千葉市 首都圏「大地震で大津波が来る駅」ランキング
巨大地震の際、津波に襲われる鉄道路線、駅が数多く想定されている。その時、どの駅にどのくらいの高さの津波が押し寄せ、鉄道はどう対応するのか。われわれはどう行動すればいいのか。
津波による悲劇は、東日本大震災での記憶が生々しい。東北地方に限らず太平洋側の各地で地震による大津波襲来が予測されている。
JR東海は東海道本線、紀勢本線などの55駅に対し南海トラフ巨大地震での津波到達を想定している。またJR西日本では紀勢本線など、JR四国では土讃線や牟岐線など、JR九州では日豊本線、日南線など、JR北海道では函館本線、室蘭本線、根室本線などで津波の危険があるとされる。私鉄や第三セクターの鉄道でも沿岸の路線は同様である。
紀勢本線では5~10mの大津波が想定される区間もあるため、実際に乗客を乗せた車両での降車訓練なども行われている。線路沿いには津波想定区域の表示も多数ある。
■津波の認知度が低い首都圏
一方、首都圏では津波への認知度が低い。そこで、今回は注意喚起の意味も含め、人口の多い首都圏、すなわち東京都、神奈川県、千葉県の海沿いの鉄道を対象に述べてみたい。
一都二県が発表した巨大地震における津波ハザードマップ(津波浸水の深さがわかる)をもとに、各駅への津波の高さを集計し、独自に順位付けを行ったのが次ページの表である。高架駅の場合は、地表の津波想定高、地下鉄の場合はホーム付近の地表の想定高としている。
この表を見るにあたり、まず心に留めていただきたいことがある。首都圏の駅では、数mの襲来想定から数十cm程度のものまで含めれば、50以上の駅が該当している。一方で、これらの駅の中で、大正12(1923)年の関東大震災で津波の被害にあった駅はひとつもない(駅近くまで津波がやってきた例はある)。これはどういうことだろうか。
大津波を伴う巨大地震は数百年または千年以上の周期で繰り返し起きるとされる。各都県で作成した津波ハザードマップは、歴史的に確認されている巨大地震のタイプと同様のものが起きた場合を想定して浸水高を算出している。
これとは別に、政府の地震研究推進本部によれば、今後30年以内に震度6弱の大地震の起きる可能性は東京都新宿区47%、横浜市81%、千葉市85%(「全国地震動予測地図2017年版」)と発表されており、かなり高い確率といえる。この結果と混同されがちなのだが、ランキング表にある大津波が30年以内に47%などの確率で襲来するというわけではない。大地震でも大津波を伴うものとそうでないものとがあり、ランキング表は数百年あるいは千年以上の単位で起きる可能性のある大津波を想定してのものである。
ただし、起きる可能性は低いものの、明日起きても不思議ではないことを肝に銘じたい。また想定以上の高さや、想定されていない場所へも津波が来る可能性もゼロではない。
■海が見えなくても津波は来る
1位は江ノ電の長谷駅。高さは最大で5~8mなので、ビルの3階の高さの津波に襲われる。
長谷駅は鎌倉の大仏様(高徳院)の最寄り駅である。長谷寺も近い。そのため多くの観光客が利用する。駅に降りても海は見えないので、浜辺からやや離れているように思うかもしれないが、駅付近の海抜は4.5mしかない。
ランキング表には、上位7駅のうち江ノ電の駅が4駅も含まれている。海を間近に見ながら走る区間もある人気路線だが、その中で海に面する鎌倉高校前駅が入っていないことを不思議に思う方も多いだろう。だが同駅は浜辺とは段差があり、海抜10mほど。長谷駅は同駅よりずっと海抜が低いのである。
しかも鎌倉高校前駅付近は丘が海まで迫っているので、すぐに高台に避難できるのに対し、長谷駅からは長谷寺など近くの高台まで約400mも離れている。津波避難ビルも極端に少ない。長谷駅周辺にいて津波警報に接したら、一目散に長谷寺や大仏様の高台へと逃げる。このことを念頭に入れておきたい。
2位の鎌倉駅(江ノ電・JR横須賀線)も観光客の利用者が多い駅だ。海からは1km以上離れているが、近くを滑川が流れ、海側から見るとしだいに狭くなる谷を遡って津波が遡上することが想定されている。三陸のリアス式海岸で津波が高くなるのと同じ理屈である。関東大震災の際は、駅のすぐ手前まで津波が来ている。津波警報の際は、速やかに駅西側の市役所方面や北側の鶴岡八幡宮、または最寄りの津波避難ビルへと避難しよう。
4位の片瀬江ノ島駅(小田急江ノ島線)も江ノ島や新江ノ島水族館などへの観光客が多い。同駅はすぐ近くに高台がない代わりに、津波避難ビルが比較的多数ある。マンションなどが津波避難ビルに指定されていて、津波警報の際には鍵が開けられ誰でも入れるようになる。もし玄関ドアが開かない場合は、ドアガラスを割って入ってもいいとされている。
