平気で合意を破る韓国と北の会談は結局こんな「無残な結果」で終わる
やっぱりなんの期待も抱けない
去る9日に行われた韓国と北朝鮮の閣僚級会談は、軍事境界線にある板門店で開かれた。会談は11時間に及んだが、専門家によればこれはかなり短かいのだという。ともに譲れない者同士が話し合うので、本来なら2、3日に及ぶのはざらなのだそうだ。
さて、9日の合意内容としては、①平昌五輪への北朝鮮の参加、②軍事的緊張状態の緩和、③南北の問題は韓国と北朝鮮で解決する、というものだった。
なんのことはない。①北朝鮮が平昌五輪に参加してあげるから、②米韓軍事演習をやめて、③朝鮮半島から米軍を追いだせ、という北朝鮮の要求である。たしかにこれなら、短時間で会談が終わるだろう。
もちろん、米韓軍事演習が行われないのは平昌五輪・パラリンピックの期間(2月9日から25日と3月9日から18日までの間)だけだ。北朝鮮はその後の演習中止も要求しているが、これはさすがに韓国も飲めなかった。
しかし、朝鮮半島の問題を韓国と北朝鮮との間で解決することには合意した。その気持ちはわかるが、実際、70年間も出来なかったことをやろうというわけだ。しかも、朝鮮半島は現状「朝鮮戦争の休戦状態」にあり、いまだに国連軍が駐留している。
韓国軍の作戦統制権については、1950年から国連軍が、1978年から米韓連合司令部がそれを継承している。米韓連合司令部は米軍と韓国軍の混成であるが、有事の際には事実上米軍が指揮する。
こうした実態から考えて、韓国と北朝鮮との間で南北問題を解決する、というのは、できっこない相談なのである。できない話なので、韓国も北朝鮮も、最終的にはこれを反故にしても何とも思わないのだろう。
何しろ、北朝鮮はこれまで国際的な約束を何度も反故にしてきた「ならず者国家」である。韓国も先日、慰安婦に関する日韓慰合意を平気で無視する国であることが分かったのだから、北朝鮮との合意を無視することになっても平気なのだろう。
韓国の文大統領は、北朝鮮の米韓分断の提案に乗り、日韓の慰安婦合意も見直そうというのだから、さしずめ北朝鮮の「エージェント」とみたほうが、これらの外交をよく説明できる…といったら言い過ぎだろうか。保守系の朴・前大統領のときはさすがにここまで酷くなかった。
いずれにしても、韓国と北朝鮮の合意なぞ、何の意味もない。
結局、進展するわけがない
筆者も本音では、ここ20年間全く進展しなかった「朝鮮半島の非核化」がこの機会に進めばいいと思っているが、北朝鮮のスタンスをみたら、それは絶望的であることが分かる、実際、北朝鮮は核ミサイル開発を継続することを明言している。
そんな懸念をもっていたら、10日、韓国の文大統領が記者会見で、北朝鮮の核問題をみずからの任期中に解決することが目標だとして、朝鮮半島の非核化に言及した。
それに対して、北朝鮮国営の朝鮮中央通信は14日、「対話の相手を前にして、これほどまでに無礼で愚かなことがあろうか」として文大統領を批判し、「まだ、すべてが始まりにすぎず、大会に参加するわれわれの代表団を乗せた列車やバスはまだ平壌にいることを忘れるな」と、平昌五輪をドタキャンする可能性にも言及して、この「非核化発言」をけん制した。
もともと、北朝鮮の平昌五輪への参加は、最終的な核ミサイル開発の時間稼ぎである。2月、3月の米韓軍事演習が行われなくなっただけで、一応の目的は達成できているのだ。
金正恩氏は、五輪に参加することに意味があるとはまったく思っていないだろう。まして、メダルを取れない種目に参加しても無駄だ、とさえ思っているだろう。朝鮮半島の非核化を条件にされるくらいなら、平昌五輪にはそもそも出ないだろう。
そうした北朝鮮の反応をみた韓国の文大統領は、南北対話の間、朝鮮半島の非核化を言及することはないだろう。結局、南北間の話し合いでは非核化は進まないのだ。
そこで、アメリがどう出るか。アメリカは平昌五輪にペンス副大統領が出席するとしているが、国務省は、11日の記者会見で「アメリカと北朝鮮との対話が行われる可能性はない」としている。
アメリカは、朝鮮半島の非核化、つまり北朝鮮が核ミサイルを放棄しないかぎりは対話しないという原則を貫いており、韓国の右往左往しているダッチロール状態に釘を刺している。
先週のコラムでは、韓国は歴史的にも大陸側の中国と海洋側の日米の狭間で右往左往するのが常なのだと指摘したが、左派の文大統領はその度合が激しすぎる。結局、どちらからも相手にされないで自滅するのではないか。
