千葉市   「ZOZO」前澤社長に買収してほしい球団は? 

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「ZOZO」前澤社長に買収してほしい球団は? ロッテ、中日、それとも…〈dot.〉

突然の表明だった。7月17日、ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイの前澤友作社長が、自身のツイッターで「大きな願望」と前置きした上で「プロ野球球団を持ちたいです。球団経営を通して、ファンや選手や地域の皆さまの笑顔を増やしたい。みんなで作り上げる参加型の野球球団にしたい」とツイート。この“つぶやき”は瞬く間に世間を駆け巡り、すぐさま大きな反響に包まれた。

方法は2つ。「新球団を立ち上げる」、もしくは「既存の球団を買収する」である。ポストシーズンの盛り上がり、野球の底辺拡大などを考えれば、セ・パ両リーグを東西地区に分ける『16球団構想』が一つの理想形なのかも知れないが、そのためには新たに「ZOZO球団」を含めて4球団を誕生させなければならない。具体的な本拠地候補に、静岡、新潟、愛媛、沖縄などの“空白都市”が挙がっており、それ自体は非常に魅力的なプランではあるが、実現のためにはまだまだ時間、そして前澤氏以外の協力、野心家の登場が求められる。

“早急に”となれば、やはり「球団買収」である。前澤氏は自身の出身地である千葉に対する地元愛が強い。スタートトゥデイ社を千葉市美浜区に構え、16年12月にはマリンスタジアムの命名権を獲得して「ZOZOマリンスタジアム」とした実績もある。前澤氏の本命は「千葉ロッテ球団の買収」であろう。すでにチームには迫力満点の応援を繰り広げる熱狂的なファンがおり、ここのチーム強化に意欲的な前澤氏の資金力が加われば、常勝軍団への変貌を遂げることも可能。球場最寄りのJR海浜幕張駅には、アウトレットなどのショッピングモールやホテル、レストランなどが集まっており、「ZOZO球団」の誕生によって野球とファッションを融合させ、さらなる“オシャレスポット”、“ファッション発信地”として、オンライン上ではなく、実在としての「ZOZOタウン」を作り上げることも可能になる。

“ファッション”という意味では、表参道に近い神宮球場を本拠地とするヤクルト球団との互換性もある。現在、東京五輪を契機とした神宮外苑の再開発計画が進行中であるが、ここに「ZOZO」が加われば、野球ファンだけでなく流行に敏感な若者たちを巻き込むことができる。今回の「ZOZO」以前にヤクルトには身売りの噂が頻繁に浮上しており、新潟や静岡への本拠地移転の話もあった。「ZOZOスワローズ」が誕生すれば、「東京音頭」に代表されるような、これまでの“下町”のイメージをがらりと変え、それが新たなファンの獲得・拡大に繋がるかもしれない。

また、プロ野球球団は時代を移す鏡である。親会社がかつての国鉄、阪急、近鉄、南海、西鉄と言った鉄道会社から、近年のソフトバンク、楽天、DeNAといったIT企業へ移行して来たのは、実に分かりやすい。そして、04年のプロ野球再編問題時に球団合併を模索した西武の身売り話も完全に消えてはいない。もし仮に「ZOZOライオンズ」が誕生すれば、現在のメットライフドーム周辺を再開発し、ファッションも織り交ぜた一大テーマパークにする案も浮上する。ただ、都心から離れており、交通の便も悪いのが懸念される。インフラも含めた再開発プランが必要になるが、その場合は自治体からの援助が必要不可欠になり、球団誘致に積極的な都市への本拠地移転も現実味を帯びて来るかもしれない。

ファンからの要望が多いという意味では、中日が候補となっても面白い。今年は松坂大輔の加入で観客動員が伸びているものの、ここ最近は“ファン離れ”が顕著で、2013年には、1997年にナゴヤドームへ本拠地を移転して以来、初めて年間の入場者数が200万人を割った。成績面でも、昨年は球団ワーストの5年連続となるBクラスと低迷し、今シーズンも最下位に沈んでいる。ツイッター上でも球団の経営に不満をもつファンから買収に対して、前向きなコメントが目立っている。40年来の中日ファンはこう話す。

「こんなに弱い時期が続くのは80年以上の歴史があるチームの歴史でも前例がない。ファンの間では、親会社の中日新聞への不信感が募っています。そもそも新聞業界は斜陽産業。ベイスターズのように、勢いがある企業に買収してもらって、ファン重視のチーム作りを進め、強いドラゴンズを取り戻してほしい」

やはり、2011年のオフにベイスターズがDeNAに買収され、「人気」と「成績」の両方を得たことで、特に現状に満足していないチームのファンはZOZOの買収を歓迎している傾向にあるようだ。DeNAは買収前に約110万人だった入場者数が昨年には約198万人と大幅にアップし、さらに昨シーズンは16年ぶりのシーズン勝ち越しを決め、リーグ3位ながら日本シリーズに進出した。

では、専門家は今回の前澤氏の表明をどう見ているのか? 野球ライターの西尾典文氏はこう話す。

「古くから存在している球団はあくまで親会社の知名度のために球団経営をしているというスタンスのところが多いように見えます。そのため球団経営で赤字が出たとしても、親会社の広告宣伝費くらいでしか見ていない。一方、楽天やDeNAのように近年参入したチームは球団単体でも利益をきちんと出すようにシフトしており、実際にそれがうまく回っています。球団とスタジアムの経営を一体化し、幅広い層を取り込むことに成功している。それはwebマーケティングに強みのあるIT企業だったということも大きいと思います。ZOZOもその流れをくむ企業ですので、新たなファン層を取り込んで球団経営を黒字化させることもおおいに考えられるのではないでしょうか。ファンの中にも勢いのある企業が参入することを望んでいる層が少なくないと思います」

ひと昔前、特にパ・リーグの球場には閑古鳥が鳴いていたこともあったが、前述したIT企業の参入や日本ハムの北海道移転などで、球場のエンターテインメント化が進み、どの球場も連日の賑わいを見せている。この状況下で、千葉ロッテが即座に球団売却を否定したように、どの球団も身売りに消極的であることは想像に難くない。楽天球団が誕生した時のような球団合併というウルトラCもあるが、果たしてどうなるか。求めたいのは、これまでにないような革新的なチーム。それは閉鎖的な環境の中では生まれにくく、外からの新しいパワーが必要になる。今回の“つぶやき”が、プロ野球界の“前進”に繋がることを願いたい。