平昌五輪まさかの中止
平昌五輪まさかの中止という「最悪のシナリオ」実はあり得る
ロシアが平昌オリンピックに参加できない――衝撃的なニュースが、スイスのIOC本部から飛び込んできた。だが実は、韓国はもっと深刻な問題を抱えていた。開幕まで2ヵ月を切った惨状をレポート。
呪われた大会
「ロシアによるドーピングと、その組織的隠蔽を重く受けとめ、ロシア・オリンピック委員会を資格停止とし、平昌オリンピックへの選手団派遣を禁止する。これは、オリンピックとスポーツに対する最大の侮辱だ……」
現地時間の12月5日夜、スイス・ローザンヌにあるIOC(国際オリンピック委員会)の理事会で、バッハ会長が、重々しい表情で宣告した。
ロシアは、’14年に地元ソチで開いた冬季オリンピックで、国別で最多となる13個の金メダルを獲得した。
今回の平昌でも、世界選手権2連覇中の「フィギュアの女王」メドベージェワ選手や、ロシア大陸間アイスホッケーリーグ(KHL)のドリーム・チームなど、金メダル候補がきら星の如くいる。
IOCは「個人での参加の道は開く」としているが、最終的な参加は不透明だ。
実はこの「判決」によって、ロシア以上に深い失望感に包まれたのが、開催地の韓国だった。聯合ニュースは「最悪のシナリオ」と速報。KBSテレビは「平昌の興行に暗雲」と臨時ニュースを流した。
平昌オリンピックが「呪われた大会」と揶揄されているのは、何もロシアのドーピング問題ばかりが原因ではない。それ以上の懸念が、北朝鮮の暴発リスクだ。
米朝開戦の危機が日増しに高まっている状況下で、果たして「平和の祭典」であるオリンピックなど開けるのかという疑問が、世界各地で湧き上がっているのだ。
「平和の祭典オリンピックを開催することで、半島が平和であることを世界に示す」
文在寅大統領は、事あるたびにこう宣言してきた。
だが北朝鮮は、11月29日、これまでで最強のアメリカ本土まで届くICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験を強行。12月5日に、国連からフェルトマン事務次長が平壌へ急行する事態となった。
米韓両軍も、12月4日から8日まで、ステルス戦闘機F22、F35、B1爆撃機など計230機を総動員し、北朝鮮攻撃を想定した実戦型演習を行っている。
そんな中、「冬季五輪の花」と言われるアイスホッケー競技で、NHL(北米アイスホッケーリーグ)は、早々と不参加を表明した。高額な年俸を手にしているスター選手たちに、万一のことがあってはたまらないというわけだ。
ヨーロッパでも、不安が広がっている。
フランスのフレセル・スポーツ大臣は、「朝鮮半島の危機が続き、フランス選手団の安全が確保されない場合には派遣しない」と宣言。
オーストリア・オリンピック委員会のシュトース会長も、同様の発言をしている。ドイツスポーツ育成協会のシメルペニヒ理事長は、「1月まで状況を見守った上で、ドイツ・チームの参加を判断する」との見解を述べた。
出席明言しない安倍首相
こうした中で、文在寅政権は、何とか北朝鮮を参加させようと、躍起になっている。
6月には、都鍾煥韓国文化体育観光相が、北朝鮮の元山郊外にある馬息嶺スキー場でのスキー種目の「南北共催」をブチ上げた。馬息嶺スキー場は、「オリンピックが開催できるスキー場を造れ」という金正恩委員長の肝煎りで、’13年末にオープンしたが、いまや半ば廃墟と化している。
文在寅政権は、そんな「金正恩の夢」を実現してあげることで、平昌オリンピックを無事に開催しようとしたのだ。
それにもかかわらず北朝鮮は、この提案をあざ笑うかのように、7月に2発、ICBM「火星14」をブッ放したのだった。
文在寅大統領は、9月に国連総会に出席した際、IOCのバッハ会長に、「何とか北朝鮮を参加させてほしい」と直談判した。
