米のイラン原油輸入停止要求に戸惑う日本政府 真価問われる外交手腕
【安倍政権考】
トランプ米政権がイランに対する制裁の一環として、日本などの同盟国に対し11月4日までにイラン産原油の輸入をゼロにするよう要求し、日本政府に戸惑いが広がっている。日本はエネルギーの約9割を中東に依存し、主要産油国のイランとも長年友好関係を維持してきた。北朝鮮対応で緊密に連携する米国に配慮し、イランからの輸入を停止すれば、中東諸国との関係が揺らぐ恐れがある。
「日本企業に悪影響が及ばないよう、引き続き米国を含む関係国と協議していきたい」。菅義偉官房長官(69)は6月27日の記者会見で米国の要求について、こう述べた。政府の対応に関しては「日米間で協議中」と具体的な言及を避けた。
対イランで強硬姿勢を貫くトランプ氏は5月、イラン核合意から一方的に離脱する方針を表明した。トランプ氏が核合意に伴い解除された米国の制裁が全て段階的に再発動される11月4日を期限としてイラン産原油の完全輸入停止を各国に求めたのは、経済を原油輸出に頼るイランを締め付け、新たな核合意に向けて有利に運ぶ思惑がある。
政府関係者などによると、6月19日、都内で開かれた日米外務省局長協議で、米側は「米国の望むような行動をとってほしい」「一切の例外はない」と強い姿勢でイラン産原油の輸入停止を求めた。一方で「国によって事情があるのは理解している。米国としてはあくまでゼロを目指す」とも話し、日本の資源調達の現状にも一定の配慮を示したという。
日本側はこの数年、イランからの輸入は減らしているとして理解を求めたが、協議は平行線のまま終了した。
中東外交に詳しい専門家は米側の狙いについて「最初に日本に要求をのませ、他の国にも従わせようとしている」と指摘する。平成24年1月、当時の安住淳財務相(56)はガイトナー米財務長官との会談で、事務方が事前に用意した「米国の意見を聞き、検討する」とする応答要領を無視し、イラン原油輸入を減らすと約束した経緯があるためだ。
当時、中国、韓国、インド、トルコなどが米国に抵抗を続ける中、日本は早々に白旗をあげ、国際社会の中で米国の「圧力」に屈したように映った。
日本が今回、米国の要求を安易に受け入れれば、長期的に見て中東諸国と築いてきた友好関係にきしみが生じ、エネルギー政策に打撃が及ぶ危険をはらむ。
日本は同盟関係にある米国と根深い対立が続くイランとも独自の外交を展開してきた。安倍晋三首相(63)は毎年秋に米ニューヨークで開かれる国連総会に出席する機会を生かし、イランのロウハニ大統領と会談している。米国とイランそれぞれの主張を水面下で相手に伝達し、両国の橋渡し役を担ってきた。
ただ、トランプ氏のイラン敵視が今後さらに強まれば、日本の中東外交は正念場を迎えるかもしれない。拉致問題を抱える日本は重大局面を迎える北朝鮮への対応で米国との連携が欠かせない。トランプ氏の核合意離脱は中東情勢の不安定化を招いた一方、国際的な批判を受けても軍事的挑発を繰り返してきた北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長を対話路線に転換させたのも「トランプ氏の強さ」(外務省幹部)だからだ。
振り返れば1973(昭和48)年、第4次中東戦争に伴う第1次オイルショックの中、来日したキッシンジャー米国務長官が中東寄りの日本外交を批判したのに対し、田中角栄首相は「中東産原油が入らなければ日本は立ち行かなくなる。米国がその分を工面してくれるのか」と一蹴した。
今回、安倍首相はトランプ氏との緊密な関係を維持しながら、国力の根源であるエネルギーの安定供給を確保できるのかどうか。対イラン政策で外交手腕の真価が問われることになる。
(政治部 小川真由美)
日本の原油輸入先 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によると、昨年の日本の原油輸入量の国別比率の首位はサウジアラビアで、40・2%だった。アラブ首長国連邦(UAE)24・2%、カタール7・3%、クウェート7・1%、ロシア5・8%と続き、イランは6位で5・5%。原油全体に占める中東からの輸入比率は87%で、サウジアラビアからの輸入が増えている。