市川市 イケてない政治をアプリ、トークンで変える

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「ワンチャンいける」19歳社長のエモい野望と余裕 イケてない政治をアプリ、トークンで変える

 

37歳のおっさん記者から見た19歳は「新人類」だった―。すでに死語だが、語彙の限りで一番しっくり来る表現だ。

市民と政治家のコミュニティをつくるスマートフォンアプリ「ポリポリ」。開発・運営をする企業「PoliPoli」の社長で、起業の中心となった伊藤和真氏(19)と初対面した時の印象だ。慶応大商学部の2年生でもある。

18日に投開票される福岡市長選の特設ページが、ポリポリのアプリ内に作られている。その企画の準備で西日本新聞社を訪れた伊藤氏。オンラインで事前に話していたとはいえ、Tシャツ姿の19歳は開始から数分で打ち解け、ベテランの社員たちと気さくに渡り合っていた。

4日には高校生を中心に福岡市で10代、20代を集めたアイデアソンを実施。「屋台」「朝課外」「性犯罪の抑制」などについての学生の提言に、審査員的な立場で建設的なコメントを次々と返した。

何なんだ、この余裕は。決して尊大、失礼ではない。受け答えは丁寧で、こちらの話もよく聞く。チャットの応答も早い。それでいて、言うべきことは臆せずはっきり言う。

彼の「余裕」のベースは何なのか。
トークンを使ってアプリ利用の動機づけ
「ポリポリ」は市民や政治家などが意見や質問を投稿し、他のユーザーの意見を募るアプリ。「地方交付税って何のため?」「福岡市の屋台は存続できる?」など幅広い意見が交わされている。

地方議員を中心に150人以上の政治家が登録し、中には積極的に使う議員も。9月の沖縄県知事選では立候補した4陣営のうち、3陣営がユーザーの質問に答えた。

ただ現状では、従来のSNSを超えるような機能を持ち合わせているとは言い難い。最大の企ては「トークン」(代替貨幣)でアプリ利用の動機づけをしようとしている点にある。

仕組みはこうだ。まず投稿に「いいね」が多く付くと、市民ユーザーの「信頼スコア」が上がる。信頼スコアが高い人ほど、トークンが多くもらえる。ただ、信頼スコアの機能は既に実装されているが、トークンの配布開始時期はまだ決まっていない。

「いいね」が多いほどトークンがもらえるため、投稿を促したり、投稿の質を上げて誹謗中傷や荒らしを未然に防いだりすることができる。さらに、そのトークンを贈って政治家を応援する「献金」のような機能を持たせることも計画している。

「今でも、政治とか別にあんま興味なくて」と語る伊藤氏。ポリポリ開発のきっかけは、大学入学後のある成功体験だった。

「俳句がすごく好きで。フィードバックをもらいたかったけど、周りに俳句やってる友達もいなかった。投稿やシェアする場がないから自分で作ろうと思って」

「Swift」というプログラミング言語を「死ぬ気で2、3カ月勉強」して、独力で俳句投稿アプリ「てふてふ」を作り上げた。(その後、毎日新聞社に事業を売却した)

福岡市でのアイデアソンを訪れ、高校生らの発表を見守る伊藤氏
コミュニケーション「すごいエモい」
「マーケティングしてないのに、ユーザーが数千人ついて。びっくりしました。コミュニケーションが生まれるのを見て、『すごいエモい』、面白いなって思ったんです」

当時は18歳。「社会に対して言うことなんて、ほぼ聞いてもらえない年齢じゃないですか。でもネットでサービスを出すと実際に数千人が動いて、価値を感じてくれた」

アプリ開発を通じて知り合ったプログラマー仲間との何気ない会話が、ポリポリにつながる。「政治って、イケてるサービスないよね」「作ってみようか」――。

伊藤氏は言う。「『政治に興味ない』っていうのは、外交とか国政とか、いわゆる『高尚』な話題に限った意味ですね。政治は『課題解決』。道路が狭いとか、治安が悪いとかいった問題を政治家に伝えること、それも政治だと思っている」

「でも政治家と市民が離れている。誰かが悪いわけじゃなくて、めちゃくちゃ情報や課題が増えて、政治とか行政に任せとけば何とかなった時代じゃなくなった。18歳の年に衆院選があって、実際に政治家の活動を見たんですけど、『マジ、イケてねーな』って思ったんです。困ったときに市民が政治家にアクセスできる仕組みが必要だと思いました」

