千葉市 全国に広がりはじめた同性パートナー制度

千葉市     開始から3年、全国に広がりはじめた同性パートナー制度

 

全国に広がる同性パートナー公認制度
目下の「LGBTブーム」は、東京の渋谷区と世田谷区で始まった同性パートナーの公的認証制度がきっかけであることは、誰しも疑わないでしょう。2015年11月5日に、証明書の交付(渋谷区)やパートナー宣誓(世田谷区)が始まって、ちょうど3年がたちました。

その後、同様の制度は宝塚市、伊賀市、那覇市、札幌市、大阪市、福岡市で実施され、千葉市、豊島区、横須賀市での導入も報じられています。導入を検討する自治体も広がっています。

じつは私の住む東京都中野区でもこの8月、同性パートナー制度が始まり、9月に第1号カップルの宣誓がありました。

ここであらためて、自治体の同性パートナーの公的認証の意義を確認してみましょう。
【寄稿:永易至文・NPO法人事務局長、ライター、行政書士】
当事者に誇りを与えた制度
この制度は国の法律にもとづくものではないので、男女の婚姻のような法的効力(相続権など)はありません。相続には遺言を作るとか、金銭がからむ場面では(男女夫婦でも同様ですが)代理権を明記した委任状や委任契約が必要です(こちらの記事もご参照)。

しかし、病院での面会や不動産賃貸の場面など、事業者がふたりをカップルだと認めさえすれば対応できるはずの場面では対応を促進し、電話や飛行機などの「家族割」「夫婦割」、生命保険の受取人指定などの場面でも活用されています。会社の福利厚生で家族住宅手当てや慶弔休暇の申請に、これがあるとスムーズというところもあります。

そうした当事者の実益にかかわることと共に、性にまつわる「恥の感覚」がいまなお強い日本で、行政が同性カップルを公認することは、その負の感覚を払拭し、性的マイノリティの人権と社会的課題の存在を目に見えやすいかたちで示しました。

だからこそ、同性カップルにかぎらないさまざまな取り組みやトランスジェンダーへの対応促進(文科省通達など)にも波及したのでしょう。

なにより当事者に、自分たちの存在が承認される喜びと誇りをもたらします。受領証を受け取るとき号泣したという世田谷のレズビアンの話を聞き、はにかみながらも二人で声を合わせて宣誓し握手するゲイカップルを見るとき、私はその思いを新たにしたものでした。

同時に、実施する自治体の数が増えてくるなかで、制度の違いが目立ってきました。自治体間で方法や適用対象に違いが見られ、差が出てきたのです。

また、制度制定の契機には、当事者主導もあれば、突然、首長や議員が先行して主唱し、当事者へのヒアリングや連携があるのか見えづらい場合もあります。

本記事では、私自身も参加した中野区での制定までの流れや制度の中身をご紹介し、3年を経た同性パートナー公認制度の今後の可能性を考えてみたいと思います。

中野区でパートナー制度ができるまで
新宿区の西隣に位置する中野区は、俗に「LGBT当事者が多い」と言われます。

単身世帯の多い土地柄で、分母が多ければ分子も多い。都心から近いわりに安価なアパートがまだ多くて住みやすい、中央線カルチャーの自由な気風に親和性があるなど、いくつか理由(らしいこと)もあげられますが、そんなこんなで友人・知人が多ければ引っ越し先の選択肢としても選ばれやすいという循環があるのかもしれません。

私も1993年の春に参加していたゲイグループの活動(事務所がやはり中野区)と当時の恋人との同棲のために越して以来、25年の中野区民で、第二の故郷といっても過言ではありません。

近年LGBT運動が活発化するなか、そうした地元で2015年に有志が新たに立ち上げたのが「中野にじねっと」です。地域や暮らしに根ざした問題意識で春のレインボーウイーク時にシンポジウムを開催したり、区へ働きかけを進めてきたりしました。

2015年10月、中野にじねっとの立ち上げ時に田中大輔区長(当時)も参加して開かれたシンポジウムは、ちょうど渋谷区でパートナーシップ証明の受付が始まった日で、それが全国ニュースでも伝えられる熱気のなか、150名近い参加がありました。