韓国に当事者能力があるとも言えないので、結局、アメリカと北朝鮮との間の関係にならざるを得ないというのが、筆者がこれまで述べてきたことだ。
このような状況で、日本はどうすべきか。
実はキューバ危機に似てきている
日本政府としても、できるだけの圧力をかけている。昨年12月の10回目の国連制裁では臨検が入ったのだが、臨検は準軍事行為であり、制裁国からしても、「臨検」を出すと制裁のカードが尽きてしまい、次は軍事行動にエスカレートせざるをえない段階に入っている。
13日のNHKニュースで、北朝鮮に対する国連の制裁決議を履行するため、海上自衛隊が日本海や東シナ海のほかに、朝鮮半島の西側の黄海の一部を対象に警戒監視を始めたことが報じられた。
海上で外国の船舶から北朝鮮の船舶に石油精製品が提供されることなどを防ぐために、日本海や東シナ海のほかに、朝鮮半島西側の黄海の一部、南寄りの海域で海上自衛隊が警戒にあたっている。
この活動は、日米連携で行われている。自衛隊は情報収集に徹しており、不審な現場を見つけた場合には、米軍に連絡する。問題であれば、米軍が臨検を行うことになるだろう
こうして冷静にみると、キューバ危機の時の「海上封鎖」の一歩手前まで北朝鮮情勢が緊迫していることがわかる。
もし万が一、朝鮮半島有事になれば、日本経済への悪影響も避けられない。今年の日本経済は、朝鮮半島有事がなければ好調はほぼ間違いないのだが、それが気がかりだ。
これは、今年元旦の本コラム<北朝鮮有事「ある場合・ない場合」の日本経済の行方を教えよう その危機はあと一歩まで迫っている>(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54054)をご覧いただきたい。
とにもかくにも、北朝鮮有事が起こらないことを願うばかりだが、実は日本経済にとってはもうひとつのリスクがある。国外の喧噪をよそに、国内の増税派の動きが騒がしくなっているのだ。
外は北朝鮮、中は増税派
では、増税派がいまなにを考えているか、解説しよう。
今年の政治日程をみてみると、9月の自民党総裁選だけが唯一の重要な政治イベントだ。衆議院任期は2021年10月までで、衆院解散はまずなく、参議院選挙は2019年7月だから、国政選挙のない年である。
平成は2019年4月までで、今年は改元の準備を粛々とするのだろう。憲法改正のスケジュールはちょっと読みにくくなっているが、改元後に国会発議、2019年末に国民投票、2020年7月の東京五輪前後に新憲法公布などのスケジュールが考えられるだろう。
また、すでに2019年10月の消費増税が言われているが、その方向性は今年末にも方向が出るのではないか(もちろん北朝鮮有事なしなら増税だろうが、有事があればわからない)。
こうした政治日程を前提とすると、今年中に増税派は「増税の仕掛け」を考えたくなるだろう。消費増税の軽減税率への対応もあるが、法人税は減税方針なので、あまりいじれない。とすれば、ターゲットは所得・資産税である。
所得税については2018年度の税制改正大綱では900億円増税だった。他にたばこ税は2400億円増税などで、全体で2800億円の増税だった。
対照的なのはアメリカだ。アメリカでは、共和党が35%の連邦法人税率を2018年から21%に引き下げる大型減税法案を決定した。個人所得税の最高税率も現在の39.6%から37%に下げ、概算控除も2倍に増やすという。
その結果、全体の減税規模は10年間で1.5兆ドル、年間円換算で17兆円となる。この減税規模は、過去最大とされた2001年の「ブッシュ減税」を上回るものとなる。
政府貸借対照表のネット負債(資産負債差)額でみると、日米の財政事情には大差がないというか、日本のほうがいいくらいだ。というのは、日本では資産負債差は465兆円(2016.3末)でGDP比87%、一方のアメリカは19.3兆ドル(2016.9末)でGDP比107%だ。にもかかわらず、日本の財政当局が緊縮病にかかる一方で、アメリカはそうはなっていない。
今年も、日本の財政当局の緊縮病・増税病は治ることはないだろう。増税派はついに所得税に手を付けたので、今度は資産税がやられるかもしれない。今年は株高が見込めるのでキャピタルゲイン課税などが狙い目だろう。
北朝鮮情勢が緊迫する中でも、財政当局は増税以外のことが考えられないだろう。景気が多少よくなったからとすぐに緊縮・増税に走れば、再び日本経済は減速する。それが、もう一つの日本経済のリスク要因である。内憂外患とはまさにこのことだ。