千葉市
自殺昨年10月、神奈川県座間市のアパートで男女9人の遺体が発見された。このうち容疑者と被害者の7人はツイッターで知り合った。被害者たちは「死にたい」などとSNS上でつぶやいていたと言われている。この事件は、SNSで自殺に関連したコミュニケーションが背景にあったことから、厚生労働省は、自殺対策強化月間の3月、この事件を受けて、若年層を意識したLINEによる相談を実施した(実際に相談を担ったのはNPO法人などの13団体)。死亡率が高いのはどこ? 47都道府県と主要都市を調べると……
厚労省によると、3月中のLINEアカウントの友達登録数は69,549人。このうち、相談延べ件数は10,129件だった。13団体のうち、相談述べ件数が1000件を超えた4アカウント(7団体)について集計したところ、男女別では89.8%が女性で、男性は10.2%。女性が大半を占めた。年代別では10代が39.2%、20代が42.0%。若年層が多かった。ただ、自殺対策上、どのような効果があったのかはまだ分析されていない。
現在、年間の自殺者数は3万人を割っている
日本の年間自殺者数は減少傾向だ。警察庁によると、年間自殺者数は、1998年から2011年までの14年間は3万人を超えていた。筆者が自殺に関連した取材を始めたのも1998年ごろ。2003年には3万4427人でピークを迎える。この年、インターネットで知り合った見ず知らずの人同士が自殺をする「ネット心中」が連鎖する。高止まりを見せていた2008年には硫化水素を使った自殺が1000人を超えた。
しかし、2012年以降は減少を続け、3万人を割っている。昨年は2万1321人。1990年代前半の水準となった。また、2015年以降は10万人あたりの自殺者数(自殺死亡率)は20.0を下回ったことになる。ただし、地域差があり、同じ市内でも行政区ごとにみると格差がある。
自殺統計は、警察庁と厚労省が集計している
日本の自殺統計は、警察庁による統計と、厚生労働省統計情報部の人口動態統計によるものがある。警察統計は外国人を含む総人口が対象。警察庁から提供を受けた自殺統計原票データをもとに、厚生労働省が毎月集計している。捜査などで自殺と判明した時点で計上している。
一方、人口動態統計は、「月報(概数)」をもとに、自殺対策推進室が集計している。対象は日本における日本人。自殺か他殺、事故死のいずれかで処理し、不明の時は、自殺以外としている。死亡診断書等について作成者から自殺の旨の訂正報告がない限り、自殺に計上しない。拙稿では、警察統計をもとにする。
警察統計は、地域としても自殺者がどこに住んでいたのかという「居住地」と、発見された場所を示す「発見地」があるが、「居住地」で見ることにする。日時についても、いつ自殺したのかという「自殺日」、いつ発見されたのかという「発見日」とがあるが、昨年1年間の統計をもとにすることから「自殺日」に限定する。
自殺死亡率が高いのは東北・北陸地方
昨年の自殺死亡率が多い地域を都道府県別で見てみる。居住地別では、秋田県が最も多く、23.8。ついで青森県の21.3、岩手県と愛媛県が同じで20.7、新潟県(20.0)、富山県(19.6)や福島県(19.3)、山形県(18.7)も続く。東北地方や北陸地方が多い。
一方で、自殺死亡率が低いのは奈良県の13.5。ついで岡山県の13.6、大阪府の14.0。神奈川県と京都府が14.1、滋賀県の14.9となっている。関西地方が目立つ。
自殺率が高い地域はストレスが高いのだろうか?