メンバーからは当然、「中野はどうするんですか?」という質問が区長へ飛びました。

区長は、世田谷区のような「要綱」(区政の運用マニュアル的なもの)では実効性がない、渋谷区のような条例でやるべきと述べ、従来からの持論である「(特定のマイノリティ対応ではなく)ユニバーサル社会の実現をめざす」を繰り返しました。

私たちは、実現がほぼ不可能な条例制定を言うことを「やらない宣言」と受け止め、失望したものでした。

その後、中野区はユニバーサルデザイン条例の制定を進め、にじねっとでも条例に「性的指向・性自認」の明記を目指して、区の説明会などさまざまな場に足を運んで訴えました。

しかし、条例では「年齢、性別、個人の属性や考え方、行動の特性等にかかわらず、全ての人」と規定するばかりで対象や課題の具体的列挙を避け、私たちに「みんなにやさしいは、結局、誰にとってもやさしくない結果になるのでは?」との不安を残しました。

その後、にじねっとにも一種の徒労感が漂い、そろそろ活動に区切りをと話し合われた席で、同性パートナーシップをやらなくていいのか、中野はほしくないのか、との問いかけが上がりました。

じつは私たちのなかではフェミニズムの影響から既存の婚姻制度への疑問もあって、パートナーシップ「のみ」を突出させて求めることへの優先度はかならずしも高くはなかったのです。

しかし、同性パートナーシップは目に見えやすいこともあって社会的反響も大きく、同性カップルのみならず性的マイノリティ全体への認知や共感を高めること、なにより「中野区も私たち住民である性的マイノリティに向き合ってほしい」の思いを再確認。

まず、2017年の秋から世田谷区の宣誓当事者や、渋谷・世田谷の制度制定にかかわった関係者や議員を招き、月1で3回の連続学習会を開催しました。区の内外から当事者・支援者が集まり、区議会議員の参加もありました。

そして、学習会の成果をふまえ、今年2月7日には区議会議員向け懇談会を開催。与党会派の自民党を含む中野区議会の全会派から参加を得ました。

こうした居住当事者からの働きかけに呼応するように、中野区側にも動きがあり、2月の区議会で区長が導入を表明。この背景には、複数の有志区議による区長への水面下での働きかけやさまざまな根回しもあったと仄聞(そくぶん)します。

5月には制度の概要が決まり、6月には区で制度の説明と意見交換会が開催され、47名もの参加がありました。さまざまな意見が出されるとともに、区内在住の同性カップルの参加が多く、「やっぱり中野は多い」を実感(笑)。

そして8月から宣誓の申請受付が始まり、9月に1号目のカップルに宣誓受領証が交付されました。区民当事者や支援者による下からの要望や運動が主導し、それに応える行政や区議会議員らとの阿吽の呼吸があってできたこの制度を、私は区民の一人として誇りに思っています。

中野区の制度はどのようなものか?
中野区での制度内容と申請の仕方をご紹介しましょう(詳細は区の手引きをご覧ください)。まずパートナーシップの定義として、

互いを人生のパートナーとし、日常の生活において、互いが協力し合いながら、継続的に同居して共同生活を行っている、又は継続的に同居して共同生活を行うことを約している、戸籍上の性別が同一である2人の者に係る社会生活関係をいう。

とあります。区内に同居している同性二人が要件です。

制度の内容としては、他自治体と異なり2種類あります。

一つは、区で宣誓をして宣誓書を提出し、その受領証を区が交付する「パートナーシップ宣誓」。区長名と公印のある受領証で、二人がパートナー関係であることを公認していくものです。

もう一つ、中野区に特徴的なものに、「パートナーシップ公正証書等受領証」というものがあります。これは区へパートナーシップにかかわる内容の公正証書を提出し(原本は返還)、その受領証を交付。公正証書でどんな内容の契約や意思表示をしているのかを区が証明するものです。

交付希望者は交付の14日前(土日休日を除く)までに区の人権・男女共同参画担当へ事前連絡し、必要書類等の指示や宣誓日時の調整をします。当日はかならず二人で区役所へ行き、本人確認ののち、職員の面前でパートナーの宣誓をし宣誓書を提出、区からその受領証を交付してもらう流れです。
同居要件などの「課題」もある
一方、課題もなきにしもあらずです。

