意外な混雑路線も登場 首都圏通勤電車混雑率ワースト20――2018上半期BEST5
2018年上半期、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。鉄道部門の第2位は、こちら!(初公開日:2018年6月18日)。
都会ぐらしの辛いところといえば、なんと言っても満員電車である。朝の通勤時間帯、まっすぐに自力で立つこともかなわないような絶望的な混雑の中、日々体力をすり減らしながら職場や学校に向かう……。特にこれから暑くなるシーズン、車内のエアコンなど焼け石に水で、汗だくになることも増えるだろう。
と、かくも厳しい通勤地獄。ならばできることなら混雑の激しい路線の沿線に暮らすのは避けたいもの。そこで、今回は毎年国土交通省が公開している鉄道の混雑率調査をもとに、首都圏の通勤電車の「混雑ランキング」を見てみることにしたい。
そもそも、混雑率とは?
さっそくランキングを……と、その前に混雑率という数字について。混雑率は各路線ごとに最も混雑の激しい区間についてピークの1時間を切り取り、実際の輸送人員を輸送力(定員)で割って算出されている。さらに国交省ではその混雑率と混み具合の体感の目安も示してくれているので、まずはそちらを紹介しよう。
100%⇒定員乗車。座席につくか、つり革・ドア付近の柱に摑まることができる
150%⇒新聞を楽に広げて読める
180%⇒折りたたむなど無理をすれば新聞を読める
200%⇒体がふれあい相当圧迫感があるが、週刊誌程度ならなんとか読める
250%⇒電車が揺れるたびに体が斜めになって身動きができず、手も動かせない
読者諸兄も、普段乗っている満員電車の混雑具合と照らし合わせてなんとなく混雑率が想像できるのではないだろうか。そんな目安を踏まえて、2016年度の首都圏通勤電車混雑率ワースト20をご覧いただこう。
最も混雑している東西線でも199%だから、「電車が揺れるたびに体が斜めになって身動きができず、手も動かせない」というレベルの混雑はないというわけだ。さらに今や車内の過ごし方は新聞や週刊誌ではなくたいていがスマホ。東京の鉄道の混雑は、手のひらサイズのスマホをいじるくらいのスペースはなんとかある程度なのである。
武蔵小杉駅を巡る混雑状況
最混雑区間は東西線。次いで総武線各駅停車錦糸町~両国間が2位に入った。他にも総武線快速や京葉線もワースト20にランクインしており、東京東部から都心に向かうルートの混雑ぶりが際立っている。これらの路線、しばしば強風の影響でダイヤが乱れることもあり、混雑に遅延にと、利用者はかなりの苦労を強いられていることだろう。ちなみに、同じく東京東部から都心方面に走る京成電鉄では最大でも押上線京成曳舟~押上間の150%。東に住むなら京成線沿線を選ぶのがベストということになりそうだ。
また、特に目を引くのが最近しばしば話題にもなる武蔵小杉駅を巡る混雑。南武線から武蔵小杉駅で横須賀線・湘南新宿ラインに乗り換えて……という通勤ルートをたどる人が多いと見えて、南武線も横須賀線も武蔵小杉駅付近で190%前後の混雑となっている。ただ、この南武線から横須賀線・湘南新宿ラインへの乗り換えは徒歩で10分ほどの道のり。1時間に1万人以上がぞろぞろと歩いて乗り換えるのだから、大行列ができるのも当然だろう。
さらに武蔵小杉の街自体も高層マンションが林立して発展著しいエリア。確かに武蔵小杉は東横線・目黒線を含めて4路線が交わり、交通の便はかなり良好だ。とはいえ、それに惹かれて転居先に選んでしまえば、地獄の満員電車を引き受けるなることは忘れてはならない。
また、意外にも思える混雑上位が4位の日暮里・舎人ライナー。沿線に行楽地があるわけでもなく、沿線住民しか乗る機会はないような路線だが、それが180%を大きく超える混雑を見せているのだ。背景には、他の路線の輸送力が数万人に及ぶのに対してこちらはわずか4410人と、その輸送力の低さがある。東京都交通局では、2008年の同線開業以来運転本数を増やして輸送力を限界まで増強してきたが、沿線の人口増加に全く追いついていないのだ。日暮里・舎人ライナー開通までは鉄道空白地だったこのエリアの発展、いかに鉄道の威力が大きいかを教えてくれる。
田園都市線はすでに限界を迎えている
日暮里・舎人ライナー同様に輸送量限界で苦しんでいるのが東急田園都市線。東横線や目黒線も屈指の混雑路線ではあるけれど、混雑率180%超えは圧倒的だ。大半で地下を走っている田園都市線では、複々線化などの輸送力増強策も難しく、すでに列車本数は限界状態。この路線は都心部に通勤するオジサンたちに加えて渋谷・表参道に向かう若い女性も多く、夏場はオジサンと女性の香水の匂いが入り混じって車内は地獄……なんて話もしばしば耳にする。できれば転居先には選ばない方がいいだろう。
と、こうして混雑率がヤバイ区間を見ていくと、結局首都圏で暮らすなら地獄の満員電車は不可避のように感じられてくる。確かに、山手線を中心に放射状に伸びるほとんどの通勤路線が170%以上の混雑率。どうしたってこれを回避することは難しい……。が、諦めてはいけない。一見他の路線と変わらない混雑に見えて、あわよくば座って通勤するチャンスもある沿線があるのだ。それは、中央線沿線である。
うまくやれば座って通勤も? 中央線の底力
中央線快速の混雑率は中野~新宿間でワースト6の187%。これだけを見れば、「いくらなんでもヤバイじゃないか」と思うかもしれない。しかし、この区間を走っているのは中央線快速だけではない。中央・総武線各駅停車が三鷹から都心に並走しているし、中野駅からは東京メトロ東西線も都心に乗り入れる。この3路線の混雑率を改めて見てみよう。
中央線快速 中野~新宿 187%
中央・総武線各駅停車 代々木~千駄ヶ谷 93%
東京メトロ東西線 高田馬場~早稲田 126%
いかがだろうか。中央線快速こそ絶望的な混雑だが、各駅停車に至っては100%を下回っているのだ。この混雑率はそれぞれの路線での最混雑率区間。つまり、各駅停車の三鷹~代々木間なら93%以下であるということ。特に各駅停車は三鷹駅始発だから、うまくすれば座って通勤することも可能なのだ。くわえて、通勤時間帯は3本に1本が地下鉄東西線直通と利便性は◎。新宿までの所要時間は、各駅停車と快速で2~4分程度しか変わらない(20~24分)。
満員電車は鉄道会社のせいじゃない
中央線沿線の東京西部といえば、「混みまくり」「電車が遅れまくり」というイメージが先行しているが、実際には座って通勤するチャンスがある数少ない沿線ということ。ちなみに、山手線駅からの終電が最も遅い路線もこの中央線で1時1分三鷹行だ。少しでも満員電車を回避したいと思うなら、中央線沿線は実は狙いめなのである。
なお、最近やたらと満員電車が問題視されているが、そもそも長い目で見れば混雑率は減少傾向にある。1975年の東京圏の最混雑区間の平均混雑率はなんと221%もあるが、今では165%まで軽減されている。これは鉄道各社の輸送力増強策のおかげ。輸送力は1975年と比べて実に1.6倍にもアップしているのだ。決して「満員電車は鉄道会社の怠慢」などではないことを最後に強調しておきたい。