船橋市
全国の強豪集まる謎のサッカー大会?「船橋招待」支える市立船橋監督の志。
「強豪が強豪の名にあぐらをかいていていいのか――」
市立船橋高校サッカー部を率いる朝岡隆蔵は、自分達のあり方についてずっとこう考えていたという。
市船といえば、これまで選手権優勝5回(歴代5位)、インターハイ優勝9回(歴代1位)を誇る名門中の名門。高円宮杯プレミアリーグイーストにも所属し、これまで布啓一郎(現・ザスパクサツ群馬)、石渡靖之、そして朝岡と3代に渡って監督のバトンを引き継いでも一切力が落ちることはない希有のチームと言って良い。
まさに“泣く子も黙る”強豪と言える市船が、「このままではいけない」と危機感を抱いて起こしたアクションが「船橋招待U-18サッカー大会」だった。
以前は「ただ参加しているだけ」だった市船。
今年で23回目を迎える船橋招待は、毎年3月下旬から4月上旬にかけて開催される。
当初は市船のBチームの強化策として設けられたフェスティバルだったという。
千葉県の各サッカー指導者の任意によってスタートしたこの大会は長年継続されてはいたが、2011年に朝岡が監督に就任してから、抜本的な改革がなされていた。
「僕はコーチ時代からこの大会に参加をさせてもらっていますが、以前はチーム数が多く、船橋市以外のあちらこちらのグラウンドで一斉にやっていたんです。ただ、練習試合の延長線上で冠を付けているだけの側面を強く感じていたんですよ。
ウチも運営には関わっていましたが、“ただ参加しているだけ”という感覚が拭えませんでした。厳しい言い方をすると“形骸化”している気がしたんです。『船橋招待(当時の名称は東日本ユース)』の期間中にウチのAチームが別の遠征に出ているという状況もあった。本来はもてなす側の立場にもかかわらず、トップチームとスタッフがその場にいない訳ですから……それでは船橋でフェスティバルをやる意味がないと感じたんです」
参加チームをすべてAチームに!
大きな疑問を抱いていた朝岡は、監督就任後に大きなアクションを起こす。
まず、すべての試合がガチンコ勝負になるように、参加チームをすべてAチームにして、なおかつその参加チームも全国に名だたる強豪校、強豪Jクラブユースにした。
この大会を本格的な強化大会にすると同時に、主催を朝岡が中心とする「船橋招待U-18サッカー大会実行委員会」とし、主管として市立船橋高校サッカー部が全面的に運営を請け負う形にしたのだ。
さらに船橋市サッカー協会に共催を、後援は船橋市教育委員会になってもらい、まさに市立船橋が中心となって「オール船橋」で開催する大会にリニューアルを図ったのだ。
「九州を盛り上げよう」という熱意が凄くて。
朝岡は、その活動についてこう語っている。
「これまで参加していた沢山のチームの関係者の皆さんに断りの連絡を入れることは、本当に断腸の想いでした。でも形骸化されている感が否めなかったので、大会を完全にリニューアルする意思は固かった。
なぜそこまでリニューアルにこだわったのかと言うと……。
監督就任3年目の2013年、福岡インターハイの前に『プレインターハイ』と称して、インターハイのシミュレーションを兼ねた福岡での大会に、東福岡さんと九州国際大付属さんなどが我々を招待してくれたんです。
その懇親会で九州国際大付属、東福岡の指導者が話をしていたんですが、その九州の指導者同士の『九州のサッカーを盛り上げよう』という熱意が凄くて……大いに感銘を受けました。
その時は、九州の皆さんのおかげもあって、福岡インターハイを市船が制することができた。
そこで『ああ、招待されもてなされて優勝したウチは、もしかすると自分達の看板にあぐらをかいているかもしれない』と感じたんです。
全国優勝することは素晴らしいし、プロを何人輩出したかということも素晴らしいことだけど、でもそれだけで市船の価値を測ってしまっていいのか、と。
