北朝鮮有事「ある場合・ない場合」の日本経済の行方を教えよう

北朝鮮有事「ある場合・ない場合」の日本経済の行方を教えよう

朝日新聞の冴えない政策批判
新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
筆者のこのコラムは毎週月曜日に掲載している。今年はたまたま元旦が月曜なので、休むことも考えたが、ラッキーな「書き始め」と思って執筆している。
さて、元旦の恒例は「今年を占う」である。今回も、経済や外交の行方を占おうと思うが、その前に、第2次安倍政権誕生から5年間で経済や外交、安全保障面で何が変わったのかを見ておこう。
昨年12月26日の朝日新聞の社説でもいわゆる安倍政権の振り返りをやっていたが、どうにも歯切れが悪かった。
<確かに株価は上がり、就業者数は増え、国の税収も伸びた。だが、政権が打ち上げたスローガンは、その名ほどの成果をあげているとは言いがたい。>
と書いたうえで、その具体例として、インフレ目標2%の達成先送り、待機児童ゼロ目標の先送り、世界経済フォーラムが発表した男女格差ランキングで日本は144カ国中の114位にとどまったこと、基礎的財政収支の2020年度黒字化の延期、などがあげられている。
インフレ目標の未達成は事実であるが、それは完全雇用の未達成とも裏表である。この点は、12月18日付く本コラム「病的ともいえる日本の「増税第一主義」の問題点」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53865)をみればわかる。
その観点からいえば、インフレ目標、完全雇用ともに未達成であるが、5年前と現在を比べると、現在の方がまともである。
インフレ目標と完全雇用は政策を評価するには重要な論点であるが、その他は比較的小さなものだ。待機児童ゼロ目標の先送りというが、確かに待機児童数は、24825人(2012年4月)から26081人(2017年4月)と増加している。
しかし、保育所等利用率でみると、34.2%から42.4%へと増加している。つまり、施設増加が待機児童数の増加に追いついていないという状況が見えてくる。施設増という政策の方向性は間違っていない。
男女格差ランキングは、135ヶ国中の101位(2012年)から144ヶ国中の114位(2017年)と低下している(http://www3.weforum.org/docs/WEF_GGGR_2017.pdf)。女性の読み書き能力、初等教育、中等教育、平均余命の分野で日本は世界1位のランクだが、労働賃金、政治家・経営管理職、教授・専門職、高等教育、国会議員数で世界ランク100位以下となっている。この傾向はここ10年間同じである。

 

この男女格差ランキングは、2006年から始まっているが、そのとき、日本は115ヶ国中の80位。これだけみると、日本は順位を年々下げているように見えるが、実はより低い国が30数ヶ国あるという状況は全く変わっていない。社会構造に起因するものであるので、なかなか変わらないものなのだ。
その中で、調査対象国が増えてきたが、日本は下から数えて30数番目という地位は変わってないので、順位を下げてきたということになる。

 

