千葉市【千葉刑務所から】(下) 社会順応へ指導に力

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【“塀の中”の日常 千葉刑務所から】(下) 社会順応へ指導に力 資格取得や就労先確保 受刑者の高齢化深刻に

 

関東地方にある刑務所で唯一、無期懲役の受刑者を中心に収容する千葉刑務所。約7割が無期刑のため入所期間は長く、平均年齢は53・5歳と他の刑務所より高い。千葉刑務所では高齢化が深刻になっている。

長期刑の受刑者は出所後の自立が困難で、出所後に一般社会に順応させるため同刑務所は「よりきめ細かい行動観察や指導が必要」と受け止め。出所までに社会で通用する資格取得や、雇用先確保など「二度と刑務所に戻らない」ための取り組みにも力を入れる。
◆5年でわずか22人
同刑務所の無期受刑者が仮釈放されるまでの在所期間は約31・6年。法務省の統計によると、1998年は全国平均で約20年だったが、刑法改正で有期刑が最長30年に引き上げられたこともあり、年々延びている。

仮釈放の条件は極めて厳しく、服役から30年たってようやく審理の対象となる。2013~17年の5年間で、同刑務所で仮釈放された無期受刑者はわずか22人。仮釈放率は1%未満と、現実は厳しい。40年以上の服役も6人おり、高齢化の一途をたどる。

高齢化は医療費の増加につながり、刑務所経費を押し上げる。同所では1人に年間347万円が必要で、1日におよそ1万円の計算。原資はすべて税金。

治療に保険は適用されず、重篤な症状だと医療費が激増する。例えば、糖尿病なら1カ月に50~60万円かかるケースがあり、がん治療では500万円の治療費請求があったことも。再び刑務所に戻らない社会を目指す理由の一つだ。
◆“受受介護”で実習
同刑務所では、釈放後に就労できるように資格取得も支援。受刑者が、より高齢の受刑者を介護する「老老介護」ならぬ、“受受介護”で実際の経験を積む。高齢者や障害者が多い工場で毎週火曜日、要介護者約20人をモデルに、介護福祉科の訓練生5人が入浴や排せつの介助を学んでいる。

介護の面から、同工場の入浴場の造りは特別仕様。通常の約200平方メートルの入浴場と異なり、床に転倒予防の青いマットが敷かれ、介助用器具も整う。

在所中に介護職への就労内定者は、2016年度に2人、17年度は1人。介護職は他業種よりも雇用ニーズが高く、担当者は「高齢受刑者が“生きた教材”になっている」と意義を強調する。

高齢者が多いだけに健康維持にも配慮。昨年4月、月2回認められるクラブ活動に「高齢受刑者向けヨガ」を追加した。60歳以上の9人がヨガの講師から呼吸法などを学ぶ。「よく眠れるようになった」「イライラしなくなった」。生活改善にもつながっている。

◆再犯なき社会へ
再犯防止へ大きな効果がある雇用確保に向け、地域と連携した取り組みも続ける。対象となる長期刑受刑者に、釈放の3カ月~半年ほど前から民間の就労支援スタッフによる個別面談を実施。希望者にはハローワーク職員が求人情報を提供し、条件が合えば採用面接に進む。

出所者を雇う「協力雇用主」の開拓も進めており、現在県内で約690社が受け入れを承認している。在所中の内定者数は16年度6人、17年度は12人に倍増。職種も清掃業、土木建築業、飲食業など多岐にわたる。担当者は「今後は当所の主力作業である革工や木工作業関連の雇用を増やしたい」と意気込む。

出所後の自立が困難な高齢者や障害者への支援も強化。09年度から非常勤で配置していた社会福祉士に加え、本年度からは常勤の福祉専門官1人を配置。更正保護施設や地域生活定着支援センターなど福祉機関とも連携し、帰る場所の確保や福祉サービスの受給調整に努めている。

効果は数字に現れ、出所後再び刑務所に戻る「再入率」のうち、2年以内は全国平均の18%に比べ6・9%(15年、無期受刑者を含む)と大きく下回った。

政府は、21年までに出所後2年以内の再入率を16%以下に減らすと設定。同刑務所はさらに厳しい目標を掲げ、「継続的な指導を続け、出所者の誰もが再犯せず社会に適応できるよう取り組む」と再犯防止への決意を新たにした。