船橋市 1946年創業「石井食品」
健康おせちが人気
正月の食卓を彩るおせち料理。縁起がよいのはいいのだが、数の子やかまぼこは塩分、栗きんとんや黒豆、だて巻きは糖分が多く含まれ、体をいたわる人たちには、大げさだが「酷な料理」。とはいえ、箸を運ばないのも気が引ける。「賢い」食べ方で、一年のスタートを迎えましょう。
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おせちは縁起のよい料理がたくさん並ぶ。
巻物に似ている形から、学問や習い事の成就を願うだて巻き。「まめ(まじめ)」に働き、「まめ(健康)」に暮らし、無病息災の願いが込められる黒豆。「よろこぶ」の語呂合わせがある昆布巻き。数の子は子孫繁栄、「金団」と書くきんとんは財宝を表し、エビはひげが伸び、腰が曲がるまで元気でという長寿への願い──。
だが、正月三が日をゆっくり過ごすための伝統的な料理であるがゆえに、保存性が高い。だから、食塩や砂糖、しょうゆを多く使っている。
管理栄養士の清水加奈子さん作成のおせち成分表を元に、食べてみると……。
昆布巻き、かまぼこ、さわら焼き、田作り、数の子、だて巻き、きんとん、黒豆、煮しめ(里芋、しいたけ、れんこん、ごぼう、にんじん、こんにゃく)、くわいの計10品。
1食当たりの食塩摂取量を計算すると、7.8グラム、糖分を含む炭水化物摂取量は117.4グラム。ちなみにカロリーは734キロカロリー。食塩だけ見ても、国が定める1日の摂取目標値(18歳以上。男性8グラム未満、女性7グラム未満)に1食だけでほぼ達してしまう。世界保健機関(WHO)のガイドラインはもっと厳しく、成人の1日の摂取目標値は5グラム未満。1日3食、3日間食べ続けるのは控えたほうがよさそうだ。
前出の清水さんによると、おせちは甘辛い味付けで塩分を感じにくく、練り製品も意外と塩分高めだという。血圧高めの人は表の塩分ランキング上位の料理に注意し、カロリーや炭水化物を控えたい、肥満や中性脂肪が高めの人はカロリー、糖分の上位の料理を避けるか、食べる量に気を付けたい。せめて、全種類を数日に分け、1日に食べる品目を減らす工夫が必要だ。
そんな中、塩分や糖分を抑えた市販のおせちが人気を呼んでいる。
ミートボールやハンバーグでおなじみの、1946年創業の「石井食品」(千葉県船橋市)が、食塩不使用の和風おせちとして3年前から販売するのが「千鶴」。消費者のニーズをがっちりつかんでいるが、試行錯誤の開発だったようだ。
塩分を抑えてはみたが、甘ったるい、全然味がしない、だしだけでは物足りない──。この悩みを、味にバリエーションをつけることで打開。料理研究家や都内クリニック院長のアドバイスを受けながら、唐辛子で辛みを足したり、ゆずで酸味や風味を出したりすることで、飽きがこない味わい深さを実現した。
たとえば、素材が硬く、繊維質で味がしみにくいタケノコ。しっかりと煮込んだ後に、かつお節を絡める追いがつおをヒントにした調理方法にし、さらにグラニュー糖を甘蔗分蜜糖に変えることで、味にコクを出し土佐煮として仕上げた。しょうゆ、みりん、砂糖の味付けが基本の田作りだが、しょうゆなどの代わりにはちみつを絡めた。
このほか、里芋は徳島産の木頭ゆずの風味でさわやかな味わいに。ごぼう煮は千切りしょうがを入れ、食感や風味を添える一工夫を忘れない。
計12品で、食塩は使わず、昆布や小魚など海産物に含まれる素材由来の塩分0.54グラムのみ。50~70代のニーズが高く、「(食塩不使用で)心配したが、期待を裏切らない味だった」「だしの味が利いておいしい」といった声が寄せられる。贈答用としても好評で、塩分を控える田舎の両親へのプレゼントにもなっている。
毎年予約で完売だそうで、担当者は「華やかな正月の食卓を囲む時でも、塩分を気にする方々が箸を伸ばせるおせち」と語る。
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2003年、糖尿病を患っていた父親の食事を管理していた樋口惠子さんが代表となり、「おいしく食べて、健康に!」をモットーに立ち上げたのが、「美食良菜」(東京都調布市)。この年から09年までスローフードセミナーを開催したが、イタリアンレストラン「ファロ資生堂」で、600キロカロリーのイタリア料理などを提供すると、「美食で糖尿病予防」などと好評を博した。おせちの販売を始めたのは06年。百貨店にとどまらず、スーパーや専門店のカタログに登場する。
「塩分・カロリーに配慮 個食おせち」は、祝い箸よりやや短めの仕切りのない重箱に、18種類の献立がぎっしり入る。1人あたり425キロカロリーで塩分は4.2グラムすべて北海道の工場で生産している。
まずは貝類のトコブシ。海の幸だけに塩気が気になるが、1回、2回と塩分を抜いていく。縁起物の有頭エビはしょうゆ、みりん、砂糖を使って甘煮にしたいが、日本酒で蒸す。奈良時代の蒸し料理がヒントになっている。
彩りが映えるイクラはぜひ使いたいところ。でも塩分が気になる。ならば、と紅白なますの上に添えることで、少量に抑えた。かに爪しんじょは、しょっぱいすり身を減らし、山芋を足すことで塩分を減らすことに成功した。一方でゆず味のだて巻きは山芋でんぷんをおからパウダーに切り替えることで、糖質を下げる。
仕上げに、紅白餅の代わりに梅麩の錦糸(きんし)巻きを飾りで使用。このこだわりが消費者の五感に訴える。
「一年の健康は元旦にあり」
樋口さんらが掲げるテーマである。
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1食400キロカロリー、塩分3グラム以下の宅配食セット「BC400」で有名な美健倶楽部(神奈川県相模原市)は、「ヘルシーおせち」(12月4日まで予約受け付け)を13年から発売。40代後半以降の女性客から人気が高い。
だて巻きは甘さ控えめで、一般的に1切れ0.5グラムの塩分も0.35グラムに抑えた。最上のグチすり身を使い、全卵を加え、ふんわりしたカステラ風の食感が自慢だ。黒豆(30グラム)の一般的な塩分は0.2~0.3グラムとされているが、0.1グラムに。煮しめ(しいたけ、タケノコ、にんじん各1個、絹さや2枚)は、自社工場で無添加のだしをたっぷり利かせて炊き上げるため、塩分は0.2グラムになった。
また、ヘルシーさを出すために品目から肉を外し、代わりに高たんぱくの松笠イカを大葉みそ焼きに。エビは西京みそをつけて焼くが、自社工場で調理を工夫することで、みそにべったり漬け込むのを避けられる。
25品目が入った二段重おせちは、塩分11グラムで計1千キロカロリー。食材や調理によって「落とせるカロリー」に着目し、全体的に塩分や糖分を下げている。
同社の管理栄養士猿谷ゆかりさんは「塩分などを控えられる品については見直していきますが、すべての味を薄くすると、物足りなさを感じます。しっかり味付けしているものも取り入れ、メリハリを楽しめるようにしています」と語る。