この表を見れば一目瞭然だ
基礎的財政収支の黒字化の延長も事実である。しかし、基礎的財政収支の数字をみると、▲30.6兆円(2012年度決算)から▲18.9兆円(2016年度決算概要)へと改善している。
そもそも、筆者の財政の見方は、昨年12月25日付け「「日本の借金1千兆円」を性懲りもなく煽る人たちの狙いと本音」(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53959)などをみてもらえばわかるが、中央銀行を含めた包括的な「統合政府」のバランスシートをみている。これは、筆者が大蔵省(当時)に勤務していた30年前からまったく同じである。そして、そのために、政府や関連子会社を含めたバランスシートを役所内で作成してきた。
これは従来、そして今でもバランスシートの右側だけの負債に着目して、借金1000兆円と財政危機を煽る財務省や、その財務省見解をたれ流すマスコミへの批判でもある。
統合政府のバランスシートに着目すれば、財政状況は合理的に判定できる。もし、ネット債務残高対GDP比が際限なく大きくなるようであれば、それが「財政破綻」といってもいい。過去の財政破綻事例をみても、ネット債務残高対GDP比が大きくなって、ネット利払い費が大きくなって予算が組めなくなっている。
ということは、ネット債務残高対GDP比が数学的な意味で発散する条件を見ていれば、財政状況の危うさがわかる。つまり、発散条件でなれば財政破綻、なければ財政破綻でないといえる。前者の場合には財政再建が必要、後者の場合には財政再建不要と言ってもいい。
この条件はかなり複雑である。基礎的財政収支の継続的な悪化は数学的な意味で発散条件になるので要注意である。ただし、基礎的財政収支対GDP比率は1年前の名目GDP成長率でほぼ決まるので、名目GDP成長率が一定以上であれば心配無用である。
この意味で、名目GDP成長率は発散条件になるのかどうかの大きな鍵を握っている。また、基礎的財政収支は赤字であっても、改善傾向であれば、発散条件にならないので、基礎的財政収支は黒字化を無理やり求めるのではなく、その動きの方向も重要である。
以上の考察をすれば、今の時点で「財政再建」を無理に行う必要はない。なにしろ名目GDPを伸ばすことの優先順位のほうが高いのだから。いずれにしても、基礎的財政収支の黒字化の先送りは、批判するほどのことでないのだ。
ということで、朝日新聞の社説が的外れであることはわかってもらえたと思うが、実際のところ、どうなっているのかを示すために、ここに各種の指標を掲げておこう。

次いで、朝日社説が批判している点についても、この表を掲載しておく。

ところで昨年は朝日新聞がいろいろと楽しませてくれた。モリカケ報道は筆者もおかしいと思っていたところ、小川榮太郎氏も同様の批判を展開し、書籍を出版した。すると、何を思ったのか、朝日新聞は小川榮太郎氏らを訴えたのだった(http://www.asahi.com/corporate/info/11264607)。朝日新聞論説委員で、たびたび執筆コラムが物議を醸す高橋純子氏の著書の中には「エビデンス? ねーよそんなもん」との言葉が出てくるが、上記の指摘は筆者なりの「エビデンス、あるよそんなもん」である。

外交での大きな成果
さて、経済政策について、筆者は雇用60点、所得40点合計100点で評価する。安倍政権の点数はどうなるか。
雇用では失業率の下限となる「構造失業率2%台半ば」を満点60点とするので、今のところ55点だ。一方、所得ではGDPの動向を見る。2014年の消費増税の前までは良かったが、その後は消費が伸び悩んだので40点満点で15点だ。合計70点なので、まあまあの合格点である。なにより、雇用の確保には成功したので、最低ラインの経済政策は達成できたというべきだろう。
安倍政権では雇用環境を劇的に改善できたので、限界的な雇用の影響をもろに受ける若者にとっては朗報になっている。就職難に苦しみ、ブラック企業を跋扈させた民主党政権時代と今は全く違い状況となった。この結果、若者の安倍政権への支持率は高くなり、安倍政権の躍進に大きく寄与している。
失業率を下限となる「構造失業率」まで低下させる(これは同時にインフレ率を目標の2%にすることにもなる)には、あと有効需要をGDP2%程度、10兆円程度押し上げる必要がある。これを金融緩和と財政出動で行うことが今後の課題である。それができれば、賃金は伸び、消費への好循環にもつながり、経済はほぼ満足できる結果になる。
外交面では、安倍首相の外遊数に注目すべきだろう。戦後最多の外遊は、小泉純一郎元首相の51回である。安倍首相は2006年からの第1次安倍政権の時に8回、今回の2次、3次政権では、11月までで59回である。訪問国・地域は70、述べにすると129、とこれも戦後最多である。これらを考えると、国会日程で縛られる日本の首相としては、過去にない外交を展開している。
こうした外交経験が国際社会の中でも安倍首相の存在感を高めている。G7サミットでは、メルケルに次いで常連になっており、日本の発言力を高めている。この経験が、トランプ大統領との信頼関係を増すのに大いに役立っている。トランプ大統領は、安倍首相を信頼していると公言している。訪米した日本の首相の中では、安倍首相はこれまでない待遇であり、過去に例がないほどだ。
安全保障面では、安保関連法を成立させたのがポイントだ。集団的自衛権について、憲法上認められるというはいうものの、実際にはその発動で法的な安定性がなかった。それの根拠を作ったという意味で、やっと実効的なものとなった。
集団的自衛権については、戦争に巻き込まれるという一部の反対もあったが、国際政治からみると、過去の戦争データからの分析では、集団的自衛権を確立することが戦争の起こる確率を減少させることが実証されている。その意味では国際常識であるが、日本もやっとそれに一歩近づいた。

