浦安市   舞浜アンフィシアター

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ももいろクローバーZが初のミュージカルに挑戦

先日、ぴあ総研が発表した2017年のライブ・エンタテインメント市場規模は5138億円。横浜アリーナやさいたまスーパーアリーナなどの改修があり、5年ぶりに前年割れとなった16年から一転して、過去最高の数字を記録した。伸びが著しい分野の1つが「ミュージカル」だ。17年の市場規模は603億円と前年比8.2%増。ライブ市場全体の2.7%増を大きく上回る伸びを見せた。劇団四季・宝塚・東宝の3強が健在なのに加え、新たな勢力としてホリプロなども頭角を現す。さらに、「2.5次元ミュージカル」の人気も市場拡大を後押ししている

そんな中、初めてミュージカルに挑むのが人気アイドルグループのももいろクローバーZ(以下、ももクロ)。9月24日より舞浜アンフィシアター(千葉県浦安市)で開幕する『ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?』に出演する。彼女たちが舞台に出演するのは3年ぶり。前作『幕が上がる』は平田オリザ氏脚本によるストレートプレイだったが、今作はももクロの楽曲が歌われる「ジュークボックスミュージカル」(既存の曲を利用してストーリーを作っていくミュージカル)となる。

演出は前作同様、映画『踊る大捜査線』『亜人』などの監督で知られる本広克行氏。「ももクロのライブと同じように、観客と一緒に作り上げる世界を目指す」というミュージカルはどんな作品となるのか。本広氏とプロデューサーのパルコ・毛利美咲氏に話を聞いた。
ももクロ版『マンマ・ミーア!』
――9月24日から始まる『ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?』。ももクロにとって2015年5月の『幕が上がる』以来の舞台です。本広さんと毛利さんは前作も手掛けていますが、今回の企画が始まったのはいつごろなんですか?

毛利美咲氏(以下、毛利):企画が立ち上がったのは3年前、舞台『幕が上がる』が終わった直後でした。慣れないストレートプレイで頑張ってもらった後は、彼女たちが弾けられるミュージカルに挑戦してほしかったんです。

本広克行氏(以下、本広):今回は楽しいですよ。演劇って難しい、静かにしなくちゃと思っている人が多いじゃないですか。『幕が上がる』のときも、「おなかが鳴ってもいけない」みたいに緊張しながら見た人がいるかもしれません。でも今回は見る人がハッピーになるサクセスストーリーなんです。

毛利:そもそも最初にイメージしたのが、ももクロ版『マンマ・ミーア!』ですから。客席もももクロの曲で盛り上がれる、彼女たちの曲を使った「ジュークボックスミュージカル」です。

本広:ももクロの曲もたくさん流れます。僕と鈴木聡さん(脚本)であれこれ言いながら曲を選びました。僕はアップテンポの曲から始めたくないんです。舞台は2幕構成ですが、第1幕はバラードが多い。

毛利:今回のミュージカル、本広さんにとってライバルは佐々木敦規さん(ももクロのライブを多数手掛ける演出家)なんですよ。考えているのは「佐々木敦規にどう勝つか」ですから(笑)。

本広:佐々木さんには「僕にはできないセットリスト」と言われました。でも第2幕で爆発しますから。イメージ的には2013年の「5th DIMENSIONツアー」。あれも第2部で大盛り上がりだったじゃないですか(2部構成の5th DIMENSIONツアーでは、第1部はサイリウム使用禁止だった)。

毛利:ももクロが歌う新曲もありますし、ももクロの曲にメンバー以外のキャストが加わることもあります。

本広:普段、彼女たちがやっている歌と振りに、歌のうまい人たち、踊りのうまい人たちが大勢加わる。すごい迫力ですよ。本人たちも唖然(あぜん)とするくらい。共演する妃海風(ひなみ・ふう)さん(女優、元宝塚歌劇団星組トップ娘役)や、シルビア・グラブさん(ミュージカル女優、歌手)が歌う曲もあるんですが、同じ振りでも表現が違うんですよ。かっこいいんです。

毛利:歌も迫力がありますよね。稽古では、みんなも真剣に見入っていました。

本広:ダンスもももクロの振り付けを担当しているAnnaさんにお願いして、コンサートマスターも「ダウンタウンももクロバンド」のバンマス宗本(康兵)君。普段のライブとの共通点や違うところを見つける楽しみもあると思います。

“バカの力”が世界を引っ張っていく
――ストーリーに関しては、高校のダンス部に所属するカナコ、シオリ、アヤカ、レニに、全国大会決勝前日、悲劇が起こるところから物語が始まる、という導入部が明らかになっています。

本広:僕は「ネタバレ禁止」って嫌いなんですよ。もっと話しちゃいましょう。

毛利:そもそも演劇って「結末が分かっているから見ない」というものではないんですよね。シェークスピアのストーリー、みんな知っているでしょう?