昨年11月、千葉県市川市の市長選挙で大学の同級生らと、ポリポリのテスト版ともいえるアプリを作った。千人ほどのユーザーを獲得。手応えの一方で、ビジネス的には成り立たないとも感じた。
「政治はやめとけ」出資要請ほぼ断られる
そこで思い付いたのが「トークン」だ。トークンをユーザーに配布しつつ運営サイドも保有。アプリ内でトークンが活発に利用され、価値がついたのちにトークンの上場や、法定通貨と交換することなどで、収益を得る。

「政治にブロックチェーンのような新しい技術を絡ませたら、面白い。『ワンチャンいけるな』(訳:もしかしたら成功できるかもな)と思って、会社にしました」

今年2月、慶応大の同級生3人で起業。現在は外部のエンジニア4人に業務委託もしており、アプリはデザインを含めてほぼ内製している。

起業の資金はどう集めたのか。実は伊藤氏はアプリ開発と並行して、福岡市のベンチャーキャピタル「エフベンチャーズ」でインターンをしていた(現在は退職)。愛知県瀬戸市出身、横浜市在住の彼が福岡市長選に着目したのはこの縁が大きい。

ポリポリの事業化へ出資を求めて回ったが、要請の9割は「政治はやめとけ」「儲からない」などと断られたという。それでも結果的にはエフベンチャーズやメルカリの役員、家入一真氏らのファンド「NOW」などから数千万円の資金を得た。この経験が19歳らしからぬ「余裕」を生んだのかもしれない。

マウントを取る人のアドバイスは聞かない
「僕は基本、マウントを取るような人のアドバイスはほぼ聞かないっすね。『君はこうした方が良い』とか、価値観に関するようなアドバイスは、尊敬している人じゃないと聞かないっすね」

一方で、福岡市長選に向けた新聞社での打ち合わせでは、社員の発言にうなずく場面も多かった。「福岡の状況は地元の人の方が詳しいので、聞くのが当然」。社長としての報酬を尋ねると、「月5万円以下とか。今はゼロですね。学費は親に出してもらってますし、運転資金、サービスの発展が優先です」。あっけらかんと答えた。

ポリポリのサービス開始から約4カ月。数千人のユーザーが付いたが、指標として「一番大事にしている」のはコメントした人の数だ。記者がアプリを使ってみた限りでは、コメントする人は見覚えのあるアイコン、つまり常連が多く、登録しただけ、読むだけの人がまだまだ多そうだ。
信用を先につくる、リアル世界で地道な努力も
アプリは現在アイフォーン版のみで、PCでの利用を想定したウェブ版は開発中(37歳記者には、PCでないと長文入力がつらい)。アンドロイド版のリリースは未定。トークンの実装もまだ視界には入っていない。

伊藤氏は「弁護士と相談しながら(事業の)手続きを進める」としつつも、「実際、ICO(トークンの公開・販売による資金調達)は法律的にも倫理的にも問題が多い」と語る。

トークンエコノミーを取り巻く環境やイメージの不安定さも認識している。だからこそ、「サービスをちゃんと使ってもらって、コミュニティをつくる。実績を先に作れば健全だし、『詐欺じゃない』と思ってもらえますよね」。収益より信用が先、という方針は揺らいでいない。

アプリの開発はもちろん、政治家や立候補者の陣営に直接会って利用を依頼したり、ポリポリ側で入力を代行したりといった、地道な努力も重ねている。東京都港区や渋谷区では行政への意見をアプリ内で募り、区に伝える取り組みも始めた。市民にも地方議員にもユーザーは増えている。

伊藤氏も指摘するように「ネット×政治」で大成功した、といえるようなサービスはなかなか出てきていない。確かに、ポリポリのアクティブユーザーが飛躍的に拡大し、トークンでの収益化にたどり着くのは難しいだろう。

「だから面白いんですよ。僕らは単純なビジネスじゃないんで。社会システムを変えるようなムーブメントにしたい」

楽観的、大言壮語のようでもあるが、行動し続ける19歳の言葉は強い。ポリポリは出発点。軌道修正や新たなサービスを経ながら何かを成し遂げるのではないか。彼の「余裕」に、そう感じずにはいられなかった。