レゴランド「子供料金5300円」は妥当なのか
4月1日に開業する大型テーマパーク「レゴランド・ジャパン」。名古屋に誕生する巨大テーマパークは、東京圏が誇るディズニーリゾート、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)に伍する人気テーマパークになるのだろうか。その可能性を占うべく、筆者は3月17日に行われた報道向け内覧会に出掛けた。
レゴといえば子供向け知育玩具のレゴブロックで知られる。対象年齢は2〜12歳。つまり、子供がときめく場所だ。そこで前日、家族がどう反応するか聞いてみた。名古屋市内の小学校に通う筆者の長男(11歳)は関心ゼロ。昔はそれなりにハマっていたレゴなのだが、もう昔の話のようだ。9歳の娘も関心はない。最近の女子の流行りは「ユニットおりがみ」だという。おりがみをひたすら細かく折って、何十ピース(娘は最高90ピースを使う)にもして多面体などに組み上げる、一種のブロック遊びだ。
そんなこんなで、個人的には何の期待も背負わず、現地に向かった。
名古屋駅から電車で30分
レゴランド・ジャパンが立地する名古屋港「金城ふ頭」には各種見本市、フットサルの試合、JR東海の「リニア・鉄道館」などを見に、おそらく何十回も行っている。クルマの場合はまだいいのだが、公共交通機関のアクセスは良いとはいえない。名古屋駅からの公共交通機関はほぼ唯一、名古屋臨海高速鉄道「あおなみ線」。日中1時間4本(朝夕最大6本)しかない電車を待ち、約30分かけて終点の金城ふ頭駅まで向かう。
名古屋駅から三セクの「あおなみ線」で約30分というアクセス(筆者撮影)
ちなみにこの「あおなみ線」は名古屋市と愛知県、JR東海、トヨタ自動車など出資の第三セクター運営路線として2004年に開業した。当初は赤字続きで深刻な経営難に陥ったが、開業7年目に「事業再生ADR」の手法で抜本再建。JR東海が「リニア・鉄道館」をオープンし乗降客が増えたこともあり、至っている。
深刻な経営難といえば、それ以前にも名古屋港では「イタリア村」なる商業施設がオープン3年で経営破綻している。名古屋港周辺はビジネスという点では、あまり縁起のいい場所ではないのだ。
はたしてレゴランドは大丈夫か――そんなことを考えながら金城ふ頭駅に降り立った。
「金城ふ頭駅」に到着後、ブリッジを渡って徒歩5分ほど。途中、商業施設として整備中の「メイカーズピア」を通り、エントランスに着く。快晴の空にレゴのロゴは爽やかに映える。その下でディズニー映画「ウォーリー」風のロボットが何やら話し掛けているようだったが、ゲートの先が気になるので足早に通り抜けた。
敷地は目の前にそびえる高さ約60メートルのカラフルな塔「オブザベーション・タワー」を目印に、360度ぐるりと広がる。このタワーはオブザベ―ション(観察)という名前のとおりの展望塔。ガラス張りの丸いゴンドラに乗るとゆっくり回転しながら上昇し、パーク内外を一望できる。
日本中の建物をレゴブロックで再現
エントランスと反対側に広がるのが、このテーマパークを象徴する「ミニランド」だ。さまざまな名所や建造物をレゴブロックで再現するミニチュアの街。レゴランドとして世界7カ国で8カ所目となる「ジャパン」では、日本中の建物など500施設が、約1050万個のレゴブロックで延べ50万時間かけてつくられたという。
日本中の建物がレゴで表現されているミニランド。大人も見飽きない(筆者撮影)
最も高い約9メートルの東京スカイツリーをはじめ東京タワー、東京都庁、大阪の梅田スカイビル…。札幌や神戸は主要な街並みがそのままイメージできる。そして特に力が入れられているのが名古屋の街。名古屋城や名古屋市役所、丸いプラネタリウムの市科学館や「ひねり」をきかせた名古屋駅前のビルなどがかなりの精度で再現されている。名古屋港の施設や船もそっくりそのままだから、背景に見える本物のブリッジなどと重ねて見ると、なかなか不思議な気分になる。
モノづくりエリアを意識した自動車工場は、内部の生産ラインが動いているなど細部も凝りまくりだ。これは大人も見飽きることがないだろう。
一方、その周りに点在するアトラクションはどうか。
