自衛隊「空白地帯」へ配備着々 宮古島で着工1年、容認に転じる集落
沖縄県宮古島市への陸上自衛隊配備計画で、市上野野原の千代田カントリークラブ地区での駐屯地建設が始まって、20日で1年を迎える。反対を押し切って工事に着手した防衛省に、住民の諦めは募り、野原、千代田の両集落は今年になって方針を転換。配備を容認し地域活性化策を求めている。同省は今後、弾薬庫を配備する市城辺保良(ぼら)の採石場「保良鉱山」の用地取得を予定する。千代田に続き、宮古配備を巡って重大局面を迎える。これまでの経緯を振り返った。
◆年度内に警備部隊
南西諸島への陸上自衛隊配備は2010年に策定された防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画(中期防)で新たに打ち出された。海洋進出を強める中国や弾道ミサイルの能力を増強する北朝鮮などを念頭に、「自衛隊配備の空白地帯となっている島嶼(とうしょ)部の防衛」が目的だ。
宮古島市には市上野野原の千代田カントリークラブ跡地に隊庁舎が建設され、700~800人が配備される。警備部隊約380人が18年度中に、地対空・地対艦ミサイル部隊約330人が19年度以降に配備される。
市城辺保良には射撃訓練場や弾薬庫を建設する計画で、年度内に用地を取得し、着工を目指す。射撃訓練場は月内にも土地の造成工事について入札公告する。19年度予算の概算要求にも建設費42億5千万円を盛り込んでいる。
◆日本防衛の最前線
地対艦誘導弾部隊は、船舶を使った島嶼部への侵攻を可能な限り洋上で阻止。地対空誘導弾部隊は、各国が保有する巡航ミサイルや航空機からの攻撃に対し、空港、港湾などの重要地域の防空を担う部隊だという。
防衛省は「自衛隊配置の空白地帯」とする奄美大島、石垣島、宮古島に警備部隊などの配備を進めている。16年に沿岸監視隊が配備された与那国島と合わせると、2千人規模の配置となる。
防衛省は年内に新たな防衛計画の大綱と中期防を策定する。南西地域は「日本の防衛の最前線」(岩屋毅防衛相)と位置づけられており、沖縄の自衛隊配備や機能強化が一層加速することが予想される。
反対撤回 振興策を要求【千代田地区】
宮古島市上野野原の千代田カントリークラブ地区に陸上自衛隊隊員の隊庁舎や宿舎などを整備する計画は、2015年5月に防衛省の左藤章副大臣(当時)が市役所を訪れ、下地敏彦市長に打診した。
千代田地区の野原部落会は16年3月、千代田部落会は同8月にそれぞれ配備反対の決議案を可決。下地市長に配備中止への協力を求めたが、市長は「防衛省に意見を伝える」と述べるにとどめた。
防衛省は両集落を対象に開いた複数回の住民説明会で住民から反対を訴えられたが、千代田地区の用地を取得。17年11月20日、工事を開始した。
配備反対の意思が聞き入れられず工事が進む現状に、千代田部落会は自衛隊員の同部落会への加入や公民館の建て替え、周辺道路の整備などを求める陳情書を今年2月、沖縄防衛局と市に提出、事実上の配備容認に転じた。
野原部落会も3月、反対決議を撤回し、地域振興策の実現などの要請に切り替えた。「宮古島駐屯地(仮称)」は建設工事が進んでおり、来年3月までに完成する見通し。
配備に賛否 揺れる住民【保良地区】
宮古島市城辺保良(ぼら)の採石場「保良鉱山」には、弾薬庫や射撃訓練場を整備する。防衛省は当初、市平良西原の大福牧場に配備予定だった。だが、宮古島最大の生活水の取水地「白川田水源」が近くにあることから、市民が「飲み水となる地下水が汚染されかねない」と反発。下地敏彦市長も反対を表明したため、同省が地下水汚染の懸念がない場所として保良鉱山を選び直した。
同省が市に配備を伝えたのは2018年1月に入ってからだが、保良部落会は候補地に挙がっているとの一部報道を受け17年12月、配備反対の決議案を可決、市に文書を提出した。予定地に隣接する七又部落会も今年10月、反対決議案を可決。今後、保良部落会と連携して断念を訴える方針だ。
一方、保良部落会の一部住民は配備受け入れの見返りに防衛省の補助事業を活用し、地域を活性化させる組織を結成。市に署名を提出した。
反対決議と配備を前提とした署名の二つがあることから、どちらが部落会の意思か投票によって決めるべきだとの意見が今月4日の臨時総会で出たが、「賛否を採ると住民が二分する」との意見もあり、見送られた。防衛省は現在、用地取得に向けた測量調査を進めており、年度内に取得を終える予定だ。