観光客は地元民に比べて土地勘がない。駅に降りたら、駅前にある地図で、津波避難ビルの場所を確認してから目的地へと向かいたい。このほか、逗子駅や新逗子駅など相模湾沿いの駅は津波の想定高が高くなっている。
■東京湾沿いでは意外なところが
一方、東京湾沿いの駅になると、湾の入り口が狭く奥に広がっている地形から、津波の高さは低くなる。それでも津波はやってくる。
JR鶴見線の多くの駅がその代表格だ。海からやや離れた浜川崎駅など、意外なところに比較的高い津波が襲来する。海に面した海芝浦駅(津波浸水高0.15~0.5m)よりも高い浸水となる駅が多い。これも各駅の海抜と地形の関係でそうなる。鶴見線の駅など、ホームなどに津波避難ビルの地図が掲示されているのでよく見ておこう。
東京都では、ゆりかもめの日の出駅が一番浸水高があり0.5~0.8m、JRでは浜松町駅が0~0.15mとなっている。
鉄道会社の対応として、江ノ電の例を見ておこう。
大地震が発生し、運転司令所に設置してある緊急地震速報に推定震度4以上を受信した場合、司令所から列車無線で運転士に緊急停止の指示が出る。運転士はトンネルの中や橋梁を避けて駅間であっても電車を停止させる。
津波警報や大津波警報が出た場合は、一刻を争う。乗務員は車内アナウンスを行い、電車の扉をすべて開け、同時に各車両ひとつの扉にはしごをかけて乗客を線路に降ろす。乗務員は必要に応じて降りる介助を行う。
駅間に停まった場合、ここから線路伝いに歩くことになるが、江ノ電では線路沿いの架線柱に、津波一時避難場所への方向を矢印で示す案内板が掲げられているので、そのとおりに進んでいく。避難場所へと向かう道の踏切手前の架線柱に同様の案内板があるので、その矢印どおりに道路に出て避難場所へと向かう。
■乗務員の目が届きやすい江ノ電
こうした一連の行動は、江ノ電ならではのものもある。
単線のため隣に線路がなく、電車が走ってくることがない。そのためすぐに線路に降りられる。4両編成と短いので、乗っている車両か隣の車両には乗務員がいて、乗客が降車の介助を受けやすい。15両編成でラッシュ時乗客3000人以上、乗務員3人程度といったJR東海道本線などとは異なるわけである。
またJRの幹線では、線路に立ち入られないように線路沿いにフェンスが続いていて、線路外に出られる扉のある地点まで遠い場合もある。江ノ電は駅間が短く踏切も多いので、線路外にすぐ出られる。
長谷駅で5~8mとなるような明応型巨大地震の場合、津波の第一波まで地震発生から約50分と想定されているが、それよりやや規模が小さい南関東型地震(長谷駅で津波浸水高0.8~1.2m程度)では十数分で第一波が来ると想定されている。
「駅から津波避難所到着まで10分をめどに、対策や訓練を行っています。社員による降車訓練では、車両ドアを開け、それに合わせてはしごを設置し全員が降りるまで2~3分でした。実際にお客様が多数乗られている時は3~4分かかるでしょう。避難所までの実踏訓練も年3回行い、そのほか乗務員単体、駅員単体でも個別の訓練を行っています。駅では災害時ハンドブックの配布や避難所への地図も掲げてあり、駅員無配置駅は、有人駅より放送で避難の案内を行います」(江ノ電鉄道部運転車両課)
筆者はこれまで主に首都圏の鉄道会社に対して、災害時の対応などを取材してきたが、江ノ電は、海辺を走るだけあり、津波に対する対策と訓練は他の鉄道会社より熱心に行われている。社員の意識も高く感じる。
■海岸近くの駅では避難所確認を
だが、まだ課題は残る。実際の満員の列車で高齢者も多く乗車している場合は、降車にもっと時間がかかるかもしれない。鎌倉市や藤沢市と連携して、市民などによる降車、避難訓練も必要だろう。また近年多い台湾、中国、韓国、欧米など、外国人への多言語による案内板、アナウンスなど自治体とともに検討を望みたい。
今回はJRの対応まで触れることはできなかったが、海岸近くの駅に行く時は、津波避難場所を確認する習性をつけておきたい。
<ランキング表補足>
各都県ではこれまで数回にわたり津波浸水予測図(ハザードマップ)を改訂してきた。神奈川県では平成24年3月に「津波浸水予測図」を発表した。同県ではさらに平成27年2月に「津波高さ」と「浸水域」が最大となる「津波浸水想定図」を公表している。これは発生頻度が2000~3000年以上とされる相模トラフ沿い最大クラスの地震など最新の科学的知見を加味したもので、平成24年の予測図より多くの場所でやや高い津波を想定している。
ただし、鎌倉市の「かまくら防災読本」はじめ一般に流布している津波ハザードマップは平成24年版であること、鎌倉市HPにもそれが掲載されていることなどにより、ランキング表は平成24年のものを基に作成した。