メディプラス研究所が全国20~69歳の女性7万人を対象にした「ココロの体力測定」によると、女性のストレスオフ度を推定した「ストレスオフ県ランキング」では、自殺死亡率1位の秋田県は、ストレスオフでも最下位となっている。しかし、自殺死亡率3位の愛媛県が、ストレスオフでは1位になっている。ストレスが少ない地域だからといって、自殺死亡率が低いとも限らないということなのか。
自殺総合対策推進センターの金子善博・自殺実態・統計分析室長は秋田県の自殺対策に関わった経験がある。
「高齢化を理由にする意見もあるが、秋田の高齢者は東京の高齢者よりも自殺死亡率が高い。また、県民性という意見もあったが、たしかに40年間は自殺率が高い。しかし、それ以前は平均か、平均以下。自殺死亡率が高いところは、生活するのに大変な人が多い地域だ。土地柄というわけではない」
男女別に統計を比較すると……
ただ一方で、自治体の福祉、医療、介護などの施策や利便性がよいため、精神障害のある人がその地域に住むということもある可能性もあるという。
「残念ながら精神障害は自殺死亡のリスクですが、そういう人に優しい地域であるから集まる。結果として、その地域の見かけの自殺者数が目立っているという可能性もあるのではないか」
それでは、男女別に見てみよう。男性全体では23.5。なかでも、秋田県の35.5。全体の順位と変わらず最多だ。2番目も同じく青森県で、33.5。愛媛県も30.2と3番目となっている。ついで、富山県(29.4)、岩手県(28.5)。さらには宮崎県(28.2)や鹿児島県(28.2)と、南九州も後を追う。
逆に少ないのは大阪府の19.2。神奈川県の19.6、京都府の19.8の3県が20.0を割っている。岡山県(20.1)や奈良県(20.4)も20台の前半となっている。関西地方が多い。
女性で見てみると、全体では9.9。男性と比べると、半数以下となっている。最も多いのは新潟県で13.6。男性では10位だが、女性ではワースト1位となった。ついで、男性でワースト1位の秋田県とワースト5位の岩手県が同じで13.4。また、男性でワースト3位だった愛媛県(12.2)が続く。山形県(12.1)や福島県(12.0)と、上位に東北地方が多いが、全体としては低位の関西地方では、和歌山県(12.0)が入ってくる。
自殺死亡率が高い主要都市は?
次に、都道府県庁所在地と政令指定都市、東京都特別区(23区)で見てみる。すると、愛媛県松山市が20.94でトップとなる。東北や北陸地方が全体としては高い中で、四国地方の中で唯一、上位に位置している。ついで石川県金沢市(20.68)。群馬県前橋市(19.47)、富山県富山市(18.89)、和歌山県和歌山市(18.76)となっている。
ただし、政令指定都市での行政区や東京都特別区別で比較すると、最多は大阪市西成区で38.86。ついで名古屋市中区が34.0。大阪市浪速区の33.5、北九州市小倉北区の31.55と、都市部でも自殺死亡率が高いことになる。東京圏では千代田区(26.76)、台東区(22.19)、荒川区(21.12)、新宿区(20.68)が上位に顔を出す。川崎市川崎区(24.06)、横浜市西区(20.40)、千葉市緑区(20.32)も高い。
最も低い都道府県庁所在地は横浜市で、12.13。男性全体では上位の宮崎県だが、県庁所在地の宮崎市(12.36)は少ない方から2番目で、県内でもばらつきがある。少ない地域ということか。
圧倒的に高い大阪市西成区
男性で見てみると、市区別で愛媛県松山市が最多で28.04。北九州市(27.96)や静岡市(26.92)、島根県松江市(26.51)、神戸市(25.87)が後に続く。
行政区を含めると、やはり大阪市西成区が54.08で圧倒的に高い。北九州市小倉北区(43.37)との間には11.0近い差がある。
女性でも、愛媛県松山市が14.63で最多。ついで和歌山県和歌山市(13.26)、石川県金沢市と沖縄県那覇市が13.19。沖縄県は県全体の女性では低い方から2番目だが、県庁所在地では高い率となっている。
行政区では名古屋市中区で28.98。松山市よりも10以上、高い率だ。ついで、浪速区(28.1)や東成区(23.69)、天王寺区(22.39)と大阪市が続く。大阪府は下位だが、大阪市内でも格差があることがわかる。
「総じて、最低賃金が高いところは自殺死亡率も低い。日本の自殺は経済問題と直結しやすい傾向がある。そのため、行政施策という面で見れば、地域格差をどう埋めるのか。困っている人をどう支えるのか、という観点が重要になってくる」(金子室長)
たしかに、昨年度の最低賃金が最も低い地域は、高知県や佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県で737円。ワースト1の秋田県は738円で、青森県や岩手県と同額で東日本で最も低い。ワースト3位の愛媛県は739円となっている。自殺死亡率が高い地域は最低賃金も低い。