それ以外で市船の価値を大事にしていきたい。もっと周りを巻き込んで、いろんな意見を聞いて、毎年改善を図りながらこういう環境を用意して、みんなに来てもらうようにすることこそが重要だと思ったんです」
全国各地にある見応えあるサッカーフェス。
実は、日本全国にはその地域の強豪校が中心となって、全国各地の強豪校や強豪Jユースを招いて開催するようなサッカーフェスティバルが沢山ある。
例えば選手権優勝校の前橋育英が主催する「プーマカップ群馬」、福岡の東海大福岡(旧・東海大五)が主催する「大五フェスティバル」、星稜が主催する「石川県ユースサッカーフェスティバル」、岐阜の大垣工業が主催する「全国高校サッカー選抜大垣大会」などが代表例だ。
市船もそこに招待され、良質の対戦相手、競技環境において試合を重ね、強化してきたのだ。その過程の中で常に招待される側だった自分達に、朝岡は大きな疑問を感じたわけだ。
朝岡は2013年から大会の段階的なリニューアルを重ねてきた。そして、2016年には東福岡をこの大会に招待した。ちょうどその前年の2015年のインターハイ決勝で激突し、市船が敗れた因縁のライバルだった。
「前年(2015年)のインターハイ決勝で負けたときに、『来年の船橋招待に絶対に東福岡を呼ぼう』と決めたんです。理由は単純にウチより良いチームだし、プレミアも東西違うので、なかなかやれる機会がないと思ったし、2013年のプレインターハイのお礼もしたいという想いがありました」
このオファーを東福岡側も快諾。
東福岡を率いる森重潤也は、「市船に勝つことができなければ、全国優勝は考えられない。市船と戦うことは、全国での自分達の立ち位置、目指すべきものを推し量る重要な指標になる」と、「市船倒さずして、全国制覇なし」と高いモチベーションで2016年から今回と3年連続で参加をしている。
全国から強豪ばかり15チームも集まった!
リニューアルを重ねてきた船橋招待は、今年は全国から15チームが集結。
北からベガルタ仙台ユース、矢板中央、前橋育英、國學院久我山、東京ヴェルディユース、市船、千葉U-18、桐光学園、静岡学園、帝京長岡、名古屋グランパスU-18、京都橘、広島皆実、徳島ヴォルティスユース、東福岡……という強豪チーム名がズラリと並ぶこととなった。
試合は、市船が日々練習や試合を行っている法典公園グラウンド(通称・グラスポ)と、’16年に完成した高瀬下水処理場上部運動広場(通称・タカスポ)、最終日のみジェフユナイテッド千葉U-18の協力でフクダ電子フィールドの3会場で行うこととした。
移動を減らし、25分ハーフ形式にし……。
これまでの試合会場はグラスポを中心にしながらも、千葉県内の大学の力を借りていたが、参加チームに移動という負担を与えてしまっていた。
そうした疲弊を懸念した朝岡は、タカスポ完成を契機にメイン会場を船橋市内の2カ所に絞り、さらに試合方式も25分ハーフで回していくことで、よりフレッシュな状態でいろんなタイプのチームと対戦できるようにマネジメントした。
「移動が増えてしまうと、参加チームに負担がかかってしまう。なので、今回はメイン会場を2つ(グラスポ、タカスポ)に絞って、25分ハーフにしました。
そうすれば、その会場に1日いれば試合数をいくつかこなすことができる。
25分ハーフの試合はヨーロッパの育成フェスティバルでは一般的な方式ですし。この方が中だるみが無く、いろんなタイプのチームと戦えるメリットもある。今大会を振り返っても1試合、1試合のクオリティーが高くなったと思います」
筆者も3日間すべて現場で取材をしたが、朝岡の言葉通り、どの試合も中だるみが無く、お互いが集中した状態で非常に熱い試合が何試合も展開されていた。
中でも東福岡vs.前橋育英、東福岡vs.市立船橋、静岡学園vs.東京Vユースなどは驚くほどハイレベルなゲームとして記憶に残った。
最終的には、優勝は4勝1分1敗の成績を残した東京Vユースに。京都橘が勝ち点で並んで2位、1差で追った市立船橋が3位となって、盛況だった大会の幕を下ろすこととなった。