インフラ停止させる「電磁パルス攻撃」の対処法 

インフラ停止させる「電磁パルス攻撃」の対処法

 

北朝鮮による核実験や弾道ミサイル発射と並び、新たな脅威として注目を集める「電磁パルス(EMP)攻撃」。もし、攻撃を受ければ、瞬時に電気系統を破壊しインフラが停止。復旧までに数年かかるほど甚大な被害が予想される。

一方で、備えと心構えを万全にしておけば、パニックに陥らないで済むし、被害見積もりも細かにする必要はないという。2年以上前からこの攻撃の危険性を指摘していた元陸上自衛隊化学学校長の鬼塚隆志氏はこう語る。

「何がどれぐらい被害を受けるのかではなく、全部やられてしまうのですから、復旧を最優先ですべき重点インフラから書き出せばいい。個人レベルでは、常々懐中電灯を携帯するのは大事ですね。それと、移動手段として自転車は役に立ちます。EMPで壊れませんから。食料も1週間分確保していれば、3週間ぐらい食いつなげます。水だっていたるところに井戸がある」

国家レベルで緊急にすべきは友好国と連携して高高度電磁パルス(HEMP)攻撃の未然防止策を講じることと、攻撃の被害を少なくする防護準備だ。HEMP防護の規格や勧告はIEC(国際電気標準会議)等で以前から標準化が進んでおり、これに基づいて技術的な準備をする必要があるという。

「まずは遮蔽性の高い実験室を作ること。あらゆる分野の研究者と技術者を集めて、電磁波が入り込まない施設を完璧に作り込むことが重要です。通常の爆弾の対策も兼ねて、地上よりは地下のほうが適していますが、例えば地下鉄の線路や送電線にもEMPは乗ってくるので、そうした外部電源をどこで遮断するかも考えなければいけません」

実際に攻撃を受けてしまった際はどうすればいいのか。

「日本がやられたら世界の経済もしばらくはガタガタになります。そこから復旧を図るのに、電子部品の供給をタイなど東南アジアの先進国と融通し合える関係性を構築するのが大事です。実際こうした支援連携は東日本大震災やインド洋大津波など自然災害のときにはできている」

鬼塚氏が最も懸念しているのは、日本が物心ともに有事の備えが希薄なことだという。

 

「北朝鮮のミサイル発射でJアラートが鳴ったとき、国も自治体も適切に誘導できなかったし、住民のみなさんもどこに避難していいかすらわからなかった。例えばフィンランドでは小さな家でもシェルターがあって、第2次世界大戦でソ連から爆撃を受けたときも死傷者の数がすごく少なかったんです。人口60万のヘルシンキでは、それに加えて働きに来ている昼間人口も合わせて全員が避難できるだけのシェルターを備えていて、場所の周知も徹底しています」

防空壕など既存の避難施設の再確認や改修、新たなシェルター構築など、将来を見据えて取り組むべき課題は多い。

降ってわいたようなHEMP攻撃の脅威だが、存在や研究自体は新しいものではない。日商エレクトロニクスのサイバー対策専任者で、米国の情報機関に勤務していた経験もある今泉晶吉氏が解説する。

「1960年代に、米空軍がニューメキシコ州カートランド基地でEMPの研究をしていたことが75年に明らかになりました。ネバダ州で行われた初期実験で150キロ離れた地点のブレーカーを落としたり、パソコンのデータを消去するような攻撃に利用できることがわかるなど研究が進んでいます。75年よりパルステクノロジーの国際学会も毎年2回開かれており、米国、ロシア、中国などの専門家が入り乱れて研究発表をして盛り上がっています」

 

もっとも学会は軍事研究とは一線を画すが、EMPは核爆発でしか起こせないのだろうか。

「米国議会は、98年に米海軍からトランジスタラジオを作る程度の技術で、小さな段ボール箱大の高周波爆弾の作製報告を受けています。威力は超広範囲から局地と制御可能で、爆発させれば一帯のソフトウェアやデータは壊滅的な被害を受ける。しかし攻撃した側も同様に影響を受けて生活に支障をきたし、パソコンや携帯電話も使えなくなるので、可能性は低いのではないでしょうか」(今泉氏)

そもそも、軍事行動の空間は、陸海空を第1~第3と想定し、第4が宇宙、そして第5がサイバー空間と進化した。今やミサイルの阻止や無人機を落とすためには、敵のコンピューターを壊すことが必要だ。見えない世界での戦いが進化するほど、HEMP攻撃の効果は高まる。しかし、高高度での核爆発という極めて目立つ行動を起こせば、報復は必至だ。米軍基地を巻き込むような攻撃を北朝鮮が実行する可能性は低いとみられている。それだけに、最も怖いのはサイバーテロリストによる乗っ取り、もしくは誤作動を発生させることだろう。鬼塚氏は言う。

「帰属国不明で拠点を変えつつ活動するテロリストグループが相手の場合は、報復する攻撃目標の特定も困難になり、指揮統制や兵器システムの電子機器が破壊されれば有効な報復もできない。いずれにしても、HEMP攻撃を現実の脅威として捉え、関係諸国と連携を深めていくのが急務です」