中国の外交はなぜ韓国に厳しく日本には甘くなっているのか

中国の外交はなぜ韓国に厳しく日本には甘くなっているのか

 

“いいとこ取り”で一貫性がない
韓国の文政権に中国は厳しかった
“文政権の失敗”、“屈辱的な外交”――。
12月13日から16日にかけて、韓国のメディアは、文大統領が訪中したことを手厳しく批判している。それほど、中国の文大統領に対するスタンスは丁重さを欠いたとも言える。
元々、韓国の文政権は“いいとこ取り”で一貫性がないと批判されてきた。9月の日米韓首脳会談にて、韓国は日米との親密な関係を示す一方、経済面での中国との関係を重視して中国にすり寄る姿勢も示す。
そうした一貫性を欠く政治スタンスで、世界の信頼を得られるはずはない。米中両国にすり寄り、自国に有利な状況を作り出そうとする“いいとこ取り”の政策は限界に近づいている。
そうした韓国に対し中国は手厳しかった。
共同声明、共同記者会見のいずれもが行われなかった。これは首脳会談として極めて異例といえる。これまで、中韓両国は歴史問題などで対日批判を行うことが多かったが、今回は目立った言動は見られなかった。
今回の中国の韓国に対する厳しさの背景には、中国外交の基本姿勢に微妙な変化が現れているということだろう。具体的には、米国の孤立化等の要因を考慮して、中国はわが国に配慮し始めたように見える。ある意味では、それはわが国にとって重要チャンスになるかもしれない。

 

微妙に変化している
中国の外交スタンス
今回の文・韓国大統領の中国訪問によって明確になったポイントは、中国がわが国との関係を重視し始めたように見えることだ。中国が、そうした考えを公式に発表することは考え難いものの、さまざまな要因を基に考えると、中国外交の基本スタンスに微妙な変化が見られるのは確かだ。
一つには、南京で開かれた“南京大虐殺国家追悼式典”での習国家主席の対応からも確認できる。同主席は、式典において演説を行わなかった。自らの長期的な支配基盤の強化と持続を重視する習氏にとって、この式典で演説を行い、国家全体に自らの威光を示すことは重要だったはずだ。ところが、実際には演説はなかった。専門家の中には、「演説しなかったことはおかしい」と指摘する声もある。
文大統領の訪問を受けた会合の中でも、中国からはわが国に対する批判などが出されることはなかった。韓国としては、経済面での配慮を取り付けつつ、歴史問題を理由にわが国への批判的な姿勢を中国と共有したかったはずだ。
わが国への批判を共有することで、文大統領は韓国の国内世論に対して、経済と外交の両政策分野で国家にプラスの取り組みを進めているとアピールできる。ところが、今回、中国はそうした韓国の考えを受け付けなかった。
中国が文氏を国賓として迎えたのは、あくまでも儀礼的なものだ。表面的に中韓関係が良好であることを国際社会に示すことはそれなりに重要でもある。対話を軸に北朝鮮問題に対応するためには、中韓関係がぎくしゃくするよりも、円滑であるように見えたほうがいい。反対に言えば、それ以上の考えは中国にはなかったということだ。
中国国内では、韓国国内で米国製の高高度ミサイル防衛システム(THAAD)が配備されていることへの批判も強まっている。習国家主席は対韓批判を強める世論に配慮し、問題を適切に処理するよう求めた。中国のスタンスの変化が確認された一方、韓国は経済制裁の解除など、望んだ回答を得ることはできなかった。

対日関係を
重視し始めた中国の事情
中国は少しずつわが国に顔を向けて、距離感を縮めようとしているように見える。その背景には、国際政治、アジア地域での影響力拡大、国内の安定に関する思惑があるだろう。
国際政治の面から考えると、現在、米国は国際社会からの孤立を深めている。トランプ政権はエルサレムをイスラエルの首都に認定した。その機を逃さず、中国は国際社会への影響力を強めたい。
そのために、世界第3位の経済国であり米国との関係を重視しているわが国に、近づこうとしているとも考えられるだろう。トランプ政権の孤立を浮き出させるためにも、中国はわが国との距離を近づけておくことに重要な意味がある。
もう一つのポイントは、アジア地域での影響力の拡大である。中国は“21世紀のシルクロード経済圏構想”(一帯一路)の下で、アジア各国のインフラ投資を支援し、需要を取り込もうとしている。問題は、インフラ開発を資金面から支援することを目指して設立されたAIIB(アジアインフラ投資銀行)の実務能力だ。
AIIBに加盟する国は増える一方、プロジェクトファイナンスや各国政府との調整に当たる専門家の確保が進んでいないといわれている。それは、国際金融機関の業務運営にとって致命的だ。それに比べ、わが国はアジア開発銀行(ADB)を通してアジア各国の経済開発を支援してきた。その経験やノウハウを取り込んでAIIBの実務能力を引き上げるために、中国が対日関係の強化を従来以上に望んでいる可能性がある。
さらに、中国が必要とするわが国の公害(環境)技術の吸収だ。中国に駐在する商社の知人によると、北京などの大気汚染は一般に報道されているよりも深刻だ。環境問題を放置すると、国民生活の悪化だけでなく、生命の危機にもつながりかねない。
ある環境経済学者は、中国の環境問題は、わが国の4大公害よりも深刻と考えられると指摘している。環境への負担を減らすために、中国は汚染対策技術や省エネ化のためのセンサーなどを必要としている。そうした技術分野において、わが国企業の競争力は高い。
環境問題を放置すれば、工場やプラントの操業度が低下するだけでなく、健康被害の深刻化を理由に共産党への不満や批判が増えるはずだ。環境問題は習国家主席の支配基盤を揺るがす問題である。その問題解決のために中国はわが国の技術力を求めている。
わが国にとって
見逃せないチャンス
今後、経済面でのわが国と中国のつながりは強まるだろう。中国は省人化技術やハイテク産業の強化を重視し、半導体分野でのシェアと競争力を高めようとしている。11月の貿易統計(速報)を見ると、それがよくわかる。わが国から中国向けの半導体製造装置の輸出は堅調に増加している。この結果、対中輸出額は米国向けを上回った。

 

中国は電気自動車の普及も目指している。わが国の企業が強みを持つ、リチウムイオン電池のセパレータなどの部材需要も高まる可能性がある。その分、不祥事などを受けて企業の経営が揺らぐ場合、中国の企業に買収される可能性は高まっていると考えるべきだ。
わが国の政府は、中国のスタンスの変化をうまく利用すべきだ。中国に対しては是々非々の姿勢で臨む。それは、公正な態度で協力できる分野は協力する、海洋進出など、国際問題に発展している点に関しては自制を求めることだ。そのために、日中韓よりも、日中の首脳会談はできるだけ早いタイミングで開催されることが望ましい。
同時に、政府はアジア開発銀行を軸にアジア新興国地域のインフラ開発を支援すればよい。ミャンマーは、インフラ開発を進めたいがあまりに中国との関係を強化せざるを得なくなっている。その結果、ロヒンギャ問題が深刻化し、国際社会から批判を受けている。
そうした国に対しては国際社会の要請を受け入れるように働きかけ、今後の支援の道筋を模索するべきだ。それが、中国の圧力に直面しているアジア新興国にとっても、わが国との関係強化を目指す誘因となるだろう。
インフラ外交を軸に、アジア経済全体の安定と利害の調整を進めることが、わが国の信頼感を高めるはずだ。その取り組みがうまくいけば、日本政府の考えに賛同する親日国を増やすことができる。
親日国が増えれば、国際社会におけるわが国の発言力が増す。安全保障の強化や、多国間の経済連携に向けた議論のためにも、それは不可欠だ。トランプ政権の先行きが不安視される中、わが国が極東地域の安定を維持しながらアジア地域への影響力を高めていくためには、それが有効な発想だろう。