千葉市 <ラーメン店>創業60年 変わらぬ味 東京・早稲田
学生の街・早稲田(東京都新宿区)で早大生やOBに愛されてきたラーメン店「メルシー」が今年、開店から60年を迎えた。周辺はチェーン店やコンビニエンスストアが急増し、昔ながらの店が相次いで姿を消しているが、店主の小林一浩さん(57)は「安さと量の多さをモットーに、卒業生にも愛される店を続けたい」と意気込む。【安高晋】
週末の昼下がり。広告関連会社に勤める千葉市の前田博哉さん(45)が親子で来店した。「大学の部活の練習後にいつも立ち寄っていた」
板張りの壁に飾り気のないメニュー表や部活の勧誘ポスターが張られた店内は、当時と変わらない。煮干しダシが利いた素朴なしょうゆラーメンは今でも400円。安さが魅力だった。
「先輩に怒られた時もフラれた時も、ここで憂さ晴らししたなあ」。今も「原点に戻れる」とたまに訪れる。「今日はこの子たちのデビューなんです。『お父さんが通った店、行くか?』って」。小学生の息子2人を見つめた。
社会人2年目の大矢行帆さん(25)も早大OBだ。会社の寮がある日野市から月1回通う。今年は仕事を任せられることが多くなり、重圧も増えた。「ここの変わらない味と雰囲気に元気をもらえる気がして。卒業後のほうが、来たいと思うようになった」
メルシーは小林さんの父、日出男さんが戦前、喫茶店として開いた。店名は客の学生が付けてくれた。戦争を挟み、1958年3月に現在の形で再開した。昔の名残で、看板には「軽食&ラーメン」の文字。オムライスなどの洋食も出す。
早稲田では7月にカツ丼発祥の店として知られるそば屋「三朝庵(さんちょうあん)」が100年以上の歴史を閉じるなど、近年は老舗の店じまいが相次ぐ。だが、メルシーには10年ほど前から心強い「助っ人」がホールに加わっている。鈴木恵美子さん(72)。かつて早稲田でメルシーと人気を二分したラーメン店「ほづみ」のおかみさんだった。
「夫が体調を崩して店をやめて。日出男さんのめいと同級生で小さい頃からメルシーとは縁があり、今はお世話になってます」
ほづみの常連だった早大商学部教授の荒井訓(さとし)さん(64)は、店をやめると聞いて「俺の昼飯、どうするの」と抵抗したが、今はメルシーに通う。店で鈴木さんを見ると、あいさつ代わりに「早く再開してよ」と声を掛けるが、メルシーのラーメンも「シンプルだけどしっかりした味」と魅力に気付き、新たな行きつけになった。早稲田実業中等部に在学中、両店に通った男性(40)も「ライバルと思っていたから、仲良くやっていると知ってうれしい」と歓迎する。
大学は長い夏休みが終わり、9月27日に秋期の授業が始まった。「また忙しくなるね」。小林さんは、ひと夏を越して成長した学生の来店を楽しみにしている。