千葉市 エアレース千葉、4年目に感じた今後の課題
「今日の失敗を生かして、残りの5戦をしっかりやっていきたい」
2018年レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ(以下、エアレース)の第3戦が、5月26日と27日に千葉県立幕張海浜公園で開催された。2017年にエアレース世界王者となった室屋義秀選手(45歳)は、エアレース史上初となる母国大会3連覇を目指し、レースに挑んだ。
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予選前、室屋は「今年も千葉で開催できました。昨年ワールドチャンピオンになって凱旋できたことは日本人パイロットとして非常にうれしい」と母国でのレースに喜びを感じていた。
今シーズンを戦う室屋の機体(EDGE 540 V3)の大幅改良が進み、福島でトレーニングも十分行ってきたこともあり、「万全な状態でレースをして良い結果が残せる」と自信もみせていた。
■室屋を襲ったまさかの惨敗
やはり、「千葉3連覇」への期待は大きいものがあった。
室屋の優勝を待ちわびるファンが日本全国にいることに、「今年は今まで以上にエネルギーを感じていて、応援があると最後一踏ん張り頑張れる」とコメントしたが、大きな期待がかかる中でプレッシャーも日に日に増していたことは間違いない。
もともと室屋自身は3連覇ということにはそこまでこだわっておらず、あくまで2年連続で世界王者となることが唯一であり最大の目標だった。そのために、今シーズンの全8戦でつねに上位に食い込んでポイントを確実に獲得することを心掛けていた。
千葉のレーストラックには特徴がある。海上にある全長約6kmのコーストラックは、直線が長く両端には急旋回しなければならないエアゲート(パイロン)もあるのだ。
幕張は基本的に風があり波も立ちやすいので、パイロンが揺れれば非常に高い技術が要求される。
風と波をつねに把握しながら、どのようなライン取りをするかがカギとなった。さらに「レース途中からでも風向きが変わる」こともあるので、慎重にフライトを行わなければならない。まさに高度なテクニックも、より速いスピードも要求されるコースといえる。
5月26日に行われた予選は56秒403を記録し3位で通過したが、風が強く、新しく導入した垂直尾翼の操作が難しかったため、予選前に行われた3回の練習飛行では大苦戦。
パイロンヒットやインコレクトレベル(主翼の傾きを10度以内に抑え水平にエアゲートを通過しなければならない)のペナルティを受けるなど、リズムにまったく乗れないまま予選を乗り切った。
前日飛行の感触を踏まえ、垂直尾翼をうまくコントロールできなかったため、カンヌ戦まで使用していた垂直尾翼に急きょ戻して優勝を目指すことに切り替えたのだった。
■決勝の相手は宿敵マット・ホール
決勝ラウンド・オブ・14では、予選12位のマット・ホール(オーストラリア)と対戦することとなった。ホールは、第2戦のカンヌ大会で優勝しているだけに侮れない相手だ。
だが、これまで何度もドラマチックな戦いを演じてきた強敵との対決は、予想もしない結末となった。
先に飛んだマット・ホールは、55秒529とかなり速いタイムをたたき出したのだ。結果的にこのタイムが決勝ラウンドでの最速タイムとなった。一方の室屋は、空で待機中にホールのタイムを知り、勝負に出なければならなくなった。
スタートから勢いに乗り果敢に攻めると、第3ゲート通過時のバーチカルターン(空に大きく弧を描き1回転する飛行)に入る際、12.41Gを記録してしまった。
エクシーディングマキシマム(最大重力負荷が12Gを超えたため即時競技中断)のペナルティにより、DNF(完走せず)で記録なしの最下位敗退となってしまったのだ。
スタートからわずか7秒後の大アクシデントに、会場にいる誰もが呆然とし、ため息が漏れた。
室屋は昨シーズンも使用してきた慣れ親しんだ垂直尾翼を、千葉の会場ではプラクティスと予選で一度も試すことないままラウンド・オブ・14で投入した。
だが、今までの感覚に頼りながらのフライトは、どうにもならない結果を招いてしまったのは確かだ。
千葉戦を制したのは、室屋を破ったマット・ホール。ファイナル4では安定したフライトにより勝利を獲得し、カンヌ戦に続く2連覇を成し遂げた。
室屋は今回の惨敗を悔やんでいるが、「こういう状況も含めて背負っていくのがプロだと思います」と、目の前にある現実を素直に受け入れていた。
大事な千葉戦で1ポイントも獲得できず、1位の選手とのポイント差が17にまで開いてしまったが、まだ5戦あることを考えれば悲観することはない。
「引き続き注目してほしいです」と闘志も垣間見られるコメントで決勝終了後の会見を締めくくった。
千葉大会順位
1位 マット・ホール(オーストラリア)
2位 マイケル・グーリアン(アメリカ)
3位 マルティン・ソンカ(チェコ)
2018年総合ランキング
1位 マット・ホール 36ポイント
2位 マイケル・グーリアン 36ポイント
3位 室屋義秀 19ポイント
※5月27日時点
室屋は、6月23日、24日に開催される次戦ブタペスト戦(ハンガリー)に向け気持ちを切り替えている。
昨年のブタペストでは3位と良い結果を残しており期待はできるだろう。
室屋が目標に掲げる2年連続世界王者への道は険しいが、シーズンはまだ5戦ある。
室屋義秀の戦いは、まだ終わったわけではない。
■課題も感じた千葉大会
今年で4年目を迎えた千葉大会は、世界各地を転戦するエアレースの中でも最も多い観客動員を誇る大会に成長した。ただ、興行としての持続可能性に課題が残る点は、最後に指摘しておきたい。
5月27日に開かれた会見で、千葉市議会議員の松坂吉則氏は、エアレース千葉大会が及ぼす経済波及効果の試算は約100億円になると述べた。
まさに千葉市にとっても年に一度のビッグイベントといえるだろう。
ただ、過去3年間で動員した観客数は、2015年に12万人、その後2年連続で9万人の延べ30万人。今回は2日間合計で約7万人まで減少した。
決勝のチケット価格は、単日9000円(税込み)から。室屋義秀応援シートエリアは、3万5000円(同、2日券通し券のみ)、さらには30万円(同、2日間通し券のみ)のプレミアムスカイラウンジを設けるなど幅広い価格設定だ。決してエアレースを見るためのチケット価格は、ほかの娯楽に比べても安くはない。
初年度は物珍しさから12万人もの観客を動員したが、今年は昨年比で観客が2万人減ったことを考えると、来年以降開催する際に興行としていかに発展させていくかを検討する必要があるだろう。
「初開催の3年前と比べたら注目度も知名度も数百倍にまで広がった」と室屋は述懐するように、室屋の活躍やワールドチャンピオンとなった効果で、日本にもレッドブル・エアレースは根づき始めたのは事実だ。
千葉市長の熊谷俊人氏は「エアレースを単発のイベントで終わらせずに、街の中で連携して連続性をもって展開していきたい。来年も千葉市としては、ぜひ開催したい」と会見で話した。
もちろん、開催地である千葉市においても、エアレースを通じて世界中に「千葉、幕張」という地名が連呼され、千葉市内も映し出されることで、地域としての知名度向上には大きな効果がある。
これまでは、室屋の一挙手一投足に注目が集まりがちであったが、エアレースというイベントをさらに盛り上げるためにはどうすれば良いか、地元行政や企業、大会主催者が一体となった取り組みをいっそう強化していくことが求められている。