頼みは、9月にドイツで行われたフィギュアスケートのチャレンジャーシリーズで6位入賞し、平昌オリンピック参加資格を得た北朝鮮の廉太鈺・金柱息ペアだった。
ところが、参加締め切りの10月末になっても、このペアの参加申請はなかった。そのため組織委員会は11月に入って、フィギュアスケート金メダリストの英雄・金妍兒まで動員し、「平昌オリンピックは南北の分断線を超えて平和的な環境を作ろうとしている最も貴重な努力の証しです」と訴えた。
平昌の組織委員会はいまだに、「特例措置を考える」としているが、北朝鮮からは、なしのつぶてだ。
それどころか11月29日、北朝鮮はICBM「火星15」を発射。次は7度目の核実験も噂される。
同日に日韓電話首脳会談が開かれた際、文在寅大統領は安倍晋三首相に、開会式への出席を要請した。だが安倍首相は、「国会の予算審議が忙しい時期なので……」と態度を保留。同様に、トランプ大統領も習近平主席も、いまだ出席を明言していない(12月10日現在)。
鳥インフルも発生
このような状況下で、組織委員会が頭を悩ませているのが、「チケットが売れない」問題だ。11月26日、組織委員会は「ついに全チケット107万枚中、販売枚数が55万5000枚に到達、半数を超えた」と大々的にアピールした。
これはすなわち、開会式が2月9日に迫っているというのに、いまだ半数近くが売れ残っているということである。
現地でオリンピック関連取材を続けているジャーナリストの金哲氏が解説する。
「チケットが外国人に売れないのは、ひとえに北朝鮮リスクが原因です。平昌から北朝鮮まで80kmしか離れておらず、北朝鮮がその気になれば、テロだろうが砲撃だろうが、やりたい放題です。
しかし韓国人に不人気なのは、まず第一にチケットが高すぎるからです。開会式のチケットが150万ウォン(約15万円)、一番人気のフィギュアスケートは80万ウォン(約8万円)もするため、『それならテレビで観よう』となるわけです。
近隣のホテルも五輪シフトを敷いていて、ビジネスホテルよりランクが下のモーテルさえ、1泊60万ウォン(約6万円)もする。ジョークのような話ですが、組織委員会も支払いに困って、延べ5万5000室分もこっそりキャンセルしています。
そのくせ組織委員会まで悪質な便乗値上げを行っていて、メディア用のインターネット使用量を2万1700ドル(約243万円)に設定したため、大顰蹙です」
平昌の劣悪な環境も、韓国人に不評だという。金氏が続ける。
「開会式まで約100日となった11月4日、開会式が行われるオリンピックプラザで記念コンサートが開かれたのですが、この日の韓国のトップニュースは、『7人もの観客が意識を失い、救急車がフル稼働』。
組織委員会は工事費節減のため、屋根のない開放型で設計。ところがこの日は気温5度で、上空から観客席に向かって強風が吹き荒れたため、低体温症にかかる観客が続出したのです。
オリンピック期間中の平均気温は、マイナス4.8度なので、一体どうなってしまうのか」
財源不足は、文在寅政権が財閥を敵視しているため、広告や寄付が思うように集まらないのである。そのため組織委員会は、約3000億ウォン(約300億円)も協賛金が不足しているのだという。
「ついに文在寅政権が、全国の自治体にチケット購入の大号令をかけました。そのためソウル市が10億ウォン(約1億円)以上買わされるのを始め、各自治体は大わらわです。
国民の血税でチケットを買って何の意味があるのかという、まっとうな声も上がっていますが、政府は無視しています」(同前)
11月下旬には、開催地近くで鳥インフルエンザが発覚し、大騒ぎになった。
いまソウルでは、こんな不安が囁かれているという。
「今後、各国のキャンセルが続けば、最後には韓国だけの『国体』になってしまうのでは?
振り回される選手もたまったものではない。