中国が軍事パレードで見せた「透明威嚇」
9月3日に行われた中国の「抗日戦争勝利70年」の記念式典と軍事パレードでは、弾道ミサイルなどの最新兵器が初公開された。中国がいま戦力を見せ付けた狙いはどこにあるのか。米国や日本への影響は――。防衛問題や安全保障に詳しい日本大学の勝股秀通教授に分析してもらった。
ミサイルの識別番号も書き入れるサービスぶり
「抗日戦争勝利70年」記念式典の軍事パレードで披露された対艦弾道ミサイル「東風(DF)21D」(3日午前、北京で)=田村充撮影
「透明威嚇」という言葉を思い出した。1996年12月、中国の国防相として初めて、遅浩田氏が訪米した際、米海軍は空母打撃グループによる演習を披露し、陸軍もミサイルの実射訓練などを展示した。その圧倒的なパワーを目の当たりにした国防相が発した言葉だ。
「透明威嚇」とは、何も隠さずに見せることで、相手を威圧し、屈服させるといった意味であり、「戦わずして勝つ」という孫子の兵法に通じる言葉でもある。
9月3日、北京の天安門広場で行われた「抗日戦争勝利70年」を記念する軍事パレードで、習近平国家主席は、かつての米国が中国に行ったように、日本やASEAN(東南アジア諸国連合)など周辺諸国に対し、「透明威嚇」を実践したのかも知れない。
次々に登場した兵器は、戦車からミサイルまで40種類に上り、航空機も約200機が参加した。いずれも国産兵器とされ、そのうちの8割余りが初公開という。しかも、テレビ映りを意識して、ミサイルにはわざわざ「DF-26」や「DF-21D」などの識別番号まで書き入れられるサービスぶりだ。軍の威容を誇示することで、日本はもとより、アジア太平洋地域への関与を強める米国をけん制する意図があったことは明らかだ。
注目される兵器を挙げると、まずミサイルでは、「空母キラー」と呼ばれる対艦弾道ミサイル「東風(DF)21D」(射程1500キロ)と、グアムの米軍基地まで届くという「東風26」(同4000キロ)の2種だ。
東風21Dは、かつて米海軍の機関誌「PROCEEDINGS」(2009年5月号)の表紙に中国の対艦弾道ミサイル攻撃で爆発炎上する米空母が掲載されて話題となったが、順調に開発が進んでいることをアピールするのが狙いだろう。今後、試射などが繰り返されればかなりの脅威だが、不思議なことに、いまだに米国は防御手段を開発するなどの手立てを講じていない。
イージス艦が役に立たない?…日本の脅威「東風26」
日本にとっての脅威は、むしろ東風26だ。4000キロという射程が強調されているが、弾道ミサイルは、燃料を調節して飛距離を変えることはできないものの、ロフテッド軌道と呼ばれる高高度(最高到達高度約400キロ)を飛翔させれば、近い目標を狙うことも可能となる。その場合、弾頭が落下するスピードが速すぎて、イージス艦が発射する迎撃ミサイルは役に立たない。
ミサイルが有事(戦争)となった際に大きな脅威となるのに対し、平素から油断できないのが航空機だ。初公開された新型早期警戒機「空警(KJ)500」は、旧型の空警200に比べ、探知できるレーダーの覆域範囲が格段と広がり、上海など沿岸部の航空基地への配備が進めば、中国が2013年11月に設定した東シナ海の防空識別圏を監視する能力は、飛躍的に高まる。尖閣諸島やガス田周辺など東シナ海を飛行する海上自衛隊のP3C哨戒機などに対し、識別圏内を飛行する空警500からの指示で、中国空軍機が緊急発進(スクランブル)する回数は増え、異常接近など挑発行動を繰り返すことが想定される。