USJ、春休み料金「8700円に1割値上げ」の思惑
日本ではまだあまりなじみのない「変動入園料」の導入は、吉と出るか、それとも凶と出るのだろうか。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を運営するユー・エス・ジェイは、日程によって入園料金を変える制度を導入すると発表した。
現在、一律で7900円となっている大人1日券は、繁閑の差により7400円、8200円、8700円という3種類の料金を設定する。たとえば、1月は7400円に値下げされる一方、中国の春節(旧正月)を含む2月は8200円、学生の春休み期間にあたる3月末は8700円に値上げされる。導入は2019年1月10日からを予定している。
■ダイナミックプライシングとは
USJは2018年まで9年連続で入園料の値上げを実施してきた。2019年1月以降についても、一部期間の料金が値下げされたとはいえ、実質的には値上げとなる期間が多い。強気の価格戦略を打ち出した格好だ。
今回導入するのは、ピーク期間とオフピーク期間で料金が変動する「ダイナミックプライシング」と呼ばれる料金体系。海外ではアメリカのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートやユニバーサル・スタジオ・ハリウッド、中国の上海ディズニーリゾートなどの大手テーマパークで導入されており、珍しくない。USJも従来から、閑散期のユニバーサル・エクスプレス・パス(アトラクションの優先搭乗券)料金を引き下げていた。
テーマパークは平日と祝祭日はもちろん、気候やイベントの有無などにより繁閑の差が避けられない。夏休みがあり、気候もいい7~9月が繁忙期、冬季や梅雨時が閑散期となる。ダイナミックプライシングを導入すれば、「閑散期の安い時期を狙って訪れたい」「入園料が高くても休みが取りやすく、気候のいい時期に楽しみたい」というさまざまなニーズに対応できる。
運営会社のユー・エス・ジェイは、「2020年に開業予定の新エリア『スーパーニンテンドーワールド』や新アトラクションの導入により、さらなる入園者数の増加が見込まれる。新しい料金体系で繁忙期と閑散期の入園者数を少しでも平準化し、ゲストの体験価値を向上させながら入園者数の水準の上昇につなげたい」と話す。
なお、今回ユー・エス・ジェイが発表した新料金体系は2019年3月末までのもの。4月以降の料金は、今年末以降に順次発表される。いちばんの繁忙期であるゴールデンウィークや夏休みは8700円より高い価格への引き上げも含めて検討されている。
■国内ではレゴランドで導入済み
ダイナミックプライシングは、国内ではレゴランド・ジャパンが今年7月にすでに導入している。料金改定前の入園料は大人6900円、子ども5300円の一律料金だったが、改定後はピーク期間が大人6900円、子ども4500円、オフピーク期間は大人5000円、子ども3700円に引き下げた。
レゴランド・ジャパン広報によると、「夏休みを前に、特に子ども料金を購入しやすくするために料金を改定した。新アトラクションを導入した効果もあるが、新料金となった後の入場者数は増加傾向にある」と手応えを感じているようだ。
ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドも、ディズニーランドでの「美女と野獣」の新エリアオープン(2020年春)やディズニーシーの大規模拡張(2022年)などを見据え、料金体系の見直しを検討している。
同社の上西京一郎社長は7月の東洋経済の取材に対し、「パークの提供価値の向上に合わせて、チケット価格を値上げさせていただく方針。単なる値上げだけでなく、時期によって価格を変動させることなど、あらゆることを検討している」と、ダイナミックプライシングの導入に含みを持たせている。
利用者にしてみれば、一律料金のほうがわかりやすい。変動制導入にはチケット関連のシステム変更が必要になり、年間パスポート購入者や変更前後の入園者に不公平感が出る。にもかかわらず、このタイミングでダイナミックプライシングが導入されたのはなぜなのか。
■変動料金制を導入する事情
テーマパーク運営会社が変動料金制導入に動くのは、柔軟な価格体系で実質的な値上げや値下げを実施し、収益力の引き上げ、集客増につなげる狙いがある。
USJは、2020年に開業する新エリア「スーパーニンテンドーワールド」の開発に600億円超を投資。オリエンタルランドもディズニーシーの大規模拡張に2500億円を超える投資を予定している。テーマパークの成長のためには、こうした継続的な設備投資は不可欠だ。
また、人手不足を背景にした人件費の上昇も、テーマパークにとってコスト増要因となっている。ある中規模テーマパークの関係者は「アルバイト人材は近隣のショッピングモールなどと奪い合い。人材確保のため、バイトの正社員化や社員の定年延長などで対応している。人件費増を賄うためには入園料の値上げを検討せざるをえない」と明かす。
ただ、こうした費用増を吸収するために入園料を一律で値上げすれば、入園者の満足度低下や入園者数の減少につながってしまう可能性がある。その点、ダイナミックプライシングなら、入園料に幅を持たせて利用者に割安な価格を提示することにより、悪影響を軽減する効果が見込まれる。
テーマパークなどレジャー産業の運営に詳しい余暇産業研究所の井手信雄主席研究員は「一律で値上げした場合、熱心なファン層は受け入れるが、年間の利用頻度の少ない一般客は高いと感じて離れてしまう懸念がある。中長期的な入園者数の拡大には裾野を広げる必要があり、一般客への対策が不可欠。USJは1日券が1万円の大台に近づいてきており、今後の展開も見据えて導入したのだろう」と分析する。
一方、実質的な値下げによって集客のテコ入れを狙ったレゴランドの場合は、ピーク期間の大人料金を据え置くことで、一律で値下げした場合に比べて単価下落を多少なりとも抑制することにつながっている。
■音楽ライブも変動料金化
また、ホテルの宿泊や航空券はもちろん、近年では音楽ライブのチケットなどでもダイナミックプライシングを導入する動きが始まっており、テーマパークの利用者側でも、新しい料金体系を受け入れる素地はできている。ユー・エス・ジェイは「事前にゲストへのアンケート調査を行った結果、体験価値の向上につながると判断した」(同社広報)という。
入園料は、テーマパークの満足度や集客を左右する重要な要素となる。現状の料金が高すぎるという不満の声の一方、「海外の大手テーマパークとの比較では、国内テーマパークはまだ割安」(テーマパーク関係者)という見方もある。各テーマパークは入園者に受け入れられるかを見極めながら、価格設定の検討を続けていく必要がありそうだ。