浦安市   高速バス通勤

浦安市

「高速バス通勤」の実態とは 住宅街から座って都心へ 理想的スタイルは現実的か

アクアライン経由の通勤高速バスは「地下鉄並み」の本数
大都市の郊外から都心への通勤は電車が一般的かもしれませんが、なかには高速バスを通勤に利用する人もいます。そのような「高速バス通勤」をする人の姿が最も目立つ路線群のひとつが、千葉県の木更津市や市原市などから東京湾アクアラインを経由して東京や神奈川に向かう各路線です。

 

木更津から海を渡って通勤といえば、一定の年齢の方の中には、『男女七人秋物語』(1987年に大ヒットしたテレビドラマ)で、明石家さんま扮する今井良介が川崎の会社までフェリー通勤しており、船上で様々なシーンが展開されたことを覚えている人もいるでしょう。1997(平成9)年にアクアラインが開通し、フェリーは廃止され代わりに高速バスが運行を開始しました。都心へ直通する便利さが人気を博し、路線新設や増便を繰り返しています。

たとえば、東京湾アクアラインの木更津金田ICにほど近い木更津金田バスターミナルからは現在、平日午前7時台の1時間の間に東京駅行きの高速バスが18便も発車します。平均すると約3分間隔ですから「地下鉄並み」です。さらに、品川、新宿、川崎、横浜行きなども発車します。

木更津金田~東京駅間の所要時間はおよそ40分、運賃は1250円です。一方の鉄道は、平日朝7時台にJR木更津駅から発車する東京方面の列車は8本(うち3本は千葉駅止まり)で、所要時間は約1時間22分(内房線・総武快速線直通列車の場合)、運賃は1317円(IC利用の場合)となっています。

千葉県から東京都心へは、千葉市(内陸部および幕張地区)、佐倉市(ユーカリが丘など)、浦安市などからも、通勤利用をおもなターゲットにした高速バスが運行されています。このほか、たとえば神奈川県からは、東急田園都市沿線の住宅地から渋谷駅へも、朝のラッシュ時に高速道路を経由して運行する直通バスがあります。

木更津金田バスターミナル。方面別に10の乗降場が設けられている。
東京以外でも見られる「高速バス通勤」 回送を有効利用した例も
東京以外の都市でも、通勤利用をおもなターゲットにした高速バス路線は数多く運行されています。たとえば、愛知県豊田市や三重県桑名市郊外の住宅地から名古屋都心、京都府京田辺市の住宅地から京都および大阪都心などへの路線です。このほか、山形と仙台のように県庁所在地どうしを結ぶ都市間路線でも、鉄道より速くて運賃も安いことから通勤利用が目立つ路線もあります。

神戸市の郊外にあたる垂水区の住宅地から、都心の三宮に向かう路線も、増便を繰り返している人気路線ですが、この路線は誕生の経緯がユニークです。

山陽バス(当時は山陽電鉄の自動車営業本部)は1998(平成10)年、明石海峡大橋の開通と同時に三宮と徳島を結ぶ高速バスの運行を開始しました。同社の営業所(車庫)は垂水区にあるので、そこから三宮のバスターミナルまでバスを回送したうえで、徳島行きとして運行していました。営業所の周囲は新興住宅地で三宮に通勤する人が多く住んでおり、同社の路線バスと鉄道を乗り継いで通勤をしていたので、「どうせ車両を回送するなら、運賃をいただいて営業運転しよう」と考えたのが、誕生のきっかけといわれています。乗り換えが不要なうえ、リクライニングシートに必ず座れることから予想外の人気となり、高速バス車両をわざわざ増備して増便を繰り返す「ドル箱路線」に成長しました。

この路線のほか、前出の豊田市、桑名市などの路線は、郊外の住宅地内できめ細かく停車してから都心へ向かいます。一方、木更津金田バスターミナルのように、巨大な「パークアンドライド駐車場」が乗り場に隣接し、マイカーから高速バスへの乗り換えに便宜を図っているケースも。環境のいい郊外に住み、自宅の前から、あるいはマイカーでバスターミナルまで向かい、高速バスに乗り込めば、あとはリクライニングシートでくつろいでいるうちに都心へ到着している――理想的な通勤スタイルのひとつと言っていいのではないでしょうか。

遅延は大丈夫? 定期券は?
ところで、通勤のために高速バスを利用するとなると、多くの方は「遅延」を心配するかもしれません。

たしかに、高速バスは道路事情によって遅延することもあります。しかし、道路の混雑状況は、ある程度、毎日同じ傾向であるので、バス会社はそれに合わせてダイヤを設定しています。突発的な事故渋滞などで遅れることはありますが、事故で遅延するのは鉄道も同じです。

ただし、鉄道が遅延して会社に遅刻しても「仕方ない」とされるケースもあるかもしれませんが、高速バスが同じように扱われるとは限りません。高速バスの遅延が遅刻扱いとならない正当な理由と認めてもらえるかどうか、会社の理解が必要かもしれません。

また、列車通勤の場合は定期券を購入する人が多いと思いますが、高速バスの場合はどうでしょうか。これは、バス会社(路線)によって異なります。定期券を販売している路線もあれば、大幅に割引された回数券のある路線、「PASMO」などのICカードで利用すると割引となる路線など、様々です。

前出の木更津金田バスターミナル~東京駅間でいえば、通勤定期券(1か月)が4万5000円です。鉄道の定期券(木更津駅~東京駅)が3万4950円ですから、1か月のうち22日出勤する想定で計算すると、片道あたり200円ちょっとの追加出費となります。近年はICカードが普及していることもあり、定期券を購入せず日によって、あるいは往路と復路で高速バスと鉄道を使い分けている人もいるかもしれません。

なお、短距離の高速バスはほとんどが定員制(先着順乗車)で、事前の予約は不要です。逆に言うと、補助席になってしまったり、満席で乗車できなかったりすることもありますが、バス会社としてもニーズに合わせて増便したり臨時便を運行したりして対応しています。もちろん、ピーク時間帯を外したり、始発に近いバス停から乗車したりする方が確実に乗車できます。

今回はおもに通勤利用を主目的として設定された路線の例を紹介しましたが、通勤で利用できる高速バスはこの限りではありません。たとえば、神奈川県内の東名高速上にあるバス停(東急田園都市線 あざみ野駅から徒歩約10分の「東名江田」など)では、箱根や静岡方面からバスタ新宿、霞ヶ関、東京駅などへ向かう高速バスに乗車できます。兵庫県内の中国道上のバス停(西宮北ICなど)から大阪駅へも同様です。もしも家の近くに高速道路が通っているならば、高速バスを通勤に利用するという選択肢もあり得るかもしれません。