高齢者が免許返納後運転、摘発相次ぐ “足”手放し

高齢者が免許返納後運転、摘発相次ぐ “足”手放し

 

高齢を理由に車の運転免許証を自主返納した80代男性が9月、兵庫県内の自宅近くで車を運転したとして、道交法違反(無免許運転)の疑いで兵庫県警に摘発されたことが4日、捜査関係者への取材で分かった。男性は返納後わずか3カ月で摘発され、認知症の疑いがあると判明した。免許返納後の高齢者が無免許運転するケースはほかにも確認されており、安全と引き換えに生活の「足」を手放した高齢者へのサポートのあり方が問われている。

「つい運転を…」

「訪問介護先の男性の姿がない。軽トラックも一緒になくなっている」

兵庫県内で9月、1人暮らしの80代男性宅を訪問介護で訪れた女性から県警に通報が入った。男性はほどなく近くの商業施設で保護されたが、無免許運転の疑いで摘発され、騒動後、軽トラックは離れて暮らす親族が引き取った。

ただ、免許返納後の高齢者が無免許運転するケースは各地で相次いでいる。

福島県いわき市でも9月、免許を4日前に返納したばかりの80代男性が、車で歩行者2人をはねてけがをさせる事故が起きた。調べに対し男性は「免許は返納したが、移動のためについ運転してしまった」と供述したという。

■移動手段少なく

全国の公安委員会では、免許を返納した高齢者に身分証としても使える運転経歴証明書を交付。民間業者と連携し、バスやタクシーなどを割安で利用できるサービスを提供している。

しかし、公共交通機関が充実しているのは主に都市部。地方では移動手段を自家用車に頼らざるを得ない。京都府北部の京丹後市では、一般ドライバーが自家用車を運転し、タクシーの半額料金で複数客を同時に運ぶライドシェアサービスを実施しているが、こうした手厚いサポートは全国でも一部にとどまる。

兵庫県加西市では免許を返納した高齢者にバスの無料券を配布しているが、1日あたりのバスの本数はわずか。同市で父親(71)と暮らす看護師の女性(42)は「父が免許を返納したら普段の生活が困難になる。タクシー無料券の配布や、生活必需品の移動販売サービスを整えてほしい」と訴える。

■引きこもり防げ

警察庁によると、高齢化に伴い65歳以上の全国の運転免許保有者は過去10年間で約436万人増加し、昨年は約1618万人。一方で、認知症を理由に免許取り消しや停止処分を受けた高齢者は昨年1年間で延べ3084人に上り、前年の約1.6倍に増えた。昨年3月施行の改正道交法で、信号無視など認知機能低下が原因とみられる交通違反をした75歳以上の高齢者に、認知機能検査の受検が義務づけられたためだ。

認知症と診断され、免許返納を余儀なくされた高齢者らの生活不安を解消しようと、滋賀県警は改正道交法施行に伴い、市町の地域包括支援センターを紹介する取り組みを開始。保健師やケアマネジャーらに返納後の悩みを相談できるとあって、同様の事業は計18府県警に広がっている。

地域交通サービスに詳しい近畿大理工学部の柳原崇男准教授は「免許返納後、高齢者が生活の足を手放すことで自宅に引きこもりがちになり、認知症が進んでしまうケースも多い」と指摘。「高齢者の外出をサポートする体制をさまざまな角度から整えることが大切だ」としている。