 

経済は北朝鮮情勢次第
それらを踏めて、2018年はどうなるのか。経済や内政、安全保障面でリスク要因はなにか。
まず、なんといっても朝鮮半島情勢である。北朝鮮に対する国連の制裁決議は、もう限界となっている。国際政治の常識として、あとは国連軍が出て軍事オプションを行使する段階だ。すでに、アメリカと中国は、北朝鮮への攻撃後をどうするかを話しあっている段階、ともいわれている。
北朝鮮の核・ミサイル開発や国連決議の進捗をみると、春までに軍事オプションが行使されるか、北朝鮮の降伏があっても不思議ではない。
北朝鮮の金正恩委員長は、中国の習近平主席やロシアのプーチン大統領とも一回も会ったことがない。最後の最後まで、中国とロシアが北朝鮮を助けるとも思えない。
しかも、北朝鮮は、核拡散を目論んでいる。アメリカとの関係でいえば、アメリカ本土へ核攻撃ができるかどうかがレッドラインとなるが、もちろんアメリカとしても北朝鮮による核拡散は回避したい。イランへ北朝鮮から核ミサイルが輸出されたら、中東の軍事バランスが一気に崩れ、中東も世界の弾薬庫になりうる。
この懸念は核保有国の中国とロシアも同じだろうから、北朝鮮の核拡散が現実する段階がデットラインとなる。となると、遅くとも1年でそれは来る。北朝鮮への開戦は、米中ロにとって18年中というのは無視できないくらいだ。ひょっとしたら、2月の平昌オリンピックも開催できなくなる可能性すらある。イヤな話であるが、冷静に事実を見ていると、リスクがあることは指摘しておこう。
朝鮮半島リスクは、同時に、中国が対外プレゼンスを高める機会でもある。朝鮮半島情勢のどさくさに紛れて、中国が南シナ海、台湾、尖閣諸島に進出する可能性もあるからだ。
これらと関連することとして、中東情勢不安から、世界各地でテロが起こる可能性がある。平昌オリンピックなどは、世界の注目を浴びるので、朝鮮半島情勢とあわせて考えると、テロの標的になっても何ら不思議でない。一層の警戒が必要である。
実際に朝鮮半島有事になったら、経済がどうのこうの、どころでなくなる。特に有事期間が長引けば、日本経済にいいことはない(しかし、短期間で終われば、あく抜けして日本経済にはプラスになる可能性がある。もちろん、それを望むような政治家はいないだろうが)。
もしも朝鮮半島有事などが起こらなければ、2018年は日本にとって結構明るい年になりそうだ。アメリカ経済が好調な上、金融政策は「出口」である。このため、極端な円高に向かいにくいので、日本経済にはプラス要因が多い。失業率も下限に近づき、人手不足から賃金上昇も見込める。やっと企業も内部留保を吐き出そうとしている。
朝鮮半島有事がないか、あるいは軽微に終われば、株価も日経平均2万円後半になっても不思議ではない。ただし、朝鮮半島有事が深刻になれば株価低迷にもなるだろう。この意味で、突発事省の有無で天と地ほどの差があるので、定量的な予測はかなり困難である。
しかも、国内では財務省などの「緊縮勢力」が大きなリスクになっている。来年度予算でも、社会保障カットなどをすすめるなど、その萌芽がみえる。2019年の消費増税を控えて、その前に積極財政を、というの手筋であるが、それとは逆に、「緊縮勢力」はさらなる増税・歳出カットを目論もうとするリスクがある。
内外のリスクに安倍政権がどう対応するか。その点こそが、実際の評価の対象となるべきなのだ。