千葉市
【イマドキの気になる現場】雨でも爽快 モールウォーキング 天候に左右されず安全 新たな健康法大人気
台風、豪雨、酷暑とここ最近、気象の変化が大きくなる中、天候に左右されない運動スポットとして意外な場所に人が集まっている。大型ショッピングセンターだ。広い施設を運動のために利用する「モールウォーキング」と呼ばれる取り組みが全国で浸透中。ウオーキングするのに「安全」「安心」な場所として世代をまたいで支持を広げている。
雨が朝から降り続き、最低気温16度と秋の冷え込みが厳しくなった金曜日の夜。東京近郊のベッドタウンとして発展してきた埼玉県越谷市にある日本最大の商業施設「イオンレイクタウン」の一角に運動着姿の約80人がいた。50、60代を中心に5~93歳まで幅広い年齢構成。買い物するわけではない。健康のためにモールを歩く。これが目的だ。
集合場所は3棟からなる施設のmori棟の1階広場。周りは喫茶店、自動車販売店、電器店といったテナントに囲まれ、買い物客は普通に往来している。参加者たちが気にする様子はなく「今週もいっぱい歩きましょうね」と声を掛け合っていた。
外のコンディションは最悪でも屋内だから心配無用だ。準備運動を兼ねたウオーキング教室が始まり、講師に従って正しい姿勢で歩く練習。横一線に参加者が並んで1歩、2歩と踏み出す。「ダッ!ダッ!ダッ!」。行進のような足音が響いて、2階、3階から「何事か」と下をのぞき込む買い物客もいた。
体が温まったところでウオーキングに移る。mori棟の1~3階まで歩いて約3キロになるモデルコースが設定されているが、この日は展示イベントがあった1階を避けて2階のみの短縮コースだった。縦1列になって先生の後をついていく。練習のかいあって、参加者の背筋がシャキッと伸びているから自信があふれているように見える。すれちがう買い物客も「えっ?何?」という表情で次々と振り返っていく。
記者も一緒に歩いてみた。平たんでほぼ一直線の道のりは歩きやすい。体験前は「代わり映えしない」と思っていた景色は、次々と違うテナントが視界に飛び込んできて変化を楽しめた。上級者になれば、秋冬商品が並ぶ店頭を見て季節を感じるというのも納得だ。2階を端から端まで往復して約1キロ。日頃の運動不足がたたって集団から遅れ始めると、常連の女性に「若いんだからもっとシャキッと歩きなさいよ」と激励を受けた。初対面の人でも運動を通じて気軽に交流できるのも魅力に感じた。
広報担当者によると、レイクタウンのウオーキング教室参加者は初年度から毎年右肩上がり。16年に年間4000人を突破し、今年も前年以上の勢いで増えている。
人を引き寄せる理由は大きく分けて、(1)天候に左右されない(2)段差がなく安全(3)人の目が多いため安心――という3点だ。いたるところにイスやソファがあり、休憩場所に困らないというのも魅力だ。埼玉県八潮市から来た最年長の池田正彦さん(93)は約6年前から毎週通っていて「段差があるとつまずくんだけど、ここは段差がないから安心して歩くことができるんだ」と説明。長男(10)、次女(5)を連れて参加した同県吉川市の主婦(43)は妊婦の頃から利用しており「何かあっても人が多いので緊急時に対応できるし、天候にも左右されないから安心して歩ける」と笑顔を見せた。
大型ショッピングセンターを展開する「イオンモール」(本社・千葉市美浜区)は、08年に開業したレイクタウンを皮切りに全国143店舗にウオーキングコースを設置。「健康的な生活をサポートする」ために広大な店内を開放している。取り組みが奏功し、車社会の地方では「車で来てモールを歩く」という新たな潮流まで生み出した。1人あたりの滞在時間が長くなり、来店頻度の増加につながるなどビジネス面にも好影響をもたらしている。
「モールウォーキング」が支持を得た背景について、広報担当者は「広大なモールを歩いて買い物をするのは“実は運動しているんだ”という気づき。これが忙しい現代の生活にマッチしたのではないでしょうか」と分析。計画通りに買い物も運動もできる場所というのは合理化が求められる今の時代にはうってつけと言える。9月からはスポーツ庁との連携がスタート。2020年東京五輪・パラリンピックに向けて健康への関心が高まる中、ウオーキングの新定番になっていきそうだ。
《教室の参加費基本無料》イオンモールのウオーキング教室は基本的に予約不要で参加費は無料。ウオーキングトレーナーのデューク更家氏(64)が講師を務める回は事前予約を受け付け、300円の参加費がかかる。買い物で使えるポイントがたまるなど店舗によってウオーキングの参加特典は異なっており、レイクタウンでは参加者にスポーツドリンクを配っている。