ひとつは、宣誓ができる人を区内同居カップルに限定していること。

区は民法の婚姻規定(夫婦は同居・協力・扶助しなければならない)に合わせたと言いますが、同性カップルの現実は通い婚も多く、遠距離恋愛も少なくありません。

そして、ふだん同居していないからこそ(病院などで)パートナーと証明する必要があるのではないでしょうか。

考えてみれば、男女夫婦は同居しなくても婚姻が不受理や取消しになりません。同性カップルにだけ厳しすぎる規定という気もします。全国的に「制度の利用者が少ない」と言われますが、当事者の事情に即さず、申請できないという面もあるのです。

もう一つは、中野の特徴である公正証書受領証が一種の「なぞ制度」になっていること。田中前区長は上述のシンポジウムで「(作るなら)実効性があるものを」と強調しましたが、では、「実効性」とはなにか?

渋谷式と世田谷式を比べた場合、一部に、世田谷の文書では対応しないが渋谷の証明では対応する企業がある(夫婦共同の住宅ローンの利用を認めるみずほ銀行など)。それは渋谷式には公正証書の裏付けがあるからだ。対応企業が一つでも多いほうが「実効性」があるといえる。では中野も……と考えたようです。

しかし、公正証書は国の制度であり、国の制度の証書を自治体が証明するのもなんだかヘンです。

それに、区が公正証書をすでに確認しているので相手に原本を見せなくてすむと区は説明しますが、相手(企業等)からすれば原本確認は必須です。

また、それぞれのカップルのニーズや備えておきたいことなど公正証書で取り交わされる契約内容は多種多様で(私も行政書士として現場で日々実感します)、私が証書作成にかかわり、公正証書受領証を申請したある友人カップルも、申請のとき現場では区が用意したどの項目欄に当てはめればいいのか混乱があったと言っていました。

公正証書の作成自体は法的権利のない同性カップルにとって有益ですが、区の公正証書受領証の制度はなくてもよかったと思いますし、私たちも区に何度かそう伝えてきましたが、結局、制定されてしまいました。当事者の声や実態にかかわらず行政側が独断専行して制度や施策を作ってしまう、これも「LGBTブームあるある」の例なのでしょうか。

今後、他の自治体で取り組むさいは、ぜひ地元の当事者と連携してほしいものです(世田谷区では受領証の文言やデザインも当事者とともに作成したと聞きます)。

広がる自治体ごとの違い。国の法律で統一を!
同性パートナー制度には、3年たった現在もさまざまな批判があります。

宗教右派や保守派からは「伝統的な家族を破壊する」「少子化を推進する」といった声も聞こえます。

しかし、法的効力もない自治体の文書一枚で壊れるような家族なら、それはもともと壊れていた家族でしょう(ところで家族が壊れるってどういう意味?)。また、制度がないと同性愛者が異性愛者になって子どもを作るのか? 両者にはなんの連関もありません。

一方、当事者のなかにも、「養子縁組があるし、こんな法的効力もないものは不要だ」という声があります。

親子関係の創出である養子縁組と同性パートナーシップは本来は別物ですが、ただ同性婚がないなか養子縁組をそのバイパスとして使うことについて、私は「相続その他、法的関係がいま必要な人はそちらを」と思っています。

それぞれの状況で必要なものを得たり守ったりするために、宣誓をしたいと思う人が宣誓すればいいだけのことで、その反射で養子縁組の価値が下がるわけではありません。

こうした制度を実施する自治体が増えるなか、冒頭に述べたように、自治体ごとの制度の差が目についてきました。

公正証書式か宣誓式かのほか、同居要件も、札幌市は市内なら別居でも可、大阪市はじつは一方が市外の人でもOKです。千葉市や横須賀市で検討されている制度は、男女の事実婚の人も利用できると報じられています。数が増えたからこそ、違いが生まれ、「混乱」が生じてきているのです。

しかし、私はこれは「よいこと」だと思っています。各地の自治体でどんどんノロシが上がり、混乱が広がればいい。そこに「やはり国で統一するしかない」、という気運が生じるからです。すでに現実において同性カップルが公認される状況に人びとが慣れ、今後、逆行や「やらない選択」は許されなくなりつつあります。

個々バラバラな、法的効力もない一片の自治体制度が秘める「可能性」とは、まさにこれではないか。私はそう感じています。

広がれ、自治体のパートナー制度!