船橋市
クレカが使える!バスケ界を牽引する千葉ジェッツの「革新的挑戦」〈dot.〉
「あれ、クレジットカードも使えるんですか?」
Bリーグ2シーズン目にあたる昨シーズンの序盤、千葉ジェッツふなばしのグッズショップへ足を運んだときに驚かされた。クラブが発行するイヤーブック(各選手のインタビューなどが掲載されている)などは貴重な資料である。だから、一介のフリーライターとしては、シーズンの頭には試合会場で、そのクラブの新しい資料を探し求める。
2016年9月に開幕したBリーグは、10月から3シーズン目がスタートした。どの試合会場でも進化の跡は見て取れるのだが、クレジットカードを使えるところはほとんどない。それどころか、領収書の発行すらままならない会場も少なくない。
ジェッツの代表取締役を務める島田慎二は、他のクラブに先駆けてクレジットカード決済を導入できた理由をこう話している。
「スポーツチームというのは(利益を追求する存在ではなく)経営が厳しいので資金繰りのためにも、現金がすぐに入ってくるほうがいいですよね。クレジットカード決済では入金が翌月以降になりますし、手数料も取られてしまいますから。ただ、それでもきちんと経営が回っていくという体制を整えたうえで、POSシステムの導入にあわせて、昨シーズンから導入しました」
ジェッツは競技面でも、ビジネス面でも、リーグを引っ張る存在にある。
チームの成績に目を向けると、サッカーと同様にアマチュアクラブを含めた日本一を決める天皇杯で2連覇中で、昨シーズンのBリーグでは準優勝を果たした。
入場者数はBリーグ開幕前から3年連続で国内トップを誇っている。昨シーズンは2位のレバンガ北海道と1試合平均1453人の差をつけた5196人を記録して、断トツのナンバーワンだった。
そして、Bリーグ2シーズン目の売上高は約14億2700万円を記録した。これがリーグ全体で何位にあたるのかは、11月末から12月上旬頃に予定されているリーグの発表を待たないといけないが、リーグのトップ3に入るのはほぼ確実だ。
特筆すべきは、Bリーグ開幕による露出効果の大幅な増加の恩恵を受けられた初年度と比べて、2シーズン目の売り上げが56%もアップしたこと。きちんとした計画がなければ、達成できない数字だ。
Bリーグ2年目からクレジットカード決済を取り入れたのは、POSシステム導入とセットだった。POSシステムというのは、コンビニなどでもおなじみだが、それぞれの商品が、いつ、どの価格で、どのくらい売れたのかをすぐに把握できるシステムだ。
バスケットボールは10分間のクォーターが4つの計40分間で行われており、第2クォーターの合間にも前半と後半を分けるハーフタイムが設けられる。POSシステムを導入したことで、試合日に細やかな調整も可能になった。本拠地の船橋アリーナに用意されているグッズ売り場で、ファンがグッズを主に買い求めるのは試合前と試合後だが、ハーフタイムにも一定数のファンが販売エリアに足を運ぶ。
そこで、試合前のグッズの販売状況を見たうえで、試合が行われている時間を利用して、商品の並び替えも行われている。新商品が予想以上に売れていれば補充もするし、その試合で活躍した選手のグッズを、試合後にファンが訪れるタイミングに合わせて目立つところに陳列することもある。
「NPB(プロ野球)がデパートで、Jリーグ(プロサッカーリーグ)がスーパーならば、バスケットボールはコンビニを目指せばよい」
Bリーグが発足する前のbjリーグに関わった人たちは、実はそんなビジョンを持っていたが、野球やサッカーのように1試合に5万人が訪れることはないかわりに、バスケでは小回りが利く。そして、それを高いレベルで実行しているのがジェッツである。
クレジットカード決済の導入にしても、入念なリサーチの上でのものだった。ジェッツが拠点を置く船橋市はベンチャー企業が盛んで、政令指定都市ではない市町村で最も人口が多い。そんな影響もあってだろうか、リサーチの結果、ジェッツを支えるファンの家庭の平均収入が、他競技を含めたスポーツチームと比べてかなり高いという結果が出た。
もちろん、平均年収でファンを区別することは一切ないのだが、収入の高い家庭の人たちの購買行動を分析すると、クレジットカード決済を導入することは彼らの利便性を考えれば当然の帰結だった。
POSシステムとクレジットカード決済の導入の効果は如実に表れていて、チームのオフィシャルグッズの販売が主となるMD(マーチャンダイジング)の売上高も飛躍的に伸びた。
Bリーグ2年目となる昨シーズンは、初年度の2.44倍となる1億5074万4449円を記録した。
特筆すべきは、代表取締役の島田がBリーグ開幕直後から他クラブに対して経営のノウハウを惜しげもなく公開してきたことだ。その背景には、スポーツはメーカーとは異なり、市場を独占しても発展しないという考えがある。リーグとクラブがともに成長していかなければ、バスケットボール界の成長も望めない。大枠であるバスケットボール界の成長がなければ、ジェッツの飛躍的な成長も望めないという思いがそこにはある。
そして、そんなクラブが競技面でも、経営面でも、Bリーグを引っ張る立場にいることが、今後のバスケットボール界の発展を期待させるのだ。(文・ミムラユウスケ)