アトラクションの中で目立っていたのは、ジェットコースターの「ザ・ドラゴン」。中世をイメージした「ナイト・キングダム」というエリアにあって、城の中から屋外へコースターで駆けめぐる。実際に乗ってそれなりの迫力は感じたが、同じ東海圏にある「ナガシマリゾート」レベルの絶叫系アトラクションを体験していると、どうしても物足りなく感じた。
もちろんターゲット層が違うので比較するのは酷だろう。ポジティブな言い方をすれば「ナガシマほど激しいのは無理」という人には適しているということだ。
こぢんまりとした地味なものが多い印象
ただ、その他のアトラクションもディズニーリゾートを知っていると、こぢんまりと、地味なものに感じてしまう。親の立場では、いかにして「知らないうちに」子どもを連れて行くかが勝負のように感じた。ちなみに、筆者はまだUSJを知らないのでUSJとの比較感を語ることはできない。
そんな中で、個人的に気に入ったのは「サブマリン・アドベンチャー」だ。これは、潜水艦の乗り物体験と「水族館」を組み合わせたようなアトラクション。確かに潜水艦のデザインも雰囲気があるし、それが水の中を進んでいくと本当に魚が泳いでいるのを観察できる。
潜水艦が本物の魚の泳ぐ水槽を進む。本物のサメとも遭遇!(筆者撮影)
小さいがサメや、色とりどりの熱帯魚が丸窓を通して間近に迫ってきた。レゴは「海底の遺跡」のようなシチュエーションであって、主役はあくまで魚たち。世界で他に2カ所あって大人気だというのもうなずけたし、「ジャパン」が港にある意義も感じられた(名古屋の近海で泳ぐ魚も含まれているという)。
一通り見て回り、レゴランド・ジャパンをどのように評価するべきか考えてみた。
昨年7月15日、運営会社は料金を発表している。その際にも話題になったが、どうしても子ども(3〜12歳)5300円、大人6900円(ワンデーパスポート)という強気の価格設定に疑問を感じざるを得ない。なにしろ、ディズニーランドより、子どもは500円高いのだ(大人は500円安いが)。ナガシマに比べると子どもで1400円、大人で1900円も高くつくのだ。この価格戦略で、十分な集客をできるのか。
レゴの形をしたレゴポテトなど、飲食や物販も力を入れる(筆者撮影)
そこで引き合いに出されるのが、2005年に開催された愛知万博(愛・地球博)だ。
入場料は大人4600円、子ども(4〜12歳)1500円という価格で、開幕当初はガラガラ。大失敗かと思われたが、徐々に評判が伝わったり、禁止されていた「弁当持ち込み」が許可されたりすると客が増え、最終的に目標を大きく上回る約2200万人が来場し黒字に終わった。これを象徴として「最初は様子見」で、「みんなが行き始めると自分も行く」のが名古屋人気質と言われるようにもなった。
レゴランド・ジャパンが目標として掲げている初年度の入場者数は約200万人。そのうち約60万人が遠方や海外からの客を見込んでいるとのことであり、そうなると名古屋圏での集客が肝になる。名古屋人が様子見から重い腰を上げるきっかけになるものは何だろうか。ここで浮かび上がるキーワードが「ロボット」だ。
プログラミング学習が売りになるかも
レゴは「マインドストーム」という商品シリーズを展開している。レゴパーツとともにモーターやセンサー、さらにプログラミングのできる基盤ブロックを組み合わせてつくるロボットだ。
この日はまだ公開されなかった「ロボティック・プレイセンター」は中学生でも楽しめるという(筆者撮影)
今はモバイルアプリを使って、スマホやタブレットからも操縦ができる。その操作やプログラミングを習える場はレゴ社の公式教室「レゴスクール」などがあるが、レゴランド内の施設が「ロボティック・プレイセンター」というアトラクションにできるのだという。
この施設、実は今回の内覧会でまだ内部が公開されなかった。極秘…というわけではなさそうだが、ある意味で「カギ」になるとも感じた。名古屋で力の入れられているロボット研究、ロボット工学との連携という面もあるし、対象年齢が公表されているターゲット層の「2〜12歳」よりもさらに上、「少なくとも中学生ぐらいまで」(運営関係者)は広がるというからだ。海外ではその改造やプログラミングの腕を競って、大人にも熱が広がっているらしい。
となると、筆者の11歳の息子も、もう少し反応するのではないか。しかし、このマインドストーム、価格を見ると5万円、6万円!ちょっとハードルが高い用にも感じられた。
はたして、レゴランドは失敗の歴史だった名古屋港の再開発の歴史を変えることになるのだろうか。