ゲストのUSJへの満足度はゼロになってしまいます。他のイベントなどがよくても、一つでもゼロのものがあれば、消費者は満足感を得られません。でも、短期間で仕上げてくれました。
ただ当時、エンターテイメント部にとって私の存在は鼻持ちならなかったと思います。私が来るまで彼らは、好きなようにイベントを作っていました。それが、グレン・ガンペル前社長の後押しを受けた私が、「あれはムダだ」「方向性が間違っている」などと言って企画を決めるようになったのですから。
企画自体は、「ハロウィーン・ホラー・ナイト」のように消費者に必ずや楽しんでもらえる内容にできたと自負しています。一方で、企画をどう作り込むかは、イベントのプロである彼らなしにはできません。エンターテイメント部のトップとは毎日のようにやり合いましたね。
こうして一緒に戦って結果が出ることがわかると、よいサイクルが回り始めました。時間も手間もかかり、苦労もしました。ストレスから血尿が出ていた時期もありましたけどね。まだ社員が800人ほどの会社だったのですが、妙に縦割りの意識があったんです。だけど、やはり結果が出始めて、社員の皆がハッピーになりましたね。

「集客」を唯一無二の核心と捉えて改善
──ハロウィーン・イベントもベースとなり、15年10月には単月でディスニーリゾートを上回る175万人の集客を達成しました。
◆ハリー・ポッターの新エリアがオープンするなど環境は整っていました。正しいことが正しく実行された結果です。専門のマーケティングで言うと「戦略の強さと戦術の強さ」がありました。私は強力な戦略をぶち込めたと思いますが、何よりUSJの現場力が優れていたので、想定を上回る戦果を出すことができました。戦術が戦果の大小を決めるのです。エンターテイメント部を含め社内の皆と得られた戦果を誇りに思いますね。
彼らは、去年よりも今年、今年よりも来年とどんどん能力が上がっていきました。毎年、USJの質が上がっていくのですから、消費者に飽きられずに集客が伸びていきました。15年10月は、1日で10万人を集客した日もありましたね。
こうなると、わらしべ長者ですよね。成功が次の成功を呼ぶんです。集客が伸びるほど、次の集客に必要な能力が組織としてどんどん身についていきました。
もともとUSJにはたくさんの問題がありましたが、それは集客低迷に端を発していた。集客を伸ばすことがUSJのつくべき唯一無二の核心と考え、これを改善することで問題を解決できました。そのために必要なことは全部心を鬼にしてやってきました。

森岡さんはUSJを17年1月に退職されました。今後は何をするのですか?
◆私のノウハウでUSJを再建するミッションは完遂しました。次にやりたいことはたくさんありますが、一言で言うと「日本をどう元気にするか」です。前回申し上げた、自分の成長と社会に貢献できるという二つのチャレンジが重なることをしたい。また、著作の中でも書いていますが、「専門のマーケティングで日本を元気にする」のが私の人生に掲げている目標です。
おそらくですが、周囲の人が「なぜそんなとこ行くの?」と驚くところに私は好んで行くでしょう。USJに入社する時も「なぜ斜陽産業のテーマパークにわざわざ行くんだ」と言われていましたから(笑い)。