千葉市
親の経済格差が「エアコン設置格差」に――猛暑でも保護者負担すべきか?
気象庁が「災害」と言い切った2018年の猛暑。多くの自治体が公立の小中学校にエアコンを整備すると発表し、政府も秋の臨時国会で提出する補正予算案などで後押しする方針だ。
一方で、義務教育ではない公立高校のエアコンはPTA費など保護者が負担していることが多い。そのため親の経済状況が「エアコン格差」につながっていると言う現実がある――。
保護者に「エアコンの費用を出してください」と言えない
千葉県の県立高校で働く男性は、数年前までエアコンのない学校で勤務していた。夏の教室はいつもうだるような暑さだったという。炎天下で体育の授業を受けた後も涼む場所がなく、エアコンのない教室で授業を受け続けなければならないため、熱中症になる生徒もいた。
保護者が費用を負担してエアコンをつけている高校は多いのに、なぜそれができないのか、先輩の教員に尋ねたことがある。
「家庭が経済的に恵まれているとは言えない状況の生徒が多かったので、保護者に『エアコンの費用を出してください』とお願いするのは難しいと言われてました」(男性)
その後、やはりこのままでは学習環境として適していないということで、教員が保護者会に提案し、保護者の負担で普通教室にはエアコンを設置することになった。エアコン設置後は、生徒の授業やテスト中の集中力が「グンと上がったように見えた」という。
しかし、職員室にエアコンをつけることはできなかった。エアコン設置の目的である「生徒の学習環境の改善」には直接関係していないからだ。職員室にあるのは扇風機1台だけ。生徒がいないときは教室に資料を持ち込んで仕事をしている教員もいたそうだ。
「生徒の経済状況が学校での学習環境にまで影響を与えてしまっているのが現状です。エアコンに関する費用は、保護者ではなく自治体が公費で負担すべきではないでしょうか」(男性)
保護者負担での設置を「許可する」
千葉県は公立小中学校の普通教室でのエアコン設置率が44.5%と、関東1都6県の中で最も低い。しかし、8月23日には設置率0%だった千葉市が、市立小中学校の普通教室にエアコンを完備する方針を表明するなど、改善も見られる。
そんな中、置き去りになっているのが県立高校だ。
千葉県の県立高校123校のうち、成田空港や自衛隊基地の近くにある5校は、防音校舎として成田空港や防衛省からの補助を含めた県費でエアコンを設置し維持してきた。他の98校では、リース代や電気料金などのすべての費用を保護者が負担している。
県の担当者によると、2017年度にエアコンの維持費としてかかったのは月400円~1600円。つまり月平均995円、年間では約1万2000円を保護者が支払っている計算だ。
そして、残りの20校の普通教室にはいまだエアコンがない。
職員室にエアコンが完備されていないのも、関東では千葉県だけだ。近年は毎年約4校のペースで県費で設置しているが、まだ64校にしかない。
こうした事態を受けて、7月、千葉県議会の三輪由美議員(日本共産党)などは千葉県知事と千葉県教育委員会教育長宛てに「全ての県立学校に、公費によるエアコン設置等を求める緊急要望書」を提出している。
「40度に近いよ!夏、千葉県立高校教室や職員室を訪問。千葉県は県費で県立高校にエアコン設置せず、保護者負担には『許可』すると。故に経済的困難、県内123高校のうち20高校の普通教室にはエアコン無し」(三輪議員のツイートより)
共産党の要望で県が調査したところによると、7月にはエアコンがない教室の温度はほとんどが30度を超え、最も高いときで36度。職員室では39.4度を記録したこともあった。文科省の学校環境衛生基準で教室などの望ましい温度の基準を「17℃以上、28℃以下」としていることを考えても、迅速な対処が必要だろう。しかし、具体的なことはまだ何も決まっていない。
県の担当者は「吊り天井の改善や耐震工事など、エアコン以外にも対処が必要なことはたくさんあります。限られた予算の中で総合的に判断したいと思っています」と話した。
保護者負担では公平性が保てない
一方で、エアコン代を保護者負担から公費に切り替える自治体も出てきた。
神奈川県は2013年度から2015年度までの3年間で、県立高校144校のすべての普通教室に県費でエアコンを設置した。約50億かけてそれまでエアコンがなかった学校に設置するだけでなく、すでに保護者が費用を負担して設置していた83校の電気料金などの維持費も、2013年以降はすべて県費でまかなっている。
「温暖化が深刻化していることや、熱中症のリスクが高まっていることを受けて県費に切り替えました。保護者さんが設置された学校についても県費負担にしたのは、教育の場で不公平が生じるのを避けるためです」(県の担当者)
群馬県も同じだ。
「保護者の経済状況や、PTA費に余裕があるかどうかでエアコンの設置状況に格差が出てきていて、公平・公正な教育環境とは言えない状態でした」
そう話すのは、県の担当者だ。県立高校64校中、保護者が負担していた学校が26校あったが、2016年度から2018年度にかけてすべての普通教室に設置し、保護者負担も県費にした。エアコンのない県立高校38校の夏の教室の温度を測定したところ、2015年にはすべての学校で30度を超えていたそうだ。
茨城県も今年の猛暑を受け、これまで保護者負担のみしか認めていなかった県立高校の普通教室へのエアコン設置を、県費で進める方針を打ち出した。県立高校など96校のうち71校が保護者負担だったが、今後は県費で設置率100%を目指す。朝日新聞によると「小規模校を中心に、1クラスあたりの生徒数が少ないなどの理由でエアコンの導入を諦める例もあり、公平性の欠如が指摘されていた」という。神奈川県や群馬県と異なり電気代などは今後も保護者が負担していくというが、それでも大きな一歩だろう。
文科省によると、全国の公立高校の普通教室へのエアコン設置率は74.1%(2017年、公立学校施設の空調[冷房]設置状況調査)。公費や私費の割合などは把握していないという。実態を把握し、格差が広がらないよう見直すことが必要だ。