本広:4人は交通事故にあって死んでしまうんです。そしてカナコ以外の3人は別の人に生まれ変わる。でもカナコは「生まれ変わるのはイヤだ」と拒否して、別の人生を歩んでいた3人を強引に集めて、再びダンスを始めるんです。

4人が集まった後はオーディションを受けて、アイドルグループに加わる。でも、最初に9人いたグループからメンバーが抜けていき、4人が残って……。これ、夢の話なんです。僕は押井守監督の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)という作品が大好きなんです。最初は現実だと思っているんだけど、途中でこれはおかしい、こんなにうまくいくのはおかしいとみんなが言い始める。脚本の鈴木聡さんにあの映画を見てもらいました。

ミュージカルだし、夢の話だから、歌うことも踊ることも何でもやれるんだけど、できあがった脚本を読んで、素晴らしいと思ったのは、それらを結びつけるのが「バカの力」だということ。鈴木さんのすごいアイデアですよ。死んだことも生まれ変わることもイヤだといって、4人が一緒にいる夢を見続けるカナコの物語。僕はやっぱり何かを作り出すのはバカだと思うんです。今はみんな計算高いじゃないですか。だからこそバカは貴重なんですよ。僕も映画ではバカなことを言う。あえて言うんです。そこから動き始める。それって大切なんですよ。僕はバカを信じているんです。

毛利:そして、最後のクライマックスはドームライブ。

本広:普段、「百田夏菜子がいなかったらももクロなんかできないから」とあーりん(佐々木彩夏)は言うんですけど、そこにあえて追い込んで3人のももクロを描きます。夏菜子ちゃんがいないももクロは、たとえお芝居でも3人にとって、すごく寂しいみたいですね。

毛利:私は稽古でそのシーンをやっていると毎回うるうるしちゃう(笑)。

大きく成長した4人の演技力
――本広さんは、まだ本格的な演技をしたことがなかったももクロを起用して映画『幕が上がる』(2015年)を作りました。当時と比べて彼女たちの演技力は?

本広:ものすごく上がっています。映画『幕が上がる』のときは演技を一から教えなければいけなかったのに、今回は俺があおられていますから。稽古でも2日目から台本を見なかった。すごいですよ。

やっぱり夏菜子ちゃんが朝ドラ(2016年度放送の『べっぴんさん』)の現場で成長したのが大きかったと思います。あーりんは昔からスキルがあったし、しおりん(玉井詩織)と(高城)れにも「負けられない」と成長した。3年前とは比べものになりません。

毛利 :『幕が上がる』のとき、私は夏菜子ちゃんの芝居に泣けましたけどね、一番。

本広:夏菜子ちゃんは本当に成長しましたよ。せりふでちゃんと対話するんです。前は言うのに精いっぱいだったけれど、今は歌を歌うときと同じような反応で、せりふをしゃべれている。

ただ女優としてみると、彼女はかなり突飛な女優さん。他の女優とは演出の仕方が違うんです。例えば、芝居が僕のイメージと違ったとき、以前のライブの話をして「あのときの気持ちを芝居の中に入れて」と言うと、演技ががらっと変わる。やっぱり感覚で動いているんですよ。女優としてはそっちのほうが怖いです。化けるので。

ただ、相変わらず全然分かっていないところもあります。「え、この説明をどう読めばそう思えるの?」みたいなとんでもないことも言ってくる。やっぱり彼女は長嶋茂雄なんですよ(笑)。
ももクロのライブみたいに観客も一緒に作る舞台に
――ももクロの楽曲が流れるということは、観客もサイリウムやコールで応えられるのでしょうか?

毛利:SNSでは「使いたい」「使わないで見たい」という声が半々のようです。ただ、どんな公演でも、お客さんを強制したくないし、義務付けたくもないというのが私の立ち位置です。

海外で『マンマ・ミーア!』の公演を見ると、客席も一緒になって盛り上がっていたりするので、それでいいと思うんですけど。ただ日本人はすごく周りを気にするから。どうしようかなと。基本的なルールだけでも提示したほうがいいのか、悩んでいるところです。

本広:僕は立たないでほしいけど、それさえ守ってもらえればサイリウム大歓迎なんですけどね。

毛利:シルビアさんも「コールされると、どんな感じなんだろう?」と(笑)。

本広:コール&レスポンスに関しても、観客に参加してほしいところがあるんだよなあ。ももクロのライブみたいに、客席も一緒に作る舞台にしたいんですよ。

毛利:実際にどうなるかは、始まってみないと分かりませんね。でも、それが舞台の面白さですから。