平昌五輪・日本のエースたち~金メダル目指す5人~

平昌五輪・日本のエースたち~金メダル目指す5人~

【小平奈緒】泰然と「出し切る」

スピードスケートW杯第4戦の女子1000メートルで1分12秒09の世界新記録をマークした小平奈緒=2017年12月10日、米ユタ州ソルトレークシティー【時事通信社】
2月9日に開幕する平昌五輪まで、あと1カ月を迎えた。世界の頂点を狙う日本のエース5人の現在を追った。
◇オランダで手に入れた幹
間違いなく金メダルへの最短距離にいる。スピードスケート女子の小平奈緒(相沢病院)。ワールドカップ(W杯)の500メートルで昨季からの連勝を15に伸ばし、1000メートルでは世界記録を樹立した。3度目の五輪となる平昌に向けて「これまで経験して積み上げてきたものを、ベストの状態で出し切る」と誓う。
500メートルで5位と、メダルに届かなかったソチ五輪を「息苦しかった」と振り返る。期待に応えたいという思いは4年前、重圧としか感じられなかった。今は違う。力を蓄えて注目度は前回をはるかに超えるが、泰然と構えて「自覚を持ちながら自分に向き合えている」と言える。着実に残した好成績が余裕を生む根拠の一つ。もう一つが、スケート王国オランダに2年間拠点を置いて師事したマリアンヌ・ティメル・コーチの教えだ。
ティメルさんは現役時代、2006年トリノ五輪女子1000メートルで2大会ぶりに優勝した。その時に見せた「獣のようなまなざしの鋭さ」が、小平の印象に強く残っていた。ソチで表彰台に上がれなかった自分に欠けていた、集中力の高め方と殺気。引退した女王から直接指導を受け、金メダリストの視線の先に何があるのかを学んだ。今は似たような雰囲気を醸しだせる自負もある。「自分の中に幹がある感じ。動揺せずにレースを組み立てられている。どこか自信のなかった自分とはお別れできたかな」。4年に1度の大舞台で、今度は力を出し切れる予感を口に出すことができる。
小学生だった20年前。地元で開催された長野五輪で、清水宏保や岡崎朋美がメダルに輝いた姿をテレビにかじりついて見た。今度は自分が憧れの的になる決意だ。「ゴールの先に『感動した』という人たちの笑顔がある。それを見るために頑張りたいと思う」(2018年1月9日配信)

 

【羽生結弦】間に合うか羽生

フィギュアスケートのGPシリーズ第1戦、ロシア杯の男子フリーで演技する羽生結弦=2017年10月21日、モスクワ【時事通信社】
◇ぼやける連覇への道
フィギュアスケート男子で66年ぶりとなる五輪連覇への道が、ぼやけている。羽生結弦(ANA)が描いた平昌への青写真は右足首の難しい負傷で修正を余儀なくされた。どんな姿で復活するのか。まだ見えてこない。
昨年11月9日。NHK杯開幕前日の公式練習で今季から取り入れた4回転ルッツの着氷に失敗し、右足が不自然な方向に曲がって転倒した。足関節外側靱帯(じんたい)損傷。けんと骨の炎症も併発し、1カ月以上も氷から離れた。氷上に戻った時点で、五輪まで約2カ月になっていた。
今季の羽生はルッツを加えて4回転を4種類に増やし、計7本を跳ぶ構成に挑んでいた。復帰しても、懸念されるのはスタミナ。ある関係者は「4回転(の種類、本数)を減らすとか、構成の内容も考える必要があるかもしれない」と話す。
2季前のグランプリ(GP)ファイナルで世界歴代最高の合計330.43点を出した。当時の4回転はサルコー、トーループの2種類で計5本。スケーティング技術、技のつなぎ、演技、構成、音楽の解釈を評価する演技構成点は10点満点に加えて9点台後半が並んだ。ある国際ジャッジは「その時の最高レベルの技術を全て含んでいないと10点はなかなか出ない」と言う。それでも、4回転を2種類にとどめてGPファイナルの演技を再現すれば今でも合計320点近くは出ると分析する。
ジャンプは全て右足で着氷するが、サルコーは左のエッジ、トーループは左のトウで踏み切るため右足への負担は比較的小さい。羽生は今季序盤に「それ(4回転2種類)にしたらほぼ全ての大会でミスなくできる手応えはある。ただ、そうすると自分がスケートをやっている意味がなくなってしまう」と話していた。しかし状況は変わった。(2018年1月9日配信)

 

【高梨沙羅】女王、正念場の冬

W杯ジャンプ女子個人第3戦での高梨沙羅の飛躍=2017年12月3日、ノルウェー・リレハンメル【時事通信社】
◇追われる苦しさとの闘い
W杯通算で53もの勝利を重ね、総合優勝は4度。ノルディックスキー・ジャンプ女子の世界で常に主役だった高梨沙羅(クラレ)が正念場を迎えている。昨年12月に開幕した今季W杯は4戦を終えて4位、4位、3位、3位。男女を通じて史上単独最多となる54勝目を挙げられないまま年を越した。
冬に入って気候に恵まれず、練習量が不足して自身のジャンプを完成させられなかった面はある。だが、以前なら100%の力を出せなくても勝てたが、海外勢が一気に力を伸ばしてきた。マーレン・ルンビ(ノルウェー)とともに序盤の4戦で2勝ずつを分け合ったカタリナ・アルトハウス(ドイツ)について、高梨はこう評する。「テークオフ(踏み切り)の姿勢までの動作にロスがない。空中で無駄な動きをせず後半まで持っていける」。技術の高さでは一枚上だった自分が認めざるを得ないほど、トップ選手の技量は上がった。
昨年は日本チームの同僚、伊藤有希(23)=土屋ホーム=も成長。もはや絶対的な女王ではない。17年を振り返って自身を表す漢字に「改」を選んで言った。「改めて痛感させられたことが多かったから。切り替えや対応力の遅さ。もうちょっと自分を変えていかなければならない」。危機感がにじむ。
前回のソチ五輪で金メダルの本命とされ、重圧の中で4位に沈んだ。今回は経験も重ね、「自信は4年前よりしっかり持っている。気持ちを強く持てていることには間違いない」。強調できるよりどころがあるのは好材料だろう。追われる苦しさを乗り越え、悲願の金メダルにたどり着けるか。1月のW杯で、手応えを得たい。(2018年1月9日配信)

 

【渡部暁斗】「キング」の輝き求めて

W杯複合個人第2戦で今季初優勝を果たした渡部暁斗=2017年11月25日、フィンランド・ルカ【時事通信社】
◇内容にこだわり
ジャンプと距離との異なる技量を求められるノルディックスキー複合。勝者は「キング・オブ・スキー」とたたえられる。前回ソチ五輪や世界選手権で銀メダルを獲得し、W杯総合で3度2位になった渡部暁斗(北野建設)にとって、平昌五輪は「1位しか目標にならない」。キングの輝きを手にしたいと願う。
ジャンプ選手と遜色なく飛び、距離選手に負けない走りをするのが渡部暁の理想像。「どっちも抜け目がないみたいなのが、コンバインド(複合)選手の僕のあるべき姿」。高いレベルの競技観は、まさに王道を行く。
昨年11月にフィンランドのルカで行われたW杯第2戦では、前半飛躍で大きく奪ったリードを生かし、後半距離は一人旅で優勝。もちろん笑顔はあったが、心底満足している様子はなかった。
「こんなぬるいレース、と言ったら何だけど」と口を開き、「フィニッシュラインを切るまでハラハラしても勝てる、そういう渡部暁斗を見せたい」。単純に勝利を追い求めるのではなく、見る者を引き付けるレースをした上で勝ちたい。「やっぱりそれが面白いじゃないですか」。描く理想は高い。
五輪が近づき、どこで誰に聞かれても発する目標は「金メダル」。経験を重ね、円熟味も増して迎える4度目の五輪は、これまでの競技人生で最も頂点に近いと感じている。「『メダル』や『いいパフォーマンス』と濁すのではなく、言い切るのが大事。本当に手に入れたいものは口に出していくべきかなと思う」。堂々とした姿勢、正攻法で頂点を目指していく。(2018年1月9日配信)

 

【平野歩夢】19歳、大技狙う

W杯スノーボード第3戦、男子ハーフパイプで優勝した平野歩夢(中央)=2017年12月21日、中国・張家口【時事通信社】
◇銀から4年、成長示す舞台
プロの世界で磨いた滑りを引っ提げ、成長した自分を示す舞台。スノーボード男子ハーフパイプの平野歩夢(木下グループ)は、平昌で4回転の大技挑戦を目標に掲げる。中学3年で銀メダルを手にしたソチ大会から4年。「圧倒的な滑りで勝ちたい」。2度目の五輪で再び周囲を驚かせるつもりでいる。
昨年12月に米国で行われたW杯今季第2戦。縦に2回転、横に4回転する大技「フロントサイド・ダブルコーク1440」を完璧に着地してみせた。演技後半には3回転半の技も組み込む高難度の構成で4季ぶりの優勝。続く第3戦ではさらに完成度を高めた滑りで連勝した。昨季は左膝靱帯などを痛めた大けがをしたこともあり、「結果としてはいい段階を踏んでいる。流れはすごくいい」。復調ぶりを確かめ、言葉に実感を込める。
ソチからの4年間を「当然次の五輪も期待される。自分自身が変わろうと思って過ごしてきた」と振り返る。プロ活動に軸足を置き、16年には賞金大会のXゲームズで優勝。強みとする高さと高難度の技を磨き、揺るぎない実力をつけた。フロントサイドの4回転に手応えをつかみ、五輪本番ではさらに、通常と逆の足で踏み切る「キャブ・ダブルコーク1440」につなぐ連続の4回転挑戦を見据える。
好調が評価され、昨年末には他の男子選手より一足早く五輪代表に決定した。「前回は銀メダル。五輪で目指すところは一つしかない」。大学生となり、選手として成長した視線で見つめるのはただ一つ。世界の頂点だ。(2018年1月9日配信)