千葉市
【農をつなぐ】品目増やし次代へ 障害がある息子の将来見据え決断 長ネギ栽培の富田町野口農園
「息子は今では農園になくてはならない戦力」。千葉市若葉区で「富田町野口農園」を営む野口茂久さん(55)は、後は収穫するだけとなった長ネギを前に語る。2013年、発達障害がある高校2年の次男(17)が将来働ける場をつくろうと、農業の世界に飛び込んだ。決断から約5年。次男は農作業が板についてきた。その働きぶりを高く評価する“師匠”は「自分が引退した後も、息子が引き継いで続けていける農園を」と先を見据える。
◆これなら働ける
野口さんは同区内で、工場の生産管理を専門とするシステム開発会社を経営。同区富田町地区で開かれた農業体験企画に参加したのは、コミュニケーション能力に不安を抱えながらいずれ社会に出る次男の将来について、「楽しくてやりがいのある仕事に就かせてやりたい」と頭を悩ませていた時期だった。
野口さんは農作業の体験を通じ「これなら息子も働ける」と確信。12年、市が主催する新規就農希望者研修に早速参加した。そこで出合った長ネギ栽培に魅了され、翌年から、会社経営の傍ら農業者としてのスタートを切った。
◆3年先まで計画
生産管理システムの開発経験を生かし、気温や湿度、日射量など畑の環境の変化を1分ごとにデータ化して、種まきや肥料、収穫の時期を決定。生産計画は3年先まで立てている。病気に負けないよう、石灰水をまいた土で育てるのがこだわり。みずみずしく柔らかい食感を実現させた。
長ネギは美浜区役所で開かれている朝市などで直売。市内飲食店にも出荷している。客から「あの味が忘れられない」「次はいつ入荷するの」と声を掛けられる頻度も増えてきた。野口さんは「真剣に作っているので、おいしいとほめられるのが一番うれしい。今は常に農業のことを考えている」とすっかり農業者の表情だ。
◆頼もしい相棒に
おいしさを支えているのが次男の地道な作業。平日は学業に専念しつつ、週末や夏休みに農作業を手伝っている。種まきは機械に頼らず、手を使って丁寧に。最初はつたなかった手つきも、師匠である野口さんの厳しい指導を受けながら徐々に改善していった。一つ一つ作業を覚え、今では重労働の草取りから収穫作業、出荷前の袋詰め作業にも取り組み、野口さんにとって頼もしい相棒だ。
農園はいずれ次男に継いでほしいと願っている。先々の経営の安定を考え、今から生産する野菜の種類の拡大に力を入れる。今後10年以内に、ジャムなどの加工品製造も始めようと構想を練る。畑作業以外の仕事を増やし、土いじりが苦手な発達障害者や身体障害者が働ける場を設けるためだ。自分が始めた農園を、次代を担う息子へ、そして、社会へ-。“農”の可能性が広がっていく。