松戸市 やっぱり、「母になるなら、流山市」なのか
経済成長が鈍化する今、地方はこれまでのモデルのように交付金といった中央からの還付金で生き延びていくことが不可能となった。一方で、若い人材が中央に吸い取られてしまうという構造は変わっていない。こうした状況の中で、地方はどう生きていくのか。明確なビジョンがなければ10年後、20年後、自治体が存在できるのかさえ疑わしい。首長にそのビジョンを問いたい。
第1回目は井崎義治流山市長にインタビュー。都内の駅で「母になるなら、流山市。」というポスターを見かけたことはあるだろうか。子育て世代である30代、40代の移住促進に力を入れたことによって街が活性化した流山市。子育て世代にとって住居を構える場所は当然重要で、共働き世帯が増加を続ける現代では都心回帰の傾向にあると言われているが、やはり一方で豊かな自然の中で子育てしたいという願望を抱く人も少なくはないはず。さらに現実的に日々の生活を回すためには、行政レベルの支援がどれほど充実しているかが死活問題だ。井崎市長にこれまでの取り組みについて聞いた。
井崎義治流山市長
――「母になるなら、流山市。」のポスターが有名ですが、手厚い支援に魅力を感じた子育て世代の流入が目立ちます。
井崎市長:平成17年時点の流山市の人口構成図を見てみると、子育て世代である30代・40代の人口が明らかに少ないことが分かります。少子高齢化が進んでいく中で、まさにこの世代を呼び込むことの重要性は明らかでした。
市長に就任した15年前、流山市の知名度は低く、良くも悪くもイメージが特にない、といった状況でした。逆にこれはチャンスでもあり、流山市は子育てしやすい街であることを知ってもらうために、実際の支援策はもちろん、それをどうアピールしていくかが大事と考え、市役所に「マーケティング課」を設けました。私は長年都市計画コンサルティングの仕事をしていたので、街づくりにおけるブランディングの重要性は認識していました。
――市役所に「マーケティング課」とは聞きなれないですが、職員などの反応は?
井崎市長:当然反発や戸惑いも大きかったです。課を立ち上げる前に私が講師となり、マーケティングを理解するための勉強会を半年間開き、課のリーダーは民間から公募しました。
最初は「たまごクラブ」に2ページ、その後「ひよこクラブ」に4ページの記事広告を出しました。当時自治体がこういった子育て雑誌に広告出稿することはかなり珍しかったと思います。そこから挑戦的な自治体として少しずつ取材も増え、先の駅ポスターも注目を集め、人口増に繋がってきました。知名度と地域イメージが向上することで、選択市民比率(転入者のうち、そこを第一希望の居住地として住宅を検討した人の割合)も、今では66%となっています。
井崎市長:転入者が増え、地域への満足度が高まっていくと、彼らが発信する情報がまた人を呼ぶ、という好循環が生まれます。5~10年前までは基本的に行政からの情報発信がメインでしたが、最近では市民自らの口コミが何よりの信頼できる情報源となっています。タウンミーティングなども、一昔前は退職後の高齢者の方が多かったのですが、最近では引っ越してすぐ、小さいお子さんを連れて家族でやってくる方も増えています。先ほどの「母になるなら、流山市。」のポスターのモデルとなる家族を選ぶコンテストが今年初めて開催されたですが、これも行政ではなく市民が主体的に行なった、といったような動きが出てきているのです。
今、流山市は主体的な市民活動を応援する、という立場にあり、邪魔をしてはいけない、と考えています。市民の知恵を活かす街でありたいと思います。
ブランディング戦略を含め、この人口減少時代に選んでもらう自治体になるために必要なものは何でしょうか。
井崎市長:何もしなければ人口が減少していく時代に何をすべきか――。「4つの条件」が必要だと考えています。「母都市への交通利便性の向上」「良質な住環境の維持・向上」「快適で楽しい都市環境の創出」、そしてそれらをPRしていく「ブランディング戦略」です。これらの要素がないと、地方自治体が生き残るのは難しいと思います。
――「母都市への交通利便性の向上」は、まさにTXの存在が大きいですね。
井崎市長:TX沿線の流山市の駅は3つあり、いずれも秋葉原駅まで30分以内です。これらの駅と連動した市内を走るバス路線網の整備だけでなく、福祉タクシーや高齢者等市内移動支援バス、外出支援サービスなど、交通弱者に対して交通手段の充実を図っています。
――「良質な住環境の維持・向上」は、子育て世代を呼び込むにはなくてはならない施策です。
井崎市長:TXの開発によって流山市の豊かな緑が減ってしまうことが懸念されました。そこで2006年から「グリーンチェーン認定制度」を導入しました。これは、市の基準に沿って接道面に高木を植え緑化した物件に対して市が認定するもので、不動産会社はそれを広告に利用することができ、認定物件の購入者は市内の金融機関で優遇金利で融資を受けられます。認定物件の資産価値を向上させる効果も実証されています。
基本的には流山市は戸建ての住宅が主流なので、良質な低層住宅の住環境のために景観条例(07年)や開発事業の許可基準等に関する条例(10年)では最小区画面積を拡大するなど良質な住環境の維持・創出を図っています。
――「快適で楽しい都市環境の創出」の具体例は?
井崎市長:楽しい広域集客イベント、たとえば、毎年8月のお盆の前の時期に流山おおたかの森駅前で行なわれる「森のナイトカフェ」は、3世代で楽しめるイベントとして、市内だけでなく市外からも多くの人が訪れます。夏らしいイベントで、子どもたちには親水アトラクションを多数設け、親世代には「母親の時短術講座」などを開催、祖父母世代にはジャズコンサートなどが用意されています。昨年の参加者からは、「これまで3世代で楽しめるイベントはなかった」「楽しかったので今年は市外の友人家族を呼んだ」などの声があり、満足度の高いイベントとなっています。
さらに、緑豊かな街を活かして、個人宅の庭を公開する「ながれやまオープンガーデン」、古い町並みを活かした「流山本町切り絵行灯イベント」も人気です。江戸川べりの旧市街の古民家には、外国人もわざわざ訪れます。流山はいわゆる「観光地」ではありませんので、観光という視点では「今あるもので何ができるのか」を大事にしています。
また、子育て支援施策として、都心に働きに出る共働き夫婦を想定して送迎保育ステーションなどを行なってきました。市内の駅と保育園を結ぶこの送迎バスはかなり評判が良く、それが目当てで流山市に引っ越してくる方も少なくありません。さらに最近では「子どものそばで働ける街づくり」という観点からの整備も重要と感じています。市内の働く女性は、出産後仕事を辞めてしまう方も多かったので、この方たちが市内で働けるようにリモートオフィスの設置拡充に力を入れています。
5年後には流山インター付近に東洋一の物流センターが完成します。すべての物流センターに企業内託児所を設けて頂く予定で、既にオープンしたGLPと大和ハウスの物流センターにも、託児所が設けられ、多数の優秀な女性の応募があったそうです。
――しかし、人口が増える一方で保育園や学童クラブの待機児童の状況はどうなっていますか。
井崎市長:2018年4月の保育園の待機児童は29名とゼロにはなっていません。2010年と比較して19年度には認可保育園等の数を4.4倍、定員数を3.6倍に増やし、ゼロにする計画です。学童クラブについても、同様に定員増、新たな施設の開設により、来年の夏休み前までに希望者全入環境を整えます。
――成功例として視察も多く訪れているそうですが、他の自治体でも意識すべきポイントなど教えて下さい。
井崎市長:「明確なビジョンがなければ地方自治体は生き残っていけないのでは」とのことですが、ビジョンだけではなく、それを実現する経営戦略が必要だと考えます。その実現のためにマネージメントとマーケティングが必要です。また行政よく計画を作りますが、いきなり計画を作らないことも重要です。最初は試行錯誤しながらノウハウを蓄積し、成功例・失敗例が積みあげてから計画着手すべきです。一番情報量の少ない時点での計画作成は失敗のモトです。
人口減少時代には量より質を高める必要があると思います。規模や数を追うよりも、良質さの強さを求める、そんな自治体が生き残ると思います。まずは自分の自治体の置かれている状況を正しく把握し、市民の意見に耳を傾け、顕在化したニーズ対応に加えて潜在的なニーズに布石を打っていくことが重要ではないでしょうか。
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子育て世代の流入によって好循環が起きている流山市。駅前送迎保育ステーションなど、共働き世帯にとっては魅力的なサービスだが、実は同様のサービスを行なっている自治体もあるという。なぜ流山市にこれほど人が集まってくるのか、それはやはりすでに「流山って子育てしやすいらしい」という「イメージ」ができあがっているからだろう。そこに至るまでのしくみ、努力は先の通りだ。ブランディング戦略の重要性を改めて実感した。
▼流山市基本情報
人口:188,778人(2018年8月1日現在。前月比+456人、前年同月比+5,420人)
面積:35.32平方キロメートル
千葉県の北西部に位置し、東は柏市、西は江戸川を隔てて埼玉県三郷市と吉川市、南は松戸市、北は野田市に接する。都心から25キロメートル圏に位置し、「都心から一番近い森のまち」を目指す。
かつては江戸川や利根運河を利用した水運で栄え、現在も利根運河を活用した観光地づくりにも力を入れている。
昔からみりん製造業が盛んで、キッコーマンと合併した万上味醂の流れを汲むキッコーマンの子会社・流山キッコーマンが社を構える。
▼イベント情報
<森のナイトカフェ>
2018年8月8日(水)~11日(土)
8日(水)~10日(金)/17:00~21:00
11日(土)/16:00~21:00
流山おおたかの森駅南口都市広場
<流山花火大会>
2018年8月25日(土)
19:00~20:15
本日、松戸市和名ヶ谷松戸リハビリテーション病院より松戸市東松戸
自宅に車椅子にて退院致しました。