【特集】高校生の就職活動 “2か月間で1人1社”の縛り
10月1日は多くの企業で内定式が行われました。人材不足で企業はどこも若い労働力の確保に躍起で、大学生たちの就職活動は売り手市場の状況です。しかし、高校生たちの就職活動はある“特殊なルール”に縛られていました。
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高校生の就活ルールとは
堺市にある定時制高校に通う松下伊織君(17)。
(松下君)「飲食やりたいです」
(先生)「調理な」
高校最後の夏休みは「就職活動」に燃えていました。母と2人暮らしの松下くん。子どものころから母親の料理を手伝っていました。親の負担も考えて進学はせず、卒業後の夢は「料理人」と決めました。
「僕、自分の(飲食)店をやりたいと思っている。なんで、大学行ってからだと大学のお金もかかるし、それなら子どものころから働いてお金を貯めたら、いち早く自分の店を出せるんじゃないかと思った」(松下伊織君)
初めての就職活動。履歴書の書き方から先生に教えてもらいます。面接の練習も先生が相手です。
(先生)「自己PRを」
(松下君)「ボランティア活動部での活動は、とても自分に大切で有意義なものだと思ったので、私はこの学校で頑張りました」
夏休み中は教員総出で面接の練習にあたります。その背景にはある特殊な事情がありました。
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通常、大学生は就職活動が本格化する1年以上前からインターンシップなどに参加し、じっくりと時間をかけて企業選びができますが、高校生は7月に情報が解禁されたあと夏休みの短い期間を使って企業を選ばなくてはなりません。また、大学生の場合、1人何十社も受けて内定をもらった企業の中から就職する企業を選びます。しかし、高校生は1人につき1社しか受けられず、内定をもらったらよほどのことがない限り辞退できません。
しかもハローワークの文字だらけの求人票が主な情報源です。こうした特殊なルールは高校生が学業に専念できるようにと国や経団連などが定めました。実に60年ほど前から続く慣習です。
「選択肢が増えれば増える方がいいと言う子もいれば、もう悩んで悩んでどうしていいかわからなくてパニックになる子も絶対出てくると思います。だからこのルールで落ち着いてるのかな」(進路指導部長 保田光徳先生)
「求人票だけ見て第1印象のままでいった方がやりやすいかな。最初から明確な目標があったら、探しやすかったりする」
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高卒で入社2年目 活躍していても少し心残りも…
では、高卒で社会人になった若者はどう感じているのでしょうか。入社して2年目の香西瑞樹さん(20)。神戸市にあるビルメンテナンスなどを手がける会社で営業として働いています。この日は、初めて契約をとった得意先との打ち合わせです。
(香西さん)「気になる部分とか、改善できていない部分はありますか」
(得意先)「ほとんど毎日、後で修正することないくらいキレイにしてくれる」
営業に配属されて8か月で年間予算を達成。先輩からの評価も上々です。
(先輩)「もともと期待していた倍は最低でもやってくれている。次期エースを狙ってほしい」
会社で活躍している香西さん。それでも、2年前の就職活動には少し心残りがあるといいます。
「どういう会社なんかも正直わからないまま来ました。もっとちゃんと会社の考え方とか、しっかりと理解してから受けないと。僕はたまたまここ受けて、僕の形にはまったいい会社だった」(香西瑞樹さん)
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“ミスマッチ”減らそうとする企業も
短期間で1人1社だけという高校生の就職活動。会社に入ってからギャップを感じることが多いのか、3年以内に辞めてしまう早期離職者は4割を超えています。
この状況を変えようと立ち上がった会社があります。高校生に様々なメディアで企業情報を発信しています。例えば、高校生の求人に特化したWEBサイトを作り先輩社員の写真などを載せて仕事内容をわかりやすく伝えたり、SNSを活用して就職相談を受けるサービスも提供しています。
「会社に入る前の事前情報が少なすぎて、入ったあとに“早期離職”につながっている。本当にこの会社を受けたいなというのをWEBを通じてミスマッチを減らしたいなと思って、運営をしています」(ジンジブ 森隆史副社長)
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いよいよ面接 就職活動の成果は…
いよいよ面接当日。松下くんが選んだ1社は、近畿地方を中心に寿司店を70店舗以上展開する会社です。
「ちょっと緊張してきましたね。練習のときよりかは。そんなに緊張せずに、練習通りにやっていけたらいいかな」(松下伊織君)
ぎりぎりまで先生と面接のリハーサルし、いよいよ本番です。
「そちらで学校名とお名前をお願いします」(面接官)
「大阪府立堺工科高等学校定時制の課程より参りました。松下伊織です。よろしくお願いします」
緊迫の面接。しっかりと受け答えをしているように見えますが、見守る先生はドキドキです。約20分にわたった面接が終了しました。感想は…
「やっと終わって、緊張が解けてきましたね。あとは合格を願うばかりです」(松下伊織君)
6日後、結果が届きました。果たして…
(先生)「採用内定!」
(松下君)「よっしゃ!!」
見事、内定!4月から社会人です。
「夏休みの後半から(就活を)やってて、最初は何でこんなことやるんやろうと思ってたけど、だんだんやるにつれてやる意味とかをわかってきて今に至ったんで、めっちゃうれしいです